表参道ヒルズ(安藤忠雄)/ 現代建築の覚悟
(2016/06/22)
建築家はいま、歴史上最大の危機に瀕している。資本主義があまりにも支配的になり過ぎたのだ。数えきれないほどの都市が、地元の経済を少しでも大きく回すため、如何に多くの人を効率よく集め、彼らの購買を促進できるか、という目的に心血を注ぐようになった。ファッションブティック、カフェ、レストラン、ギャラリー。リスクを背負わず、確実に集客を確保するため、建物の中身は次第にテンプレート化されていった。結果、世界中のいたる所で、同じようなプログラムの、同じような商業施設が、その街の風景をかたちづくることになる。かつてアメリカの建築家ルイス・サリヴァンは、「形態は機能に従う(Form follows function.)」と唱えた。しかし、その肝心の機能が凡庸になってしまったこの時代、都市のアイデンティティを保証するため、建築家にでき得たただひとつのこと。それは、一人でも多くの人の注意を引くような、メディアで拡散されるような、シンボリックなアイコンを都市の中に置くことであった。奇抜なオブジェの一発芸合戦が、建築界を賑わせはじめたのだ。
しかし本来、建築家とは、空間によって場所が抱える課題を解決し、次の時代のより豊かな暮らしかたを提案する仕事のはずであった。それは決して、表層的な建物の見た目をデザインすることではない。表参道ヒルズは、そんな建築家と都市の危機的状況に対して、ひとつの解決の突破口を提示したと言えるだろう。
Text:Taro Kagami