建築的リアクション
デザインを始めるにあたって、彼らがまず最初に直面した課題。それは、如何に周囲の建築と差別化を図るかということ。とりわけ敷地の真横に建つSANAA設計のDior表参道は強敵だった。
GYREの横に建つDior表参道
透過、屈折、反射。ガラスの持つ三大現象を利用し尽くした現代建築の傑作は、まるで白いカーテンのように、その場に浮遊していた。モダニズムの教科書のような建築である。この決して無視することのできない圧倒的な無重力性に対して、MVRDVは180度逆の仮説を立てた。それは、圧倒的な「重さ」である。
浮遊感のある白いDiorの隣には、重力を感じる黒いGYRE
彼らは、表参道の下に隠れた大地そのものを建築化することで、Dior表参道の虚と実が入り混じったヴァ―チャリティに対する即物的なリアクションをとろうとしたのだ。まるでクッキーの生地に型を押し込んで引っ張り抜くように、表参道の大地から直方体のボリュームを引っこ抜いた。そのボリュームの表面に、彼らは普段は見ることができない表参道の地層を見たに違いない。その証拠に、彼らはその見立ての地層ごとに塊をひねることで、その存在を顕在化させ、この建築を訪れたひとが、表参道の大地の持つ歴史を視覚的に認識できるような仕組みを設えた。彼らはこの建築を設計するプロセスにおいて、敷地を掘り起こすようなデザイン手法を取ることで、表参道の持つ場所性の確認作業をしていたのかもしれない。透き通るような白い箱のすぐ横で、敢えて黒いマッシブな岩肌を表現したMVRDVは、表参道の建築群に一石を投じることに成功した。