原宿の空きスペースを“占拠” 新プロジェクト「SKWAT」とは
2019年12月、10年間にわたりカルチャーを創造・発信し続けたVACANTは惜しまれつつクローズ。しかしその直後、中村氏は新たな活動「SKWAT」を開始した。
Google MAPを活用してつくられた「SKWAT」オフィシャルサイト。色のついた場所が中村氏が“占拠”した空間だが、ここで一体何が行われている?
「SKWAT」は、テナントの入れ替わり期間などに発生する遊休物件(空きスペース)を“占拠”し、一時的に文化の発信拠点とする活動だ。(アイデアのもとは1970〜80年代にイギリスで広まった活動「SQUAT(=占拠)」。持ち主の許可を得ずに空き物件を占拠して様々な活動の拠点とする行為だが、当時の法律では、一定期間占拠し続けると居住権が得られた。)
写真中央の青い建物が、活動の第1弾となった「SKWAT」。元はクリーニング店だった古家を“占拠”し、ブルーに。レアなアートブックを取り扱う「twelvebooks」と共同でブックストアを展開した後、ファッション業界で熱い支持を得るデンマークのテキスタイルメーカー「Kvadrat」と共同でファブリック販売を行い、現在は退去済み
この活動を始めた想いについて中村氏は「VACANTを始めたあの頃と同様に、何か時代の移り変わりを感じていたから」と話す。
「現状からの脱却、つまり新たな時代をみなが求めていることに加え、設計者目線では五輪が終われば原宿ではまた空き家問題が発生するという予測もできました。街は再生と破壊を繰り返すものなので、その状況はある側面ではピンチですが、一方でチャンスでもある。空き物件が増える状況と、DAIKEI MILLSでやってきた“ポテンシャルを活かした空間設計”を組み合わせて、カルチャーやムーブメントを起こそうとする人間たちが集まる場、生々しい熱気を街に取り戻せないかと考えました」
「SKWAT in CIBONE」。中村氏が設計を手掛けたライフスタイルショップ・CIBONE Aoyamaのクローズ直前、2週間のみ“SKWAT”し、自らの手でアップデート。グリーンのカーペットが敷かれ、CIBONEの商品である家具を活用しながらカフェ営業も行われた
東京五輪による街の変化を意識したプロジェクトであったが、スタートとほぼ同時に新型コロナウイルスが感染拡大。しかし、計画が停滞することはなく、むしろ加速した。パンデミックによりオリンピックの延期が決定する他、様々な企業・団体の活動が様子見状態となり、必然的に、この街の空きスペースは急増したのだ。
「予想とは違う形で街のピンチが訪れましたが、僕らがやるべきことは変わりません。発生してしまった空きスペースを僕らが“SKWAT”して、共通の価値観を持った人が繋がり、何かが生まれる空間にする。そうやって場の価値を高めることが、街にとってはもちろん、物件を持つオーナーさんにとっても良い働きになればと思っています」
「SKWAT/twelvebooks」。2020年5月29日より南青山・みゆき通り沿いの商業施設「ザ ジュエルズ オブ アオヤマ」の一角を“SKWAT”中。高級ブランドが密集するエリアで200平米の面積を使い「地域の図書館」のような公共性の高い文化的な場を提供している
スタートしたばかりの新プロジェクトを急激なスピードで成長させている中村氏。「トライアルの街」に続く新たな街の1ページをつくろうと企む彼は、「SKWAT」をどのように発展させる予定なのだろうか。
「次の入居者が決まったら僕らは出ていき、また別の空きスペースを占拠して、同じように新たな文化的“場”をつくる。『トライアルの街』の特徴に乗って僕らもポップアップをやっているわけですが、『場所が消えても残るカルチャー』を生み出せれば、現況に対するカウンターが打てると思っています。VACANTの場合は、自分たちで“空っぽ”を作り、そこにコンテンツを招いていましたが、今回の場合は“空っぽ”を探して乗り込みコンテンツを入れるという攻めのスタイル。時代も違えば僕の年齢も違うのでVACANTを再現したいわけでは全くないのですが、VACANTとDAIKEI MILLSを通して得たものを融合させ、新しい仲間たちと、以前よりも成熟した形で、カルチャーを生む化学反応をあちこちで同時多発させられたらと思います」
これまで占拠したスペースには全て、様々な色のカーペットが敷かれていた。中村氏は「あくまでもSKWATにおけるデザインアプローチのひとつですが、カーペットを効果的に敷くことで“棲家”のような場を瞬時に作り出すことができます」と語る
20代前半という若さで仲間たちと裏原宿のキースポット・VACANTをつくりあげた彼が、10年の時を経て今度は街全体を舞台に、全く新しい現代的カルチャースポットを続出させようとしている。その状況に底知れない可能性を感じるのは、筆者だけではないだろう(事実、ファッション界、アート界の“重鎮”たちからの賞賛・応援の声がすでに多数集まっているという)。これからこの街で空き物件を見つけたら、入り口に「SKWAT」の文字が掲示されていないか確認してみてほしい。その奥で、面白いヤツらが集まって、新しい仲間が足を踏み入れるのを待っているかもしれない。
★もしも表参道ヒルズを“占拠”するとしたら?「バーチャルSKWAT」とは? 続編インタビューを表参道ヒルズの公式サイトで公開中!
Text:Takeshi Koh
Photo:Yuki Maeda