ケニー・シャーフここにあり!30年の月日を懐かしむ人も
NANZUKA UNDERGROUNDで、ジャン=ミシェル・バスキアやキース・ヘリングといった同世代のアーティストとともに脚光を浴びたケニー・シャーフの個展「I’m Baaack」が6月10日(土)から開催中だ(7月9日まで)。
OMOHARAREALでは会期前日に行われたプレビューに足を運ばせていただいたが、日本のプライマリーギャラリー(アーティストの新しい作品が最初に発表され、売買される第一次的なマーケットを担うギャラリー)において30年以上ぶりとなる新作個展である。
その注目度は高く、たくさんの人が訪れていた。本展を逃せば、次にいつケニー・シャーフの作品を見られるのか分からないので、レポートとしてアーカイブしておきたい。
会場を回っていて際立っていたのは30年前の展示を当時見ていたという人が、昔を懐かしみながら最新のケニー・シャーフ作品を楽しんでいたこと。そこかしこでそんな声が聞こえてきた。ケニー・シャーフ本人も35年ぶりに来日し、来場者と記念撮影をする姿も見られた。「I’m Baaack」という展示タイトルも実に日本のファンやコレクターへの愛情を感じるし、逆に30年前の展示について知っている人が羨ましくも思える。
30年前の展示は世代的に当然見たことはないのだが、2021年にはDIORとのポップアップをミヤシタパークで開催したり、日本でも作品を目にする場は多い世界的なアーティストである。
旧くは1988年〜テレビで放送されていた「日産自動車グループ」企業CMがケニー・シャーフの作品を大々的にフィーチャー。放送当時はまだ小さかったため(もしくは親が映画かドラマを録画したビデオの中で観たのかもしれない)ケニー・シャーフの作品ということは知る由もなかった。
©Kenny Scharf
Courtesy of NANZUKA
テレビに映し出される宇宙人のような独特のキャラクターの動く様子が、不気味さの中に愛らしさがあって、幼い頃の記憶に強烈に焼き付いている。(そのCMのYouTube動画)
このCMに登場している作品は赤坂・草月会館で同時開催されているエキシビションにて限定公開されているとのことなので、こちらも観に行きたい。
©Kenny Scharf
Courtesy of NANZUKA
さて、NANZUKA UNDERGROUNDの展示のハイライトは入り口に入ってすぐ。右手のカーテンに覆われた部屋の入り口をあけると現れる、ブラックライトを用いたネオンカラーの空間が広がる没入型インスタレーションだ。これがもう、めちゃくちゃ楽しかった。
クラシックなディスコハウスが流れる空間に、ミラーボール。壁一面に貼り付けられているのはファウンドオブジェクト、つまり家庭から捨てられたおもちゃや洗剤の空き箱、ラジカセなどの家電がケニー・シャーフによって新たな命を吹き込まれ、躍動していた。
この作品は「Cosmic Cavern」という作品で、1981年にキース・ヘリングと一緒に入居していたスタジオとPS1・コンテンポラリー・アート・センター(現在はMoMAと統合しMoMA PS1として運営されている)にて最初に発表されたもの。実に40年以上経った今も進化を続け、本展にて初来日を遂げたインスタレーション作品だ。正直、これを体験するだけでも足を運ぶ価値があると言えるだろう。
ネオンの部屋をぐるりと囲む、2022年〜2023年に制作された新作ドローイングも見逃せない。1Fと2F、それぞれで平面作品を観ることができる。テレビモニターに直接描かれているドローイングは、パネルをハメ込んだかのような精密さに驚く。
ドローイング作品の中に根を張り、渦巻くキャラクターはポップでありながらもコロナ禍を経た今、飛散し増殖するウィルスのようにも思える。
さらには、新聞の切り抜きでセンセーショナルな日本語見出しが踊る。社会問題を作品の中に取り込むケニー・シャーフの作品には現代を生きる一人として目を背けられない引力が宿っていた。
冒頭で紹介した通りケニー・シャーフは、バスキアやキース・ヘリングといったアーティストたちとともに、NYで隆盛した「イースト・ヴィレッジ・アート・ムーブメント」の一人として同じ時代を過ごしてきた。特にアートスクール(=スクール・オヴ・ヴィジュアル・アーツ)時代からキース・ヘリングとは仲が良かったという。
しかし、バスキアは薬物の過剰摂取、キース・ヘリングはAIDS発症によって亡くなってしまっており、いずれも当時からアメリカで社会問題となっていた事柄が関係している。ケニー・シャーフにとって、友人を失ってしまったことはとても辛い出来事であったに違いない。
だからこそケニー・シャーフの作品は、アートを創造する上で周囲を取り巻く社会問題と接続し、説得力を持って鑑賞者に迫る。新聞の見出しの切り抜きや日本語を取り入れたアプローチは、ケニー・シャーフのスタンスが地続きであることを感じることができた。
ケニー・シャーフが日本で最後に個展を行ったのは1991年。1988年と1986年、1985年と東京を訪れ個展を開いたり、グループ展に参加している。1985年に草月会館で行われた「アート・イン・アクション」展の際に、シャーフ自身がペイントと改造を施したキャデラック「夢の車」も草月会館にて限定公開中だ。
©Kenny Scharf
Courtesy of NANZUKA
「夢の車」が制作される2年前、1983年にキース・ヘリングはワタリウム美術館(当時はギャルリーワタリ)で日本初個展を開催した。その向かい、ワタリウム美術館の和多利浩一と恵津子が営んでいた当時の「ON SUNDAYS」の建物に、1日で壁画を描き上げたことはもはや伝説。壁画は地域とアートファンに長年親しまれてきた。(現在は老朽化のため建物ごと解体。作品はワタリウム美術館によって移動可能な壁画として保管されているそうだ)。
オモハラにも縁が深い、キース・ヘリングらとともに一時代を築き、友人たちとの離別を経験しながら激動の時代を生き抜いたレジェンドが、文字通り原宿にカムバックした。時を経てあらためてさまざまな問題、病巣を抱えた社会で、私たちを取り巻く問題を把握した上で強かに生きること、そして、生きていることを自由に楽しもう!とエールを贈ってくれるかのようなアート展だった。
■ケニー・シャーフ個展「I’m Baaack」
開催期間:2023年6月10日(土)〜7月9日(日)
営業時間:11:00〜19:00
開催場所:NANZUKA UNDERGROUND
※草月会館 草月プラザでもインスタレーションを6月10日(土)〜6月30日(金)の期間で開催。詳細はNANZUKA公式サイトを参照。
住所:東京都渋谷区神宮前 3-30-10
Text :Tomohisa Mochizuki
Photo:OMOHARAREAL編集部/©Kenny Scharf Courtesy of NANZUKA