【CHOKiCHOKi編集長・三浦伸司氏からのメッセージ】
37年前。春の匂い漂いはじめる、ちょうど今ごろ。ボクは高校3年生の少年でした。実家に近い西日本の大学に進学するつもりだったので、「一回くらい東京行っとくか」という軽い記念受験のつもりで初めて上京しました。待っていたのは味わったことがないワクワク感。よくあるフレーズですが、東京はなにもかもが眩しく映りました。映画もROCKもないど田舎で過ごした少年には刺激が強すぎるほどで、「東京に来たい!」と方向変換するには時間はかかりませんでした。
その受験期間の空いた日に胸をときめかせてやってきたのが原宿です。雑誌で見たVANに行きたいなーとか、気持ちを昂らせながら、原宿駅から表参道を下ったのです。広い歩道に欅並木、行き交う人々の出で立ちに気分はMAX。瞬時にこの街が好きになりました。おろしたてのデッキシューズから羽が生えたように、軽やかに歩みは進もうというものです。
「おにいさんたち、映画が安くなるチケットがあるんだけど」
懐かしいですね、このオールドなフレーズ。ちょうど千疋屋の前あたり。足取りの軽やかさに獲物を見たのでしょう。。。3000円を支払う自分の手元を今でも鮮明に覚えています。ボクと原宿の物語は苦い経験からスタートしたのでした。
そこから細かくいくと原稿が増えていくので、そのあとのことは端折りますが(スターダストとかげんかやとか行ったなあ。。)、今でも千疋屋の前を通るとキュッと気が引き締まります。キュッと引き締まった気持ちがよかったのでしょうか、仕事場となった原宿を冷静な目で客観的に見て、みなさんから支持をいただける雑誌を作ることができました。苦い思い出を塗り替えて、ようやく原宿に入れてもらった気になったものです。なんとなくあのキャッチ野郎に落とし前をつけたような気にもなり。
ちょっとタッチが違う原宿との話になってしまいましたが、その冷静な目でみても、本当に特殊な街だと思います。明るい彩りや華やぎがどこよりも似合う街。この街でしか受けいれられないだろうファッション、この街だからこそ生まれたであろうヘアスタイル。この街にくるためにおめかしをする。ほかにこんなところあるのかなあ。。。表参道の銅色のパイプ状のベンチが、ボクのアリーナ席です。眺める人の風景に季節の色も見えて、とにかく人が楽しい。「原宿に行けばなにかある」のではなく「人が原宿を作る」、人が街にエネルギーを与えているような気がします。
今、テナントが空いていくビルを見るたびに、胸が締め付けられる思いはします。でも必ず人のエネルギーで変わるはず。必ず新しい色に染まるはず。あいかわらずマンウオッチングをしながら、ボクにもできることをしたいと思っています。
三浦伸司/ヘアファッション誌『CHOKiCHOKi』創刊編集長。原宿の美容師を中心としたリアルファッションをフィーチャーすることで、新たなストリートスタイルを生み出した。「おしゃれキング」と名付けられた看板モデルは若者たちのカリスマとなり奈良裕也、千葉雄大などを輩出。現在は雑誌だけでなくSNSからも最先端のヘアスタイル&ファッションを発信中。
Instagram:choki2jp