建物まるごとアート!秘密基地的お好み屋さん。原宿のグローバルな台所を深堀り!【編集後記】
先日、ご紹介した原宿さくら亭。取材で久しぶりに原宿さくら亭を訪れたが以前に足を運んだのはずいぶん前になる。その時も楽しくておいしかったことは間違いないが、ちゃんと意識してみるとその魅力は実に趣深い。さくら亭を知っている人は多いかもしれないが、「ああ。さくら亭、知ってる知ってる」そんな感じで済ましてしまってはいないか!?
侮るなかれ。観光客に人気なので外国人向けのコンテンツと思いきや、地域に長年愛される理由がぎっしりお好み焼きの具材並みに詰まっているのだ。まだまだ語り尽くせない魅力がある場所なのであらためて取材後記としてレビューしたい。
■さくら亭の深堀ポイント!
①満たしてくれるのはお腹だけではない
建物全体がアート!どこか不思議と懐かしい、ワクワクが詰まった秘密基地感
②なぜこうなった?さくら亭のルーツとは
お好み焼き×アート、なぜ?
③安定の定番メニューと斬新に進化するメニュー
おいしさにも貪欲にこだわるのが原宿で愛される理由
④さくら亭が原宿に必要とされる理由
原宿には「さくら亭」が必要だ
①建物全体がアート!どこか不思議と懐かしい、ワクワクが詰まった秘密基地感
さくら亭はお好み焼き屋だ。しかし、ただのお好み焼き屋ではない。もちろんお好み焼きもおいしいけれど、それ以外の部分でもエンタメ要素が盛りだくさんなのだ。
まずはそのロケーション。原宿は神宮前3丁目、キャットストリート付近にありながら、周辺一帯は鬱蒼とした森のようになっている。新しいビルやテナントがポンポン建っていく昨今の原宿ではなかなか見ることができない光景を目の当たりにできるだろう。例えばこちら。
お分かりだろうか?建物を木が貫いているのだ。元々の木を活かしながら増築されていってこんな風になっている。アートインスタレーション?もしくはAIで生成したような画像なのかと思ってしまうようなこの光景、なかなか懐の広い原宿でもお目にかかれない。というか溶け込みすぎている。
屋内ではあるが屋外と連なった作りはまるで大人の秘密基地。ワクワクせずにはいられない構造となっている。そのワクワクを高めてくれるもうひとつの大きな特徴が店内の隅々から外壁にかけて描かれているアートの数々。
区画によって別のアートを見られるのでその時々で新鮮な気持ちになれる。場所によってさまざまなアーティストによる作品が出迎えてくれる。描き手を募集していたり、海外から訪れたアーティストが滞在中に描いていってくれることもあるという。
②お好み焼き×アート、なぜ?
なぜお好み焼き屋にアートが?そう疑問に思うのも無理はない。作品が1個、2個かかっているというレベルではなく店全体がアートに覆われているのだから。
そのルーツはさくら亭を運営するさくらグループにある。さくらグループは東京都内を拠点にアート、宿泊、飲食業を訪日観光客向けに展開している会社だ。観光、アート、宿泊を担う施設を原宿に誕生させたのはおよそ30年前にさかのぼり、さくら亭敷地内にはゲストハウス「さくらハウス」、隣接するギャラリー「デザインフェスタギャラリー」がある。
2Fテラスからは隣接するアートギャラリー「デザインフェスタギャラリー」の建物背面が見える。かなり前に、大規模な足場を組んで描かれたという壁画を見られる貴重なスポット。
反対側のテラスから望む柿の木は、秋にたくさん立派な実をつけそれが甘くておいしいらしい。実際お店で提供したりするそうで、なんだか自分の地元を思い起こさせる(桃やぶどうの果樹栽培がさかんな土地なので、配ったりもらって食べたりするのが普通。買うことはほぼない)。原宿で、郷愁感というかノスタルジーを憶えたのはちょっと驚き。
