
Feb gallery Tokyoで季節外れの肝試し
夏といえば怪談である。というにはまだ早いが、南青山のFeb gallery Tokyoでポップで可愛いおばけの展示が行われている。『百怪夜行 - DUSK TILL DAWN - 』は猫のゴースト「ソックス」をメインキャラクターとするアーティスト・Lottaが描く、ちょっと怖いけれど愛おしい怪異百景だ。
Lottaさん
Lottaは昨年7月、編集者・フォトグラファーの米原康正氏によるコラボレーベル+DA.YO.NEとともに行った原宿・SORToneでの個展で作品を全てソールドさせた(しかも全て抽選という人気ぶり)。そのあと金沢や京都、海外はパリ、ロンドン、ニューヨークと精力的に展示を行い、国内外問わずコレクターも多い、アップカミングなアーティストである。
Feb gallery Tokyoから送られてきたプレビューの招待状はお札を模したかたちをしていて、墨黒ベタのしっとりした質感がその世界観を物語っているかのよう。ちょっと季節を先取りしてアートな肝試しに誘われるがまま出かけてみよう。
プレビュー当日、季節外れの雪が混じる、冷たい雨がしとしとと表参道に降っていた。静まり返るギャラリーには虫の声や、足音、時計の音や水のしたたる音などが流れる。周りはまだ明るいのに、すぐ近くに夜の気配を感じる。
お札がそこかしこに貼られ、よく見るとLottaの描いたキャラとその紹介が書かれていた。お札の一枚一枚も作品の一部。
プレビュー当日は、Lottaはもちろんキュレーターである米原康正さんと奥様の葉子さん、ギャラリーのみなさんも揃って黒装束。
Feb gallery Tokyoの特徴でもある乱立する柱がLottaの作品世界とリンクする。神殿や霊廟を彷彿とさせ、ギャラリーを自らの世界観に引き込む展示はさすがだ。
Lottaの代名詞である、「ソックス」の他、新キャラである「黒狐(こくこ)」や「衣更着(きさらぎ)」なども登場し、『百怪夜行』の名に違わず怪異たちがにぎやかにギャラリー内を埋め尽くす。
Lottaが新たに生み出した「衣更着」は、ギャラリーの中庭に新たに据えられた杉の木がモチーフとなっている。
衣更着(=如月)とは2月の異称を指し、同じく2月を意味する“Feb”の名にちなんだキャラ。そんな話を聞くと、身をよじったような中庭の杉の姿も違った趣に見える。今にものそのそと、鉢植えから抜け出てきそうだ。
Feb gallery Tokyoの360°カメラで映されるモニター映像も『百怪夜行』バージョンに。真っ暗な夜のギャラリーが延々と映し出される様子はなんだか不気味だ。ずっと見つめていれば、何かが映り込んでくるかもしれない。
この映像は、Feb gallery Tokyoとのコラボレーションで実現したもの。
「久しぶりの東京の展示だから、自分の世界観はそのままに日本のテイストを入れたかった」と、Lottaは『百怪夜行』の着想を話してくれた。
人の姿をしたキャラクターもアニメ的な塗りにすることで、ポップなLottaの作風はそのままに、日本のサブカル的なホラーエッセンスを抽出。見事に調和している。
DUSK TILL DAWNは魑魅魍魎が蠢き始める黄昏時=“逢魔が時”とも呼ばれる夕暮れから、夜明け前を指す言葉。夜明け前が一番暗い、とはよく言われるが、今年、昨年と閉塞感に満ちた時期を経験し、乗り越えてきた人々の心境を言い表しているようなタイトルである。
「黒は正義」と話すように、普段から黒い服装を好む彼女。見た目はモノクロ、心はポップなLotta自身の魂たちが、「夜明けは近い」と口にしながらポジティブに行進しているような気がした。
江戸時代から明治時代初期頃まで、青山周辺ではお盆に竹竿の先に提灯をつけて高く掲げ、亡くなった人を弔う文化があったそうだ。夜にはたくさんの星が出ているように見えたところから「星灯篭」と呼ばれる。Lottaの描くキャラクターたちもそんな文化が根付く青山の街に誘われてきたのかもしれない。
Lottaもかつては原宿のアパレルショップで働き、絵画を生業としてからも独学で作品を描き続けてきた。そんなLottaが描いた、光を求めて彷徨う霊魂や怪異たちの姿は、愛おしく鑑賞者にも希望を与えてくれるようだった。
表参道・原宿に縁あるLottaが「ソックス」とともに、街を明るく照らす一筋の光となるかもしれない。夜明けはもう、まもなくだ。
■概要
『百怪夜行 - DUSK TILL DAWN』
住所:東京都港区南青山4-8-25
開催期間:3月23日(水)〜4月10日(日)
営業時間:11:00〜18:00
開催場所:Feb gallery Tokyo
休館日:月曜日・火曜日
※お出かけの際はマスク着用の上、こまめな手洗い・手指消毒を行い、混雑する時間帯、日程を避けるなどコロナウィルス感染症対策を十分に行いましょう。
Text & Photo:Tomohisa Mochizuki