彫り師・山田蓮は人間力をさらけ出す
2021年、原宿にスタジオを移転。並行してYouTubeを通じ徐々に“山田蓮”の名が広く知られるようになっていく。その頃からファッション誌、Web、さまざまなメディアが山田蓮を新時代のタトゥーアーティストとして取り上げた。タトゥーに詳しくない少しばかりカルチャー周辺が好きなだけの筆者ですら、その存在を認識できるほど新たなカルチャーアイコンとして頭角をあらわす。
スタジオに並ぶ、色とりどりのインク。このインクを針に通し、アートとして命を吹き込んでいく彫り師たちの姿を思い浮かべるとワクワクする。
なぜ、山田は彫り師として時代の寵児となったのか。山田自身が後述するように「OMOSSY CHANNEL」をYouTubeに登録した2019年当時、彫り師としてYouTube配信している人は稀有な存在だったことも要因のひとつ。さらには日本において一般的には、クローズドでアンダーグラウンドなイメージのあるタトゥーカルチャーにスポットを当て、表舞台に引っ張りだすことに成功したことが大きいのではないか。
往々にしてアンダーグラウンドな下地があるサブカルチャーをメインストリームのステージへ乗せるということは、批判されるリスクを大いに孕む。しかし、それ以上に支持の声が多いのは山田の人間性と手腕に依るところが大きいだろう。無闇にカルチャーを消費するのではなく、敬意を持った上で山田は自分の経験、使っている道具やノウハウから生活の様子まで、全てをさらけ出しオープンにしていった。自分の周辺の仲間たち先輩後輩、ひいてはシーン全体をゆるやかに巻き込みながら。
店長の内藤栄希(EIKI)は未経験から彫り師を目指した一人。スタジオに入る前から山田のYouTubeで学び、知識の下地を作ったのだそうだ。現在スタジオに集った仲間たちもYouTubeから“山田蓮”を知り、応募してきた者が多いという。
「僕は完全に独学で経験を積んで行ったので時間がかかったんですよ。それを経て自分に蓄積したノウハウと経験があって、環境も用意できる。だから自分より若い彫り師を目指す人には自分が得たものを全て共有したいと思っています。ここでは僕が始めた頃より、お客さんを持てるまでの時間が圧倒的に短縮できています。」
YouTubeがきっかけで、認知という部分での山田蓮の名は広まっていったかもしれないが、そもそもその柔軟な発想と持ち前のオープンマインドがお客さんや仲間、人を惹きつける魅力なのではないかと取材をしていて強く感じた。
そして今現在、YouTubeやTikTokでコンテンツを配信している若手のタトゥーアーティストが多いことを考えれば、まさしく山田は新しい世代のタトゥーシーンにおいてのゲームチェンジャーだったのではないだろうか。
順風満帆に見える「OMOSSY CHANNEL」も最初から再生回数が回っていたわけではない。少しづつやっていく内に再生回数や登録者数が広まっていった。2024年3月現在、登録者数は21.9万人にのぼる。そもそものきっかけはなんだったのか。
「カナダに留学している最中に、社会全体のタトゥーの受け入れられ方が全然日本と違う。大きなギャップを感じていたんですよ。そこでYouTubeを使って、日本ではアンダーグラウンドなイメージの“彫り師”について発信しようと思いました。当時、動画を作ってYouTube配信している彫り師さんはあまりいなかった。だから日本に帰って俺がやろう。って思って」
そうして始まったYouTubeが今や、仲間や事業を広げる立役者となっている。山田がカナダで感じたという日本のタトゥーカルチャーにおけるギャップの変化はどうだろうか?
「ここ数年で、だいぶ変わってきている印象がありますね。『このタトゥーは誰に彫ってもらったんですか?』って聞くと『友達の彫り師さんに彫ってもらって』とか、僕らの知る先輩方だけじゃなく、僕らより若い彫り師さんの名前が挙がることも多い。若い世代でタトゥーアーティストを志している人がそれだけ増えてるってことだから、日本のタトゥーカルチャーシーン、これからもっと盛り上がっていくと期待しています」
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