店長も「いろいろな人に懐かしいと言われる」と話してくれた。“懐かしい”と感じるトリガーは人それぞれ違うだろうが、周りに残った自然もあいまって、さくら亭にはノスタルジーを彷彿とさせる雰囲気がある。
③おいしさにも貪欲にこだわるのが原宿で愛される理由
ただ奇抜なだけでは30年という長い年月、原宿にあり続けるのは難しい。やはりお好み焼きのおいしさあってこそのさくら亭だ。創業当初の店名を冠した「さくら焼き」は不動の大定番。
さくら焼き(1,500円)
タネを見るだけでもそのおいしさが想像できるが、食べてみると想像以上においしい。ふわふわな口当たりにふんだんに使われた食材の味わいが口いっぱいに広がる。
おいしさの秘密は鰹節・さば節・宗田節・うるめ節に利尻昆布を加えて取った出汁。化学調味料は一切使っていないこだわりの出汁である。その出汁を通常の2倍量使い、たっぷりの山芋を加え、シャキシャキ食感を生み出す国産キャベツとの黄金比率を実現したふわとろのタネができあがる。
伝統の味を守り続ける一方で、新しいメニューの改良へ余念がない。それが顕著に分かる例を挙げるとゲストハウスに滞在した観光客の地元料理のレシピを使った、創作お好み焼きシリーズだ。
いただいたのはスペインの伝統料理トルティージャ(スペイン風オムレツ)風のお好み焼き。パプリカドレッシング風のさっぱりしたソースが、出汁の効いたお好み焼きと見事にマッチ!お好み焼きの新しい味覚に取材陣一同驚いた。
トルティージャ風 お好み焼き(1,500円)
抜群においしくて、さんざん食べ慣れているはずのお好み焼きの新しい可能性を感じたこちらの創作お好み焼き。さくら亭では引き続き世界のレシピを募集中だ。定番からこのようなアクロバティックなメニューまで面白そうなアイデアを形にして、お客さんを巻き込んで展開していく姿勢がさくら亭らしさであり、長年支持される人気の秘訣なのだと思った。
④原宿には「さくら亭」が必要だ
カルチャーの匂いが薄れつつある原宿。今時、さくら亭のようにこれだけのカオスな存在感を漂わせている店は珍しくなってしまった。画一的で一見、綺麗にデザインされたショップが増えたことでよりその特異さが際立つ。
その逆も然りで決して、クリーンで洗練されたお店を否定しているわけではない。さまざまな感性が交わる場所こそ原宿らしさなのだから。
だからこそ「さくら亭」という個性は人を引き付けてやまないし、この街に必要なスポットとして存在し続けている。トレンドだけに頼らず、かつ新しい試みを追求していく姿勢も原宿にふさわしいと言えるのではないか。
昔、何かと友達とお好み焼きを食べるのが楽しみだった気がする。デートでもリラックスしてお好み焼きが食べられるような相手なら言うことはない。お好み焼きはコミュニケーションを取るのにすごく良い食べ物だと思う。一枚の鉄板の上で、さまざまな食材をひとつの円にして焼き上げる。それをピザのようにシェアして食べる。
さまざまな個性が混ざり合って調和し、一つのかたちをなすというのもなんだか原宿的な食べ物と言える気がしてきた。
距離を縮めたかったり、気兼ねなく話をしながら食事を楽しみたいならやっぱりお好み焼きなのだ。ちょっと強引かもしれないけど、とにかく気の置ける仲間、恋人、家族と食べるお好み焼きのそのおいしさは格別だ。
原宿に来たなら、世界各国の文化がお好み焼きのタネのように混ざり合うさくら亭に足を運んでみてほしい。グローバルな街の台所は、いつでも懐深く出迎えてくれるだろう。
■原宿さくら亭
住所:東京都渋谷区神宮前3丁目20−1 202
電話:03-3479-0039
営業時間:11時00分~23時00分
定休日:なし(不定休)
URL:原宿さくら亭オフィシャルサイト
Text:Tomohisa Mochizuki
Photo:OMOHARAREAL編集部