SIDE COREの“目”をインストールする、アート夜行
視点が変われば、街の見え方は変わる。
ワタリウム美術館で2024年8月12日(月・祝)から行われている、アートチーム「SIDE CORE(サイドコア)」による展覧会「CONCRETE PLANET(コンクリート・プラネット)」もいよいよ千秋楽を迎える。
都市の見えない部分に光を当て、創造の可能性を見出しアート制作を行ってきたSIDE CORE。本展覧会「CONCRETE PLANET(コンクリート・プラネット)」はまさにその集大成であり最新系である。
※現在ワタリウム修復中の囲いは外れている
本展の面白さもさることながら、楽しみにしていたのが展覧会にまつわる特別プログラムとして行われた「night walk」だ。SIDE COREと夜の街に出てアートや街の歴史に触れるというもの。
SIDE COREは原宿をどう視て、どんな場所を回るのか、ということが当初から気になっており、自分としても新しい発見があるに違いないと、好奇心半分でイベントに参加した。実際、街を通してSIDE COREの“目”をインストールしていくような経験が出来たが、展覧会も終わりが迫る中この貴重なプログラムの一部をレポートして、アーカイブしておきたい。
※「night walk」は限定人数にて何度かに分けて行われた。そのためいわゆるネタバレを防ぐことも踏まえ、全催行日程の終了後の公開とさせてもらった。
SIDE COREとともに夜の街へと繰り出す「night walk」 その視点から見えてくるもの
SIDE COREの主たるメンバーは4人。高須 咲恵(JANGO)、松下 徹(TOHRY)、西広 太志(DIEGO)を中心に映像ディレクターとして播本和宜(HARRY)が加わった。「night walk」のガイドは日によって代わる代わる参加するメンバーが担い、この日はTOHRYさんが担当してくれた。
集合時間を迎え、エントランスにて最初の挨拶。人数を限定したイベントのため参加者は10人ほどだ。「住宅街の中も通るので静かに行きましょう」という注意喚起もありつつ、いざ出発!
SIDE CORE・松下 徹(TOHRY)さん
少し前に降っていた雨も上がって、夜散歩にはもってこいのコンディション。通行人や地域住民の人たちに邪魔にならないよう、並んで歩く。小学校の集団登下校みたいでちょっと懐かしい気持ちにもなった。
最初はワタリウム美術館向かいの空き地。もともとワタリウム美術館の前身「ギャルリーワタリ」時代の建物があった場所。1983年の来日の際、キース・ヘリングの壁画が描かれたことでも有名(現在はワタリウム美術館が壁画を保菅)。
ここにあるのは「コンクリート・プラネット」のSIDE CORE作品のひとつ「blowin’ in the wind」。2023年奥能登芸術祭で展示された、風力原動機が設置された地帯に建てた風見鶏だ。山間部が開発されそこで作られた電気は、都市部で使われている事実と関連して、街の中での再展示となった作品である。
ちなみに、現在は能登地震によって道路が崩れてしまいもともとの展示場所には辿りつくことができなくなっているそう。震災から一年が経とうとする中、未だ、復興が進まぬ能登に原宿から思いを馳せる。
細い路地へと入ってすぐにある「塔の家」は建築家・東孝光の設計で、コンクリート建築の先駆けとして知られる。東京オリンピックが行われた1966年に建てられたとは思えない、モダンな佇まい。三角の敷地にすっぽりと収まった数坪の家そのものが異質な存在感を放っていた。
続いて案内されたのは神宮前2丁目、青山熊野神社の境内。夜の神社に一体何があるんだ?と思ったけど、そこはさすがSIDE CORE。TOHRYさんがお清めの手水舎(ちょうずや)で紹介してくれたのは、そこに貼られた千社札。ここに来たことの証明と名刺代わりに貼って行く文化は、今の路上ステッカーに通ずるものがある。
道中、ちょっとした看板もSIDE COREは見逃さない。「話題の“地面師”の注意喚起の看板、実際見るとリアリティがありますよね」なんて時事的な小ネタなんかも挟みつつ、歩みを進める。
「night walk」のためにSIDE COREが制作した作品も街のいろいろな場所に散りばめられている。なんの変哲もないゴミ捨て場の立て看板かと思いきや、裏側に作品を仕込んでいたり。
街やその土地に真摯に向き合い、文化、歴史の地層を発掘しながらアートの持つ創造力で見る人の心を動かす。その上で楽しませる遊び心を忘れない。それがSIDE COREの好きなところ。
一行は神宮前3丁目付近の原宿陸橋へ。SMAP「夜空ノムコウ」PVのロケ地にもなるなど、ポップカルチャーと密接につながる、原宿エリアの密かなスポットだ。
知ってはいても、なかなか立ち寄る機会はなかったので真っ直ぐ伸びるキラー通り(外苑西通り)を上から見渡す景色は新鮮。
陸橋を降り、再び2丁目方面へと足を伸ばす。TOHRYさんが一見何もない壁の前で立ち止まり、おもむろにライトで壁を照らし始めた。すると光に反応して壁が発光するではないか!
