CIBONE、avexなどを手掛ける設計事務所DAIKEI MILLS代表として、この街をどう見る?
2009年からVACANTで様々な企画を展開するなか、中村氏の空間デザインに惹かれた人々から仕事のオファーが増えるように。そこで2011年、彼曰く「自然発生的に」誕生したのが、現在も彼が代表を務める設計事務所・DAIKEI MILLSである。
2017年12月に生まれ変わった青山のavex新社屋では、エントランスエリア、レセプションエリア、コワーキングスペースの設計をDAIKEI MILLSが担当。レセプションエリアで目に付く存在感抜群のオブジェは、実は受付カウンター。二次元にしか存在しなかったavexのコーポレートロゴを三次元化するという斬新な手法で制作した
「設立して間もない頃に声を掛けてくださった方のひとりが、デザイン集団CAP代表の藤本やすしさん。ギャラリーROCKETの中でフードイベントも展開したいからキッチンのある空間を設計してほしい、という当時は斬新なお願いが印象的でした。他にも当時青山にあった書店・UTRECHTの広いベランダに小屋を建てて、そこでエキシビジョンをできるようにしたり。空間設計の依頼内容を通して、改めて個性豊かで挑戦的な人の多いエリアだということを感じました」
その後、DAIKEI MILLSはスケール感をアップさせながら急成長。国内外を問わず活躍中だが、VACANTで学んだ考え方が活きることは多いと話す。
2020年3月にクローズ(GYRE地下1階に移転)したファッション界隈で熱いファンを持つライフスタイルショップ・CIBONE AOYAMAもDAIKEI MILLSによる設計。「室内に室外をつくる」をコンセプトに、余白や抜け感をたっぷりと取り入れた空間をつくりあげた。移転後のCIBONEの設計にも携わる
「空間設計を手掛ける際、物件や土地のポテンシャルを活かし、手を加えすぎないことは自分の中のルール。この手法でクライアントの個性や要望を最大限に引き出すことを心掛けています。そういう意味で、アイデアを考えるとき、“その土地は周辺でどのような人々が行き交っているのか”を非常に意識して観察するのですが、表参道・原宿はストリートごとにその特徴が大きく変わりますよね。設計者として、他にない面白みを感じる地域です」
キャットストリートに構えるセレクトショップ・6(ROKU)。外の世界と調和し、風が抜け、光が通ることを重視して設計。外部・内部ともにラフな素材感がカテゴリーにとらわれないブランドの商品構成を受け止めながら、ネオンなどの遊び心により、来店者に宝探しをするようなワクワク感を演出する
一方で、現在の街をこのようにも分析する。
「このエリアは『トライアルの街』という側面がどんどん濃くなっていますね。土地の歴史とは関係のない新たな角度で、国内外の企業がこの街での事業を試み、新店舗やポップアップストアができては消える。スピード感の面白さはある分、カルチャーが根付きづらい状況になっているとも感じます。不可逆な部分も多いと思いますが、運営者の顔だったり地元の人々のエネルギーだったり、もう少し生々しいものが見える形で、うまく資本と混ざり合いながら新しいムーブメントを起こしていくことが、この土地のポテンシャルを最大限に活かす方法だと感じます」
VACANTの運営、DAIKEI MILLSでの設計を通し、10年以上にわたり眺めてきたからこそ分かる、街のポテンシャルと現状。2020年、彼はこの流れに対するカウンターを打ち込むべく、新たなプロジェクトを始動させた。