神宮前2丁目に点在する42個の街灯が展示ケースに!アーティスト本人と巡る夜の神二ストリート
神宮前2丁目商店街に点在する42個の街灯ケースギャラリー「Jinny Street Gallery」にて、2024年5月12日(日)まで、オランダ人写真家のマーン・リンブルフによる写真展示「Without Us(人々の残像)」が開催中。展示初日に行われた「アーティスト・トーク」と「アーティスト・ウォーク」の2部イベントをレポート。
北参道駅と外苑前駅、そのちょうど真ん中に位置する神宮前2丁目。昨年(2023年)の秋頃、深夜の神宮前を歩いている時に見つけたのが、Jinny Street Galleryの街灯展示だ。
日中とは違う、静まり返った街。普段あまり見ることがない状況にワクワクしながら歩いていると、何やら光るケースに作品が飾られている。これはなんだろう?と、しばらくぼーっと見つめて再び歩き出したら、なんとあちこちに存在しているではないか。
人気のない深夜の商店街で作品たちを眺めながら歩いていたら、なんだか街全体がアートギャラリーのように思え、その世界観を独り占めしている感覚に陥った。それが印象的な思い出として記憶に焼き付いている。
そして今回、「空き家」をテーマにした写真展示「Without Us(人々の残像)」が開催されるとの情報をゲット。開催に合わせて初日にはアーティストと展示を巡る「アーティスト・ウォーク」も行われるとのことだ。アーティスト本人と巡るストリートツアーなんてとっても楽しそう!英語のみの開催ということで多少不安はあったけれど、好奇心が先行して参加に至った。
展示を巡る前に、まずは「アーティスト・トーク」からイベントがスタート。
19時、青山キラー通りに位置するカフェ&バー「二二二(ににに)」に集合。
こちらのお店は、Jinny Street Gallery主宰の写真家・ロレンツォ(Lorenzo)とトト(Toto)の2人が懇意にしている場所なのだとか。1階はバーとして営業中。冷蔵庫からクラフトビールをゲット、カウンターで購入し、2階へ。
古民家を改装した趣ある店内。特有の急な階段を上がると、すでにたくさんの人が。見渡す感じ、9割が外国人だ。ロケーションは古民家なのに、全く日本人が見当たらない、奇妙なシチュエーションに不思議とテンションが上がる。
そしてほぼ定刻通りに「アーティスト・トーク」がスタート。
今回、Jinny Street Galleryにて展示を行う、オランダ人写真家のマーン・リンブルフ(Maan Limburg)が前へ。集まった人たちは、ソファにゆったり腰掛けたり、スタンディングのままだったり、思い思いにリラックスモード。
今回の展示テーマは「日本の空き家」。マーンが空き家に興味を抱いた経緯や、日本の空き家の現状について解説してもらう。
日本では、急速な人口減少を要因に、既に家屋全体の13.5%が「空き家」なんだとか。さらに、2030年には、家屋の3分の1が「空き家」になるという。東京に暮らしていながら、今まで知りもしなかった日本の「空き家」事情がどっと流れ込んでくる。
普段の生活で見過ごしている重要なトピックを、海外の視点から注目し、取り上げてもらうことで、スッとその考え方が頭に馴染む。この感覚が面白いと同時に、無知な自分に危機感を持った。
中盤からは、ゲスト陣にマイクをバトンタッチ。神奈川県・湯河原町にて、「空き家」の魅力を引き出しオルタナティブライフを提案する「Akiyaz」の運営メンバーなど、「空き家」に造詣の深い面々が、自身の経験をもとにトークを繰り広げてくれる。
20時、「アーティスト・トーク」が終了。そのまま、マーンを先頭に「アーティスト・ウォーク」へ出発!30名ほどでぞろぞろと神宮前2丁目を練り歩く。
信号を渡って、最初は22番の展示から。「二二二」からすぐの展示が22番の街灯ケースだ。2がいっぱい!
今回の写真展示では「空き家にいた人々に想いを馳せる」ことが表現の根幹にあるとのことだけれど、薄暗がりの中で見る写真はそれをより引き立たせる妖しさがある。
神宮前2丁目は頻繁に訪れるエリアではないけれど、歩いてみると、閉店した後ではあるが個性的なブティック、こじんまりとキュートなパン屋やカレー屋などが目に入ってきた。お昼に訪れて巡ってみたくなる。
街灯ケースに展示するに当たって、作品が雨などで損傷するのを防ぐ方法や、42もの点在する展示に対して通りすがりの人に関心を抱いてもらうための配置など、試行錯誤を繰り返したのだとか。写真を布地にプリントする手法も、その工夫のひとつ。
街灯ケースの煌びやかさとは裏腹に、写真に映し出される「空き家」には、どことなくグロテスクさが漂う。そこに住まう人がいなくなれば死んだも同然のように朽ちていく様は、建物も人間と同様、”生き物”なのだということを感じさせる。
今回の展示は、”東京の人々”に長期的な観点で「空き家」問題を捉えてほしいとの、マーンの想いがこもっている。と同時に、内部から「空き家」を映し出した際の、幻想的な雰囲気や空間自体の楽しさといった魅力も伝わる。42個の街灯ケースも、以前は使い道がなく「空き家」のように放置されていた経緯があるとか。展示スペースとしての再利用ストーリーは、「空き家」の未来を考える手掛かりとなるはず。
2丁目商店街の展示をぐるっと周り、最後は皆で記念撮影。後ろに映る沖縄料理屋や洋食屋も気になるところ。神宮前2丁目を知るうえでも有意義な時間だった。
今回は夜に開催された「アーティスト・ウォーク」をレビューしたけれど、昼の暖かな日差しの下で見る展示も、マーンによって映された日本郊外の広々とした心地良い空気を感じられそう。ぜひ展示を巡る探検を楽しみながら「空き家」を覗き見、マーンの切り取るそこにいた人々の気配、つまり“残像”に原宿の路上から思いを馳せてみてほしい。
■概要
Without Us(人々の残像)
開催期間:2024年4月12日(金)〜5月12日(日)
場所:Jinny Street Gallery
住所:東京都渋谷区神宮前2-31-5
時間:24時間鑑賞可能
Text:Rumi Hasegawa
Photo:Thirsa Nijwening,OMOHARAREAL編集部
※敬称略
- 長谷川瑠美
外部ライター