黒いモンスターは海外からも、地元からも愛される
こんな活動を10年以上続けているLyさんは、1年前に嬉しい出来事があったという。
「『GALLERY TARGET』で私が昔から憧れてるラリー・クラークの写真展が開催されてたんだけど、長蛇の列に並んで本人に会ったら、彼が私のミューラルのことを知ってくれてて、『女性が描いてるとも日本人が描いてるとも思わなかった。DIKくん(男性器を意味する『DICK』をシンボルにしたモンスター!)のバスマットが欲しいから俺の写真と交換しよう』って言ってくれて…。高校生のときから持ってた写真集にもサインしてもらって、あれはすごいテンション上がったよ」
彼女は年に1回、ギャラリーで個展も行う。こちらは2017年に開催された「OMOTESANDO ROCKET」での個展の様子
他にも、壁にペイントをしているからこそ、自分が知られていると感じる機会は少なくないという。
「『San Francisco Peaks』で2回目のペイントをしてるとき、絵が描けないほどいろんな人に声を掛けられたの。小学生から『通学路なんでずっとこの絵見てますよ』とか、隣のビルのオーナーさんから『この絵、子供たちに人気だよ』とか言われて。普段アートに触れないかもしれない人たちからの反響を感じると、自分のミューラルが地域に根付いてるんだって思えて、嬉しかったな。表参道・原宿って若い人が何かやりたいことに気付ける街だと思ってて。そんな街に私の作品が当たり前にあって、普段は気にしないけどいつの間にかちょっと影響を受けてるっていうような存在になれたらいいかな」
Lyさんと新作の女の子。この子の正体は「まだ秘密」とのこと
ミューラル制作や個展を通して、自分自身、そして作品であるモンスターもこの街で育っていると話すLyさん。きっと今日も『私に描いてほしそうな壁はないかな』と探し歩くのだろう。オモハラで暮らす人々は、ぜひ、この街で見かける黒いモンスターと彼が過ごす世界の移り変わりを、温かい気持ちで見守ってほしい。
Text:Takeshi Koh
Photo:Mizuki Aragaki