原宿で変わる流行、変わらない参道
2000年頃から、木村拓哉主演のテレビドラマ「ビューティフルライフ」の人気などをきっかけとして始まった「カリスマ美容師ブーム」。その流れで美容師になる若者が増え、雑誌「CHOKi CHOKi」などでは「ウルフヘア」など、次なるスタイルが主に雑誌で提案されていた。そしてファッションでいえば、原宿のGAP前こそがストリートスナップの聖地だったことも忘れてはいけない。
「雑誌でスナップされている人が憧れだったので、載りたいと思ってましたね。それっぽい格好をしてGAP前、今のオモカドのところにいましたけど、全然声はかからなかったです(笑)」
まだ、オモカド(東急プラザ表参道原宿)がGAPだった頃だから2010年代初頭。スナップブームがまだまだ盛り上がっていたころだ。あれから10年以上が経つが、流行に近い場所からさまざまな人とファッションを見続けた齋藤は、ファッションやヘアスタイルにどんな変化を見ているのだろうか。
「今の時代は昔よりも情報が多くて、個人の選択の自由がある。だからこそどんなアイテムを選ぶかが重要になっている気がしますね。髪型でいうと今は顔周りをしっかり切り込むウルフレイヤーが人気ですね。
ただメイクが変わっているので新しいスタイルのように見えてはいますが、髪単体で見るとシースルーバングと90’sのすだれ前髪は似ているんですよ。だから全体像の組み合わせが変わっていると考えた方がいいと思います。さらに今は『自分らしく』と多様性を重視する層が増えました。韓国の影響も強いですが、日本ほど多様なヘアスタイルが見られる国は少ない」
当初の取材日は悪天候のため中断。数日後、齋藤を再度撮影した際には髪型が変わっていた。理由は特になく、伸びていたので切っただけと言うが、ヘアスタイルの変化に抵抗のないその瞬発力は美容師ならではだと思った。
ファッションとヘアスタイルの時代性を鋭く洞察する齋藤。そんなトレンドをいち早く察知する美容師の目線から見た原宿の特色とは何だろう。
「多様なカルチャーがあること。竹下通りから表参道に抜けたら、そこから人や空気がガラッと変わるじゃないですか。他の街でこんな経験はできません。小学1年生の娘も竹下通りが好きで、そこから『Galaxy Harajuku』までをテリトリーにして遊んでます。恐らく大人になっても来るんでしょうね。趣味嗜好の違う人が、年代を超えて集まる不思議な場所だと思いますよ」
歩く道によって表情を変えるミックスド・カルチャーな街・原宿。しかしながら、メインストリートの表参道が“参道”であることは1919年(大正8年)以来、今日に至るまで変わらない。和洋折衷なファッションが生まれ、モボモガが闊歩するなど、多くのサブカルチャーが花開いた時代こそが大正だ。そんな儚い15年間に明治神宮が創建されたのと、この街の文化的な百花繚乱は無関係ではないだろう。目まぐるしいモードの移り変わりを支えているのは、約100年に渡って変わらないものだったりする。