街の中には防犯のために発光塗料が塗られた壁がたびたび存在するそうだ。そんなの、どうやって見つけたんだろう。TOHRYさんいわく、「見れば分かる」とのことだが素人には普通のコンクリにしか見えない。
さらにTOHRYさんはゴミ捨て場の手書き看板のフォントひとつに目を留める。看板屋さんの前のゴミ捨て場だったことから、この独特なフォントが生まれたのではないかと推測。ロケーションやシチュエーションから背景を想像して核心に迫っていく工程が楽しい。
SIDE COREと交流のある、神宮前2丁目のギャラリー「Scooters For Peace」も外からではあるが参加者へ紹介してくれた。名前の通り、モッズスタイルの象徴であるVespaスクーターが目印だ。アメリカはサンフランシスコを中心としたベイエリアのアーティストと作品、カルチャーを伝える以前から行ってみたかったギャラリーだったので嬉しい。
普段は関係者しか通れないビルとビルの間の通路も、事前に許可をいただいているということで、通行させてもらえた。通路の脇には1964年の東京オリンピックの頃に売り出された一連のマンション物件「秀和レジデンス」シリーズがあり、名ヴィンテージマンションを直近で見られるのは嬉しい。
コインパーキングの奥に注目。そのままにされた大きなグラフィティというのは今時、このオモハラエリアに置いてもだんだんと珍しくなってきているという。海外の有名なアーティストによるもの。
神宮前2丁目、アート作品がたくさん飾られているカフェ「Magpie Cafe」にはSIDE CORE メンバーのDIEGOさんの作品が置いてある。キャリア初期の頃に購入してくれた、貴重な彫刻作品だという。
移転前のGALLERY TARGETの場所は、アーティスト・スティーブン・パワーズ(Stephen Powers)のギャラリーショップとなっている。この日は不在だったが、会えればウェルカムしてくれるそう。
とある空き家の軒先に、なにやら置いてある。そんな不穏な発見も、夜の探索において好奇心を掻き立てる材料だ。
街で何気なく見かけるタギング(自分のアーティストネームなどを独自の字体で残すこと)も、TOHRYさんの解説があるとより奥深いものになる。
神宮前2丁目のペーターズ・ショップアンドギャラリーの近くに停められたビッグスクーターには、なんと来秋、ワタリウムでの展示が決まっている世界的なアーティスト・Barry McGee(バリー・マッギー)のタグも。なんともうらやましい。
ビッグスクーターが停まっていたすぐ上を走る神宮前1丁目の沿道には、1964年のオリンピックのために建てられた国旗掲揚塔があることも初めて知った。木と一体化してしまっているため現在は使われることはなく、石碑だけがしっかりとその歴史を物語る。
今でも街でたまに見かける、地図看板。実は民間の会社が設置していたんだとか。おおらかな時代の名残りでさえ探せば原宿にはまだ残っている。
神宮前3丁目、「BAPEKIDS」や「STREAMER COFFEE」の近くの「時計店エル」の近くには橋の名残りの遺跡が見て取れる。おそらく渋谷川が暗渠(現在のキャットストリート付近の下は川が流れている)になる前は橋がかけられていたことがわかる。
ワタリウム美術館の近くへと戻ってきて、「night walk」は終了。近くにはKAWSのステッカーが普通に電柱に貼ってあったり、他にも有名なライター(グラフィティライター)やアーティストのものがオモハラエリアにはたくさんあるという。
街に貼られたステッカーやタグはTOHRYさんのような人からすれば「あ、この人がここに来たんだ」というのを確認することができる、いわゆるストリートの伝達ツール。そうしてまた別のアーティストがステッカーやタグを残していく。まるで街の掲示板のように断片的に交流し、記録や記憶が地層のように紡がれていく様は、景観の良し悪しや倫理的な是非は一旦考えずに、とても美しいとさえ思えた。
そんなカルチャーも、知らない人からすれば街の“見えない”部分と言える。
“GAMRA”、“KESU”というグラフィティライターが残したもの。
「night walk」で巡ったのは主に神宮前1丁目〜3丁目付近。いつも歩くような、大きな通りではなくあえて裏手を巡る1時間の道程はあっという間だった。普段なら見逃しているだろう、“見ていない”=“見えない”オブジェクトやスポットの数々にハッとさせられる連続である。まさに街の見えない部分が可視化されていくような感覚。
SIDE COREはどこへ行ってもまずは土地を歩き回り、どんなプロジェクトであってもリアルな路上(時に山道など自然の中)を拠点としたフィールドワークが制作のひとつの軸となっている。ある種“路上の歩き方”を知るプロなのである。その感覚をインストールしていくような「night walk」は、実り多い時間だった。
見えないものに光を当て、その土地の魅力や文脈を掘り起こす。今回得ることができた視点や感覚をOMOHARAREALでも活かしていきたいと思った。
ちなみに、今回記した以外にも足を止めたポイントがいくつもあったのだが、どこまでが彼らによる仕込みで、偶然そこに存在したものなのかというのは定かではない。その境界すら曖昧にしているところがSIDE COREらしく、ニヤリとするポイントでもあった。
そんなSIDE COREの真髄、つまりSIDE COREの“コア”を展示する「コンクリート・プラネット」を鑑賞できるのも今週末が最後のチャンス。お見逃しなく。
■SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット
開催期間:2024年8月12日(月・振休)〜12月8日(日)
会場:ワタリウム美術館
住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6
時間:11:00〜19:00
定休日:月曜(8/12、9/16、9/23、10/14、11/4は開館)
入館料:
大人 1,500円
大人ペア 2,600円
学生(25歳以下)高校生・70歳以上の方・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳お持ちの方、および介助者(1名様まで)1,300円
小・中学生 500円
※会期中、ご本人は何度でも展覧会へ入場できるパスポート制チケット。再入場の際、ご本人であることを証明するものをご提示下さい。
Text & Photo:Tomohisa Mochizuki