黒いモンスターがオモハラの壁に現れる理由
「SHIT」や「HATE」という負の感情が表現されることの多い彼女のミューラル(壁画)のイメージに反して、本人は明るく、そしてフランクだった。
2017年に出現したTHE NORTH FACE STANDARD HARAJUKUのミューラル
「表参道・原宿は私が10代から22歳くらいまでずっと遊んでた街だから、歩いててインベーダーの作品とかを見つけると『まだ無事にあるんだ!』って嬉しくなるし、自分も描きたくなっちゃう。実際私に描いてほしがってそうな壁もたくさんある気してて、最近はこの辺来ても壁ばっかり見ちゃってるの(笑)」
感性豊かな彼女は、10代の頃からこのエリアでアート巡りをしていたのだろうか? 聞いてみると、そんなことはないとのこと。
「初めて原宿に来た日? 自分の意思で初めて来たのは中学生のときかな。制服でラフォーレに来たんだけど、昼間だったから警察に補導されちゃった。それからも原宿には目的もなくフラフラ来て、買い物もよくしてたかな。黒が好きだからギャルソンに通ってた。私、18歳からは黒い服しか着てないの」
10代で出会った映画監督・ハーモニー・コリンの影響でストリートアートに興味を持ったと話すLyさん
今日もLyさんは頭から足元まで”黒”。彼女のペインター人生の中で常にキーとなっている重要なカラーだ。
「実家は建築士の叔父さんが建ててくれたんだけど、なぜか私の部屋は壁が真っ黒だったの。それからお母さんも赤が嫌いって言って、小学生になって買ってもらった筆箱やランドセルも女の子なのに全部黒。私も黒好きだったから良かったんだけどね。その影響もあるのか、小学生の頃から12色のクレヨンで絵を描くのが嫌いで、黒ペンでばかり絵を描いてたの」
そして、当時から頭の中には、彼女の気持ちの化身と言える黒いモンスターが住んでいたのだという。それにしても、なぜ「壁」にそのモンスターを描くのだろうか。
ネイルは常にグレー。リングはクロムハーツ
「逆に紙に描けと言われると『なんでわざわざ縮小しなきゃいけないの?』って思っちゃう。頭の中にいるモンスターを、なるべくそのまま、大きさも実寸で描きたいの」
リアリティを追求するのは、彼女には本当にモンスターが彷徨う世界が見えているからだろう。自分たちがずっと遊んできた街に、自分だけがずっと見えていた世界を混ぜ込みたい。こんな理由で、Lyさんは今日もオモハラの壁に黒いモンスターを描いているように思えた。
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