【レポート】原宿拠点のオークションハウス『NEW AUCTION』主催のアートオークション「NEW 002」
「7300万円で落札です」。
〈タンッ!!〉
会場にオークショニアによる小気味良いハンマーの音が響く。これは、実際に原宿の街でオープンな形式で行われたアートオークション「NEW 002」の一幕だ。
表参道・原宿エリアにはアートギャラリーが数多くあり、他の街よりもアートを見る機会は多い。しかし、アートを見ることはあっても、アートを買う・所有するという物理的な距離は一般的にはまだまだ近いとは言えないのかもしれない。そんな中で2021年6月に原宿を拠点とする、新しいオークションハウス『NEW AUCTION』が発足した。
初回となる「NEW 001」に続いて、先日「NEW 002」がTHE ICEBERG TOKYOにて開催された。原宿を拠点とする、新しいかたちのオークションをレビューしたい。
アーティストの個展や合同展以外で、アートを購入する間口であるオークション。『NEW AUCTION』はパブリック性の高いオープンな場所で開催するとともに、売上金の一部をアーティストに還元する国内初となる「アーティスト還元金制度」を取り入れているのも“NEW”な特徴。
アートオークションというと敷居が高く、縁遠く感じる人が多いかもしれない。ダ・ヴィンチのようなルネサンス期の名画から、ゴッホにピカソ、ウォーホルにバスキア。数億円〜数百億円で落札されればたちまちニュースとなって世の中を駆け巡る。世界のアートマーケットの盛況ぶりに驚きつつ、お金があるところにはあるんだなあ。と目をパチパチさせているわけだが、誰もが入れる公共性の高い場所で、実際にオークションの現場を見る機会というのはあまり無いのではなかろうか。
オークション会場のTHE ICEBERG TOKYOへは、『NEW AUCTION』のサイトから事前に参加登録さえすれば誰でも参加&入場可能。当日も空席が出ればだが、その場でQRコードを読み取って登録ができたようだ。先着順で出品カタログが用意され、ミヤシタパークにあるギャラリースペース「SAI」では、事前の作品プレビューが行われた。せっかくなのでオークション前日にSAIでのプレビューへも足を運んでみることに。
ミヤシタパーク内にあるギャラリー SAI
リキテンスタインやウォーホル、キース・へリングといったポップアートの巨匠から、村上隆、バリー・マッギー、KYNEなど原宿でファッションやカルチャーが好きなら、馴染み深いであろう面々の作品も多く登場。カタログを眺めながらのプレビューは胸が躍る。
本オークションの目玉作品たち。左からロッカクアヤコ「Untitled」、KYNE「Untitled」、村上隆「Untitled(Flower Collaboration with Madsaki)」
オークション会場とともに、出品数もスケールアップしたため、プレビューは会期ごと2部に分けて行われた。カメラでQRコードを読み取れば、アーティストの作品ページへと直行。落札見積額(ESTIMATE)を確認したり、アーティストや作品の概要、来歴が見られるのは便利だ。
KAWSやINVADERといったストリートカルチャーが好きならマストな作品から、今、世界中のアートコレクターからラブコールを受けているジョナス・ウッドの静物画、シンディ・シャーマンの代表作の一つ「Untitled #122」、アメリカを代表する画家、故ウェイン・ティーボーの作品など、国内のアートオークションではほとんどお目にかかれないという希少な作品までが一堂に会した。同じ空間に時代やジャンル、手法を越えたアーティストたちの作品がズラリと並ぶ様は圧巻だった。プレビューとはいうものの、企画展のような感覚で楽しむことができた。
大満足だったプレビューを経て、当日のTHE ICEBERG TOKYO。会場前の明治通り沿いを行く人たちも、何が行われているのか気になる様子。通りすがりに会場内に視線を送っている人が多かった。
会場のTHE ICE BERG TOKYO前 当日の様子
ウェイン・ティーボーや、村上隆とMadsakiのコラボレーション作品など、会場には目玉の作品がいくつか掲げられていた。プレビュー会場からオークション会場にやってきた作品たちは新たなオーナーの落札を静かに待つ。
オークション会場風景
THE ICEBERG TOKYO 1Fに入る「foru cafe」が通常営業しているすぐ奥で「NEW 002」は行われた。間仕切りはないので、オークションをやっているのは一目瞭然である。たまたま訪れて『NEW AUCTION』を知った人も多いだろう。“お茶しに来たらオークションをやっている”というユニークなハプニング性も、『NEW AUCTION』ならではと言える。
