誰かの哲学でできた街
かつてサブカルの聖地『中野ブロードウェイ』も販売していた歴史ある高級分譲住宅会社、東京コープ。社長の宮田慶三郎は、大脳生理学の研究から医学博士という異色の経歴を持つ男だ。彼は高級物件の販売において、強い哲学を持っていた。それは、暴利をとらないこと。人の為に尽くすこと。アイディアがあること。彼は自らインタビューの中で、「分譲アパートという物は販売してしまえば自分の物ではなくなる、しかし一部分を所有することで店を出したりも出来る、これらの旨味があるからこそ苦しい仕事へも向き合える」と語る。その想いは、中華料理店の「南国酒家」、スーパーマーケット「オリンピア・フード・ライナー」等を自らテナントとしてオープンすることで、形を帯びていく。
高級中華料理屋「南国酒家」は、コープオリンピアが建設された当初から存在する
「我々は造るのが楽しみで、地球に爪跡を付け、それが後まで残るのが何よりの楽しみ。」と印象的なセリフを残した宮田慶三郎。彼は、ただ建物としてだけのマンションを構想したわけではない。その建物の愛されかた、ひいては、原宿という街の愛されかた自体を発明したのだと思う。街は、誰かの哲学でできているのだ。コープオリンピアを空から眺めてみる。すると、まるで神宮前の街区を囲うように鋭い「く」の字をつくっている。
中央の緑の建物がコープオリンピア。屋上には珍しい形をしたプールも見える
私は確信をもって言いたい。これは宮田慶三郎が表参道に残した、「爪痕」のカタチである。たったひとりの強い想いが、表参道の一時代を築いた証である。
《プロフィール》
各務太郎 Taro Kagami
1987年東京都生まれ。2011年早稲田大学建築学科卒業後、電通に入社。第1クリエーティブ局配属。コピーライターとして数々のCM企画を担当。2014年退社。2015年ハーバード大学デザイン大学院(都市計画学修士)に入学。現在、建築と広告、2つのアプローチで都市が抱える難題に取り組んでいる。第30回読売広告大賞最優秀賞。第4回大東建託主宰賃貸住宅コンペ受賞。他。