GYRE(MVRDV)/ ひねりの利いた建築。二重螺旋構造=表参道のDNA
唐突な話ではあるが、ヨーロッパの街並みがいったいなぜ、東京と比べてあんなにも統一感があるように見えるのか考えてみたことはあるだろうか。答えはいたって簡単である。建物の素材が、事実、統一されているのだ。厳密に言えば、統一せざるを得なかった、と言ったほうが正しい。例えばアテネの建物群は、地元で採掘される白い石灰岩でつくられている。だから街じゅうが白く、必然的に、統一される。赤い屋根が美しいフィレンツェの風景は、その場所で採れる赤褐色の粘土を、そのまま素焼きした煉瓦を使っている。だから、街並みが赤く統一されているのである。つまりこういったヨーロッパの景観は、誰かが意図的にデザインしたものではなく、「地元で採れる材料で建物をつくるしかない」という技術的必要性に迫られた結果だったのである。
赤い屋根が美しいフィレンツェの街並み
出典:STARHOTELS
一方、東京に目を向けてみると、お世辞にも、統一感がある都市とは言い難い。その理由のひとつして、空襲で一度すべてを焼失してしまったということは大きいだろう。その後、土地の所有権も極端なほど細分化され、建材になるようなローカルな素材にも乏しかった東京では、隣り合った極小敷地同士に、まったく異なる建築スタイルが高密度でひしめき合うというカオスが形成されていった。表参道は、ある意味では、その混沌とした東京の地霊とも言うべき性質が、最もポップな形となって表出した場所だと言えるのではないか。たった1.1kmの並木道の両サイドに、世界の名立たる建築家たちの渾身の一作が無数に乱立する現代建築のショーケースが誕生したのである。
GYREを設計したのは建築家集団MVRDV。写真は出身地であるオランダ・ロッテルダムに建設したマーケットホール
出典:MVRDV
商業施設GYREの設計者MVRDVは、オランダのロッテルダム出身の建築家集団だ。ロッテルダムは、歴史あるアムステルダムから電車で1時間ほどの場所に位置する港町。今となってはエッジの利いた現代建築で埋め尽くされたロッテルダムも、実はかつて、第二次大戦の爆撃によって、美しい旧市街や港のほとんどを失ってしまうという歴史があった。すなわち彼らの中には、ヨーロッパの街が本来持っている統一感、そして歴史と土地とは完全に切り離されたモダニズム的感覚の両方が混在していると言える。そんな彼らが、この表参道という敷地で感じたであろう物足りなさは、想像するに難くない。すなわち「表参道の大地の歴史が表現されていない」という物足りなさである。そんな場所性が極端に隠されたこの街で、彼らはひねりの利いたデザインアプローチをとってみせた。
Text:Taro Kagami