従来のオークションのように、電話はもちろんオンラインでの参加も可能。ブースの準備は万端の様子。だんだんとお客さんも集まり、会場のムードも高まってきた。
オークショニアが登壇し、作品名と作者を読み上げ、競売がスタート。まさにテレビや映画でみていたオークションのそれだった。落札されていく様子はスピード感と臨場感にあふれ、画面の数字の動きを見ているだけでもテンションが上がってくる。
やはりKYNEや村上隆と言った、メジャーなアーティストは人気でカタログの落札見積額を上回る盛況ぶり。OMOHARAREALでもインタビューや個展のレポート記事を掲載している、ミューラルアーティストLyの作品も出品され落札されていた。アーティストと面識はなくとも、好きなアーティストたちの作品が目の前で落札されていくのを見るのはシンプルに嬉しいしテンションが上がる。普段ギャラリーやメディアで目にしているアート作品にどのようなファンが付いているのか、評価されているのかを垣間見ることができるのも醍醐味だ。
この日の最高落札作品は、自身の手を使い作品を描く画家・ロッカクアヤコの「Untitled 2016」。国内外で高い評価を得ている作家だけに、スタート価格もずば抜けて高額だった(それだけ事前入札が入っていたということである)。
一昔前まで、オークションといえば“往年の画商”といった佇まいの渋い年配の方々たちがほとんどだったという。しかし近年、世界中でニューリッチな若い富裕層が台頭し、オークションを取り巻く雰囲気は変わってきているそうだ。『NEW AUCTION』もまさにそうで、会場にはおしゃれな人たちが集まり、リラックスした雰囲気で行われているのが印象的だった。その変遷と様相は表参道・原宿とも重なるように思う。
今ではすっかりメゾンブランドが建ち並ぶ通りとなった表参道沿いも、90年〜2000年代初頭以前は、比較的インディペンデントなブランドやアングラなお店が数多く街の中に存在していたはずだ。もともと漂っていたハイクラスの気配が青山方面から徐々に広がり、今の“オモハラ”を形成している。
通りからも見えるオープンな会場で、目の前でリアルに作品が競売にかけられているというのはなんともドラマチックだ。かつて裏原カルチャーを作ってきたクリエーターたちは手刷りのTシャツをD.I.Y.したり、あるいは小さなショップの片隅から始まり、今や世界中でファンを獲得した。裏原宿から世に出たブランドがコレクションのランウェイを飾っているのと同様に、街のギャラリー(あるいは壁や、展示スペース)からスタートしたアーティストたちもまた、世界中のコレクターが作品を追い求める存在になっている。それを目の当たりにすると、アートを志す人、アーティストを支えるファンやギャラリーも、夢やロマンを抱かずにはいられないだろう。
Mr.「Happy,2015」
『NEW AUCTION』は数千万円の高額な作品から数万円の比較的手頃な作品まで、プライスレンジの広さも魅力だ。ちょっと手を伸ばせば、オークションに参加して貴重なアートが手に入るかもしれない。広く門戸を開き、その懐の広いスタンスが『NEW AUCTION』らしさのひとつであり、表参道・原宿が積み上げてきた様々なカルチャーの起こりを彷彿とさせる。カタログやプレビューを見るだけでも知識を得られるし、アートを所有するという関わり方の提案という点でも、『NEW AUCTION』は表参道・原宿のアートシーンを次なるステージへと引き上げる起点となるかもしれない。
Haroshi 「BE@RBRICK karimoku Haroshi 400%」
近年投資を目的としてアートを買う人は増えているというが、アートを買うという行為自体、作品や文化を守ることにも繋がる。しかも『NEW AUCTION』はアーティストに売上の一部が還元されるので、アーティストを直接支援することになるのだ。今すぐには買うことはできなくても、いつか自分でもアートを買いたいと刺激されるような経験だった。表参道・原宿にはギャラリーが多くアートの街でもある。そんな街に生まれた新しいオークションハウスの今後に期待したい。
すでにオフィシャルサイトでは全作品の落札価格が掲載されている。(最低落札額に届かなかったものを除く、手数料込みの金額)。次回「NEW 003」開催は2022年の11月を予定しているそう。ぜひ一度、スピード感のあるオークションのリアルな雰囲気を体感してほしいし、我こそはと思う人は、購入資金とともに受付番号の札を上げる準備を整えておこう。
■概要
「NEW 002」
開催日:2022年6月11日(土)
時間: START 14:00〜 (OPEN 13:30〜)
場所:THE ICEBERG TOKYO
住所:東京都渋谷区神宮前6-12−18
URL:NEW AUCTION公式サイト
Text:Tomohisa Mochizuki
Photo:OMOHARAREAL編集部