
アートブックに囲まれた空間が南青山の真ん中に出現
表参道・原宿の空きスペースをまるで“占拠”するように出現し、期間限定で文化的コンテンツの発信を行うプロジェクト「SKWAT」。“SQUAT(占拠する)”を語源とするこの活動の第4弾「SKWAT/twelvebooks」が、南青山の中心ともいえるみゆき通りで始動したと聞いて、さっそく訪ねてきた。
SKWATは、設計事務所「DAIKEI MILLS」の代表を務める中村圭佑さんを中心としたプロジェクト。「avex」本社や、ライフスタイルショップ「CIBONE」、北欧インテリアショップ「Artek」の日本初直営店など、表参道・原宿で話題に上がることの多いスポットにも、DAIKEI MILLSが手掛けた空間がたくさんある
第1〜3弾のプロジェクトでは、原宿の元クリーニング店、南青山のライフスタイルショップCIBONE(現在は表参道GYREへ移転)の一角を“占拠”してきた彼ら。今回は、これまでよりも格段に広いスペースが舞台となっているとのこと。
空間づくりのプロフェッショナルが、その考えを体現する場でもあるSKWAT。回を重ねるごとにスケールも注目度も増す彼らのプロジェクトは、今回どのように表現されているのだろう。
ラグジュアリーさと無骨さが不思議に共存するエントランス
ハイブランドが立ち並ぶみゆき道りに忽然と現れるレッドカーペット。ラグジュアリーな空間を想像してエントランスに立つと、どことなく武骨な印象が…。ふと周りを見渡すと、壁や床がむき出しになっている。ラグジュアリーさと武骨さという相容れないはずの要素が、不思議なバランスで共存しているのだ。カーペットを辿って階段を上った先に何があるのか、想像が掻き立てられる。
向かって左手には、前回実施した「SKWAT with Kvadrat(クヴァドラ)」が引き続き出現中。「Kvadrat」はデンマークを代表するテキスタイルメーカーだ。ラフ・シモンズら世界の名だたるデザイナーとのコラボレーションで知られる高級ファブリックだが、ここでは廃盤となったものを1m3000円という破格で販売。この貴重な機会は6月13日(土)までなのでお早めに。
レッドカーペットに沿って階段を上っていく。途中でふと上を見ると、吊り下げられたシームレス照明、天井をうねるシルバーのダクトに、秘密基地に来たような高揚感を覚えた。
階段を上りきると、現れたのはアートブックに囲まれた空間。今回は、海外の出版社やギャラリーから個性的なアートブックを輸入・販売する「twelvebooks」との再タッグ。彼らとは、SKWAT第1弾「Thousandbooks」も共に開催した。
一見すると書店のような空間。はたしてその正体は…?
twelvebooksの代表を務める濱中敦史さんは、SKWATの立ち上げからその活動に関わってきた。今回は、自身のホームであるtwelvebooksの機能をまるっと移転。ショールームも、倉庫も、オフィスも、会社のすべてがこの空間に集約されている。少しややこしいが、占拠しているつもりが、その活動の場をtwelvebooksによってさらに“占拠”されているようにも感じられて面白い。
ところで、SKWATはあくまで期間限定で空きスペースを占拠する活動だ。そこへ会社をまるごと移転するのは、かなり思い切った決断ではないだろうか。
濱中さん自身も「まさか自分の会社ごとコンテンツ化するとは思っていなかった」と笑う。そうは言いつつも踏み切ったのは「自分たちの活動について、きちんと自分たちの言葉で伝える必要がある」と感じたから。これまでに実施したSKWATのプロジェクトでは、中心人物である中村さんや濱中さんが常駐できるわけではなく、訪れてくれた人たちに「SKWATとは」を伝えきれていないもどかしさがあったのだとか。
たしかに会社をまるごと移転してしまえば、濱中さんは必然的に常駐できるようになる。なんという発想の転換だろう。
twelvebooksのショールームとして、ここには1000タイトル以上のアートブックが揃っており、いずれも購入可能。一口に“アートブック”と言っても、そのジャンルは建築や写真、ファッションなど多岐に渡る。サイズが大きかったり、カラフルだったり、厚みがあったり…。どの装丁も個性的で美しく、思わず惚れ惚れしてしまう。
