快楽追求主義からことなかれ主義へ
90年代からだんだんディスコのノリからクラブのノリへの移行が進み、様々なカルチャーの集まる場所から徐々に音楽を聴きに行く場所というものに変容していったが、この間も「ever」「bonobo」「OATH」「Velours」「Le Baron de Paris」などのクラブは大きな盛り上がりを見せていた。
しかしその人気ゆえにクラブに来る客層は一般化し、表参道、青山だけでなく、全体的にクラブにカッコいい大人たちが寄り付かなくなってしまったことで、シーンの様相が少しずつ違うものに変化していったように思える。カッコいい大人にとってクラブは表現を感じる場であり、シャンパンを飲む場所ではなかったのだ。
パリの人気ラウンジ「ル バロン(Le Baron)」の日本初姉妹店「ル バロン ド パリ」。2011年には東日本大震災の被災地への支援として、「ル バロン ド パリ」にてチャリティイベントが開催され、横尾忠則や篠山紀信らアーティストに加え「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」などが参加した
80年代 - 90年代にかけてのバブル期のノリは、尖った遊びの中で、快楽をどこまで追求できるか? ということに焦点がおかれていたようだ。一番限界ギリギリまで快楽を求めて人と違う遊びをした奴がカッコいいというノリである。しかし、90年代 - 2000年以降はフラット化が進み、危険を犯してまで快楽を求めるのではなく、尖ってなくていいからみんなで楽しもうというノリに変わった。そうなると、刺激を求めてカルチャーの中心で遊んでいた夜の大人たちは消え、どこか危なさをはらむ色気というものが失われてしまったのだ。
逆張りと色気の再発見
ウォール街の歴史を塗り替えたジョン・ポールソンが言うように、いつの時代も逆張りこそが人生を好転させる秘訣である。この時代にできる最大の逆張りとはいったいどのようなことだろうか? そのひとつが“オフラインの可能性”であり、ナイトカルチャーなどの“場”を通して“身体感覚”と“変性意識”を共有することだろう。ただのビジネスカンファレンスやパーティではダメなのだ。なぜか? それは音楽やアートといった“変性意識”への媒介が欠落しているからだ。(もちろん優れた企業家のアイデアはまさにアートと言えるが)
カッコいいい人たちが命がけの夜遊びを通してひとつの空間に集合する。そこでの感覚から新しい何かを生み出していく、という逆張りの“場”カルチャーが生まれていく可能性があるとすれば、それはやはり表参道・原宿エリアな気がしてならない。なぜなら時代は変われど、やはりその土地の持つ力や魅力というものは絶対的な普遍性をもっていると思うのだ。これからのカルチャーがどのようなコンプレックスの共鳴から生まれてくるのかはわからないが、フォロワー数至上主義のコンテンツや品のない烏合の衆に辟易した本物たちが、“バズ”だとか“収益”だとかを度外視した心意気から新たなカルチャーやシーンが出てきてほしいと思っている。
そのためには、パトロンとしての“場”を提供する人や、それに対して相応しいモノづくりをできる人材、そしてそれらを繋ぐキュレーターが繋がっていくことが必要であり、それもまたリアルな“場”を介して行われることなのかもしれない。“オフラインで集合すべき場所”が表参道・原宿に増えることを楽しみにしている。
■写真提供協力
藤代冥砂『90 Nights』
¥2,800+TAX(A5判、304ページ)
アートディレクション:米山奈津子
出版:トランスワールドジャパン
《寄稿者プロフィール》
稲葉総一郎 Soichiro Inaba
1988年ニューヨーク生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。美少女フィギュアメーカーでL.Aやパリの海外コンベンションを担当後、日本初開催となったRed Bull Air Race実行委員会へ参画。avexでは国内最大級のダンスミュージックフェス「ULTRA JAPAN」や未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」など、大型フェスのコミュニケーションを担当。
Instagram:@acid_wiz