神宮前交差点、原宿カルチャーの歴史と未来を発信する工事用仮囲い
明治神宮前駅7番出口から眠い目を擦りつつ地上へ出ると、たくさんの人が行き交う。仕事の電話対応に追われながら足早に職場や取引先を目指す人もいれば、ラフな格好でのんびり歩いている人もいる。当たり前だが髪の色も肌の色もファッションもバラバラだ。
そんな見慣れた光景に溢れる神宮前交差点。現在、一際目を引くのが工事用の仮囲いである。かつてオリンピアアネックスやCondomaniaがあった場所に建つこの仮囲いには「原宿にカルチャーの“匂い”を取り戻せ」という挑発的とも言える見出しのインタビュー記事が掲載されている。
TOKYU PLAZAを対面にした面には、「まだ知らない原宿へ。」のキャッチコピーとともに多様なインフルエンサー、アーティスト、クリエイターたちのセルフィーやポートレートがずらりと並ぶ。
近年、工事用仮囲いにアートを掲げる事例は比較的目にするが、インタビューやヒストリーをまとめた仮囲いを見たのは個人的には初めてである。初見はまるで超大判サイズのZINEを読んでいるような感覚だった。
この場所には「神宮前六丁目地区第一種市街地再開発事業」として2023年開業予定の東急不動産による新たな複合大型施設が建設される。現在開業に向け着々と工事が進められている状況だ。
この仮囲いの面白いところは、明治通りを挟んですぐの路地裏にある、古民家をフルリノベーションしたイベントスペース「UNKNOWN HARAJUKU」と連動していることだ。
ここでは2020年11月にオープン以降、定期的にアート展示やイベントなどが行われている。
仮囲いのインタビュー写真も「UNKNOWN HARAJUKU」で撮影されたもの。フィーチャーされているのは気鋭のクリエイター5名。フリースタイルバスケットボーラーZiNEZ、映像作家・写真家の小野直樹、水墨画アーティストのCHiNPAN、フラワーアーティストKoichi Hashiguchi、アートディレクター・ペインターのOLIだ。
インタビューに登場するメンバーは歯に衣着せぬ物言いながら、原宿の未来に希望を抱く。時代にフィットした新しい方法を模索し、自分たちが新しい歴史を作っていくことに意欲的でポジティブな姿勢がインタビューから見てとれる。
ヒストリーの面は明治神宮の創建、木造の原宿駅二代目駅舎が建てられた1920年代からの原宿が綴られている。戦後の50年代はアメリカ軍駐留者たちの生活様式と交わり海外文化が流入。1964年の東京オリンピックをきっかけに開発が進むとともに、クリエイターが集結。原宿独自のカルチャーが形作られていったことが分かる。
1920年代:明治神宮・新原宿駅舎創設
1950年代:異国文化の醸成
1960年代:クリエイター集結
1970年代:ロリータファッションの台頭
1980年代:竹の子族・ローラー族
1990年代:原宿系/裏原系
2000年代:原宿KAWAII文化
2010年代:多様化し続けるトレンド・エリアに
70年代のロリータファッションブーム、80年代の竹の子族・ローラー族の台頭、90年代に勃興したいわゆる青文字系と呼ばれるガーリースタイルと裏原宿ムーブメント、2000年代の原宿KAWAIIの世界的飛躍など、2010年代までの変遷が簡潔にまとめられている。
来る2023年に完成を見る大型施設の外観モデルも公開されている。建築デザインを手がけるのは、自然や周辺環境との接点を持たせる「エコロジカルな建築」を提唱し、手がけた美術館や図書館、集合住宅が注目を集める建築家・平田晃久氏。新しい商業施設は、緑豊かな屋外部分が印象的である。自然と都市が隣接する原宿に親和性が高いデザインと言える。
土地の歴史がこうして年表としてまとめられるのは、時代によってさまざまな表情を持ち、地層のように重なった多様な文化を作り出してきた原宿という街ならではだ。果たして2020年代はどんな時代として記録されるのだろうか。
大きな商業施設ができるだけでは、原宿にカルチャーの“匂い”は取り戻せないだろう。だからこそ本丸が出来上がるまでのおよそ3年ほど前から、街に根を張り「UNKNOWN HARAJUKU」という感性の集まる拠点を通じて、カルチャーの芽を育てていこうと試みているのだ。
「セントラルアパートがあった頃に比べてカルチャーの匂いが漂ってこない」と、率直な感想を仮囲いのインタビューで述べていた小野直樹は、ZiNEZとともにアーティストレーベル「DaP」を運営。ともに「UNKNOWN HARAJUKU」のイベントプロデュースを担っている。
2021年2月に彼らは「UNKNOWN HARAJUKU」に100組のアーティスト・クリエイターを招聘したアートイベント「UNKNOWN GALLERY」をスタート。第二弾として8月から9月半ばまでは「UNKNOWN GALLERY SUMMER」を開催中だ。
イベントではジャンルやボーダーを超えて、次世代のクリエイターをサポートするカルチャー発信拠点「UNKNOWN HARAJUKU」のコンセプトを体現していく。
聞くところに依れば、仮囲いのインタビュー面は工事が進んでいくごとに、更新していくアイデアがあるという。建設状況だけではなく同時に、少し離れた「UNKNOWN HARAJUKU」で発育していく感性を間接的に認識できる装置なのかもしれない。
裏路地の古民家から培われた感性が根を伸ばし、新たな商業施設に接続されるとしたら、外見だけでなく、内側のコンテンツも充実したものになるのではないか。という期待を抱かせてくれる。
仮囲いにふと目が留まったなら、今はまだ微かなカルチャーの匂いに誘われて「UNKNOWN HARAJUKU」を訪ねてみてはいかがだろうか。新しく生まれる文化の胎動を感じられるはずだ。
街を作る上で重要なのは施設だけでなく、そこに生きる人がどのように使い、場を育てていくかが肝要である。「UNKNOWN HARAJUKU」とここに建つ商業施設が街の人々を結びつける役割を果たし、新しい歴史を紡ぐひとつのきっかけとなることを願う。
■概要
神宮前六丁目地区第一種市街地再開発事業
「神宮前六丁目地区再開発ビル(仮称)」
住所:東京都渋谷区神宮前6丁目 1000 番
開業:2022年度(2023年)予定
UNKNOWN HARAJUKU(アンノン原宿)
営業時間:12:00~20:00
住所:東京都渋谷区神宮前6-5-10
入場料:無料
定休日:木曜日
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