奥行きのあるブックシェルフには、同じタイトルの本が何冊も積み上げられている。「この空間はtwelvebooksの倉庫としても機能しています。在庫は見えないところにしまうのではなく、あえてディスプレイしているんです」と濱中さん。
窓際や壁際には、ところどころにイスやローテーブルが。「SKWAT/twelvebooks」は一見すると書店のようでもあるが、コンセプトとしては“ライブラリー”の側面が強いという。
「ここにあるアートブックはすべてご購入いただけますが、この場所はふらっと訪れて、ただゆっくり過ごすためだけに使ってもいいんです」と、中村さん・濱中さん。
アートブックを見て、感じて、それを共有することで、新たな創造が生まれる。ここでは、そんな刺激的な体験ができるのではないだろうか。
自然の光が差し込み、気取らず様になっているこのスペースは、なんともいえない居心地の良さ。イスに座ってのんびりしていると、ここが都会の真ん中(しかも、ハイブランドに囲まれた緊張感すらあるスポット)ということを忘れてしまいそうになる。たしかに、“ライブラリー(図書館)”でもこれと似たような感覚を味わったことがあるような…。ぜひ一度、この贅沢なひとときを体感してみてほしい。
その時、その場所でしかできない空間表現
SKWATの空間づくりの真髄は「無駄を削ぎ落とす」こと。空間に手を加えすぎず、もともとその場所が持っている長所を見極め、可能性を最大限に引き上げている。
これまで実施してきたプロジェクトでも一貫してシンプルな空間づくりをしてきたが、今回は特にエッジが効いている。なにせ「什器・照明・赤いカーペットを設置した以外は、ほとんど空間を触っていない」とSKWAT代表・中村さんは言うのだ。
たしかに天井や壁はむき出しのままになっており、本来は隠されるはずの、施工時の目印と思われるペイントもそのままになっている。(ちなみに無数の赤いラインは、もともとペイントされていたもので、今回のテーマカラーの由来になったのだとか)
床も完全にカーペットで覆うことはせず、ところどころがむき出しのままだ。
細部を見れば見るほど、この空間がいかにシンプルに作られたものであるかがわかる。それなのになぜ、こんなにも色濃くクリエイティブを感じるのだろうか。
この空間のカギとなっているのが、ブックシェルフとシームレス照明。いずれも、この6月に南青山から表参道GYREへ移転した人気ライフスタイルショップ「CIBONE」から譲り受けたものだ。中村さんは、DAIKEI MILLSとしてCIBONEの内装設計を担当。その縁で、移転直前にできた空きスペースでSKWATの活動をしたという経緯がある。
SKWATは、自分たちの周りにある事柄や繋がりを柔軟に取り入れていく。活動の舞台となる場の潜在的な個性を見つけ、引き上げることもそうであるし、今回のように、これまでの活動からひらめきが生まれることもある。偶発性を楽しみ、その時、その場所にしかない表現をしているからこそ、それを見ている私たちは強烈な個性に惹きつけられるのではないだろうか。
アートブックを眺めていると、ブックシェルフのところどころに隙間があることに気がつく。実はこれ、搬入する際にどうしてもサイズがオーバーしており、やむを得ずにカットした名残なのだとか。結果、隙間ができたことによって空間に奥行きが生まれた。これもまた、偶発性を楽しむSKWATならではだろう。
最後にフライヤーを発見。エントランスのレッドカーペットがモチーフとなっている。
世界の名だたるハイブランドが集まる南青山。ここでは各ブランドがさらにその価値を高めるため、勝負をかける空間を“作り込む”ことがあたりまえとされている。
そんなエリアの中心にありながら、SKWATの空間表現はあくまでシンプル。あえて作り込まない空間で、創造性溢れる新しい価値観を提示する彼らの活動は、私たちを取り巻く“スタンダード”に対するカウンターとなる要素を含んでいるようだ。
今後「SKWAT/twelvebooks」は、より規模を広げて進化していく予定だそう。彼らの提示する新しい価値観とはどんなものなのか、そしてこれからどのように昇華されていくのか。“ライブラリー”として街に開かれたこの場所を訪れて、肌で感じてみてほしい。
■概要
SKWAT/twelvebooks
住所:〒107-0062 東京都港区南青山5-3-2
電話:03-6822-3661
営業日:火曜日 - 土曜日
営業時間:12:00 - 18:00
定休日:日曜日 / 月曜日
Text:OMOHARAREAL編集部