『STUDIO VOICE』『BRUTUS』雑誌デザイン界の父・藤本やすしが明かす、原宿セントラルアパートの伝説、同潤会青山アパートの秘話
「この街はキュレーションの力によってさらに進化する」
「空きが出たと聞いて飛びついた」と話すほど、やはりこの場所への想い入れは深かった。2016年、ROCKETは10年以上の時を経て、表参道ヒルズ同潤館にカムバック。80年代に原宿セントラルアパートで大きな影響を受け、90年代に同潤会青山アパートでROCKETをスタート。振り返れば、彼にとっての大きな出来事の隣には、いつもこのストリートがあった。
「表参道ヒルズ前のケヤキ並木が、僕は日本で一番お洒落な人が行き交う場所だと思っています。青山のラグジュアリー文化と原宿のストリート文化を繋ぐランウェイ。異なるものを混在させるということにも、大きな文化的価値があると感じます」
表参道ヒルズ本館に並ぶ「表参道ヒルズ同潤館」。当時の同潤会青山アパートが忠実に再現されている。ROCKETは3階に入居中
もちろん、30年以上にわたり仕事、また生活の拠点としているこの街にも愛着は深い。表参道・原宿の変化をデザイン・アート視点で眺めて続けてきた藤本氏は、街の未来を想像しながらこのように語った。
「物や情報がますます溢れていくこの街では、キュレーターがより大事な存在になっていくはず。CAPではよく『ショップは美術館』と言っているんだけど、この街にあるショップには、世界中から新しいものや面白いものが集められていて、僕らはそういったものからインスピレーションを受けて時代感を捉えたデザインをしています。だからキュレーションの価値というのを強く感じているし、ROCKETでも良いキュレーションができているか、僕が厳しくチェックし続けなければならないと思っています」
「ネットでも情報を得られる時代ではあるけど、例えば新しいフードの試食は街に出てこないとできない。場所の価値となる体験をつくる方法はまだまだありますよね。実は現在も食に関する新しいプロジェクトを進行中です」
最後に「ファッション、インテリア、アート、フードなど多岐に渡るジャンルのショップがこれだけバランスよく集まっている街など他にないので、その個性を崩さずに進化していかなければならないですよね」と話した藤本氏。彼の頭の中ではきっとすでに、この街の新たなページの美しいデザインが考えられている。
Text:Takeshi Koh
Photo:Yusuke Iida