二重螺旋構造=表参道のDNA
MVRDVが表参道に感じたもうひとつの違和感。それは表参道を歩く人々の行動パターンである。彼らをよくよく眺めてみれば、建物に入って1階をひと通り見て回ると、それだけでもう店を後にしていることがわかった。表参道を訪れるひとは、この街を水平移動しかしていなかったのである。そしてそれは、建築側に問題があった。あまりにも多くのファッションビルが、ひとを惹きつける奇抜なデザインをしながらも、インテリアにまでその引力を働かせなかった。入口にさえ入ってくれれば、という資本主義的思想が間取りに表れてしまっていたのだ。もっとも表参道というあまりに直線的で水平性が強調された場所であれば無理もないかもしれない。しかしそれでもMVRDVは、建築空間の醍醐味のひとつが垂直移動であると考えていた。そこで表参道の持つ強い水平性と、垂直性を合わせ持った軌道にたどり着く。そう、GYRE =「螺旋」である。
GYREは2つの螺旋状の外階段に囲まれている
彼らは大きな岩のような箱を巧妙にズラしていくことで、建物の南東側から上に登っていく螺旋と、キャットストリート側に下っていく螺旋を共存させた二重螺旋構造をつくりだした。この螺旋状の階段は、各フロアの店舗のテラスを立体的に結び付け、また、そこで上下運動する人々の挙動を表参道を歩く人たちに魅力的に示してくれた。「表参道をこんな風に歩いてもいいんだ」というインサイトに気づかせてくれるこの建築的二重螺旋は、表参道という空間が本来もつDNAだったのかもしれない。