【レポート】Spiralの「OKETA COLLECTION: A NEW DECADE」 草間彌生、村上隆、フューチュラ…豪華作品大集結!
ひとの本棚やクローゼットを見せてもらうのは面白い。それが美術コレクションなら、もっと面白い。
現在Spiral Gardenにて開催中の「OKETA COLLECTION: A NEW DECADE」は、日本有数のアートコレクターである桶田俊二・聖子夫妻のコレクションが一般公開される貴重な機会だ。
会期は8月10日まで。気負わずふらりと立ち寄れるSpiralの立地がまた、うれしい。
「表参道」駅B1出口の、本当に目の前にあるSpiral。ショップやカフェなども併設している複合文化施設だ。
桶田夫妻が作品をコレクションする上でのキーワードは “一目惚れ(love at first sight)”。それを冠した2019年の「OKETA COLLECTION: LOVE@FIRST SIGHT」に続き、今回は第2回目のコレクション展となる。本展のタイトル「 A NEW DECADE」は、“新しい10年” という意味だ。
外出や交友といった活動を押し込める必要があったこの春〜夏は、働き方や大切な人との向き合い方、そして自分自身のあやし方について見つめ直すきっかけとなっただろう。主催者はアートを通じて、私たちがこれから始める時代の基礎となるべきアイデアを提示しているのだ。
豪華絢爛そろい踏み
鑑賞者同士の適切な距離を確保するため、本展では事前にチケットアプリからの日時指定予約が必要となる。当日でも手続きは意外とサクッと完了するので、身構えることなく試してみよう。新しい10年のアート鑑賞スタイルではこれがスタンダードになるのかもしれない。
ウーゴ・ロンディノーネ《blue pink mountain》2019年
エントランス近くに展示されるのは、ブルーとピンクに密度高く塗られた “岩”。岩だというのに、このポップさ。色の力ってすごい。
展示会場の様子。ゲルハルト・リヒター、草間彌生、村上隆、奈良美智……そうそうたるアーティストたちの作品が連続する。隣接したカフェでは、この贅沢な眺めを楽しみながらコーヒーを嗜む人たちも多数。
本展では21名のアーティストによる約20点の作品が展示されている。残念ながら、この記事ですべてに触れることは叶わないが、そのエッセンスをご紹介したい。
ゲルハルト・リヒター 《Abstract Painting (940-3)》 2015年
ゲルハルト・リヒターのペインティングを何気なく見られるチャンス、それだけで桶田夫妻への感謝が溢れてしまう。絵画の写真を撮るのもナンセンスかと思いながら、ダメもとでシャッターを切ってしまった。しかしこんなものではない。強制的に色彩が流れ込んでくるような感覚、塗料の盛り上がる勢いをぜひギャラリーで実感してみてほしい。
光を浴びるプチプチ
会場を奥に進むと、吹き抜けになったアトリウム空間に出る。強烈に目を引くのは、泡のようなガラスビーズに覆われた鹿(の剥製)だ。粒は透明度が高く、大小のひとつひとつが周囲を映し出す。
名和 晃平 《PixCell-Deer#48》 2017年
「PixCell」シリーズは、京都を拠点とするアーティスト名和晃平氏の代表的な作品だ。PixCellはPixel(画素)とCell(細胞)を融合させた造語だという。
鹿の目を捜して回り込んだら、ガラスビーズによって異様に拡大された黒目といきなり目が合ってギョッとした。遠目には触るとパチンと壊れそうに見えたけれど、粒のひとつひとつは意外と質量が大きい。はち切れそうな魚卵を思わせた。
(手前)サーニャ・カンタロフスキー 《Good Host II》 2019年
自分なら本展の中でどの作品を買うか? と本気で考えた結果、個人的にはこれを選びたい(置き場所は度外視するとして……)。モスクワ出身のアーティスト、サーニャ・カンタロフスキーの大きなペインティングだ。一見するとナビ派を思わせる穏やかで平面的な画面なのだが、なんだこの不穏な空気は?
子犬を抱えたロングヘアの女性が、扉の前で子どもに向き合っている。扉の向こうからは赤い腕がニュッと伸び、子どもの肩を抱く。子どもの顔は描かれていないが、そこに鼻を近づける子犬は何か言いたげで、どこか悲しそうだ。強い筆致で描かれた女性のポニーテールは子どもに向かって触手のように垂れ下がって、正直怖い。夢に出そうだ。
街とアートのエネルギーに挟まれて
アトリウムの反対側にある、246(青山通り)に面した展示スペースへ進む。左手前の作品も、ずいぶん長い間見つめてしまったもののひとつ。アメーバのようなつかみ所のない形のキャンバス一杯に、“柄” が溢れているのだ。
松山智一《Sing It Again Sweet Sunshine》2019年
ニューヨークを中心に活動する松山智一氏は、最近リニューアルした新宿東口駅前広場のパブリック・アートも手掛けている。東京で生活する上で、今後幾度となく触れることになるアーティストだろう。
同作品(部分)
漫画のスクリーントーンのように “柄” がひしめき合う。エリアは厳密に区切られ、混ざり合うことはない。サイケデリックな色彩の中に、日本画風の精緻に描かれたネコ・ヤギらが共存しているのが面白い。
FUTURA(フューチュラ)《FL-001》2019年
246を背景に佇むエイリアンがいた。グラフィティ・アーティストFUTURAによる立体作品だ。この頭、この耳、この両手……エイリアンに違いない。「我々は宇宙人だ」と宣言こそしていないものの、そうとしか見えない。地球人だったらどうしよう。ごめんなさい。でもそんな見た目をしているあなたが悪いのだ。
展示場内には、街の風景を眺めながら腰掛けることができる椅子がいくつか設置されている(写真中央)。ベンチではなく、一人掛けの椅子だ。
展覧会仕様なのかと思いきや、これはSpiralの設計者である槇 文彦氏による設えで「都会の中でひとりになれる場所」として常に用意されているものだそう。
ロッカクアヤコ《untitled》2019年(部分)
ロッカクアヤコ氏は、絵筆を使わずに指で描くスタイルのアーティストだ。キャンバスに直接触れているだけに、力強い色の圧を感じる。ギョロリと目を剥いた女子のスカート(?)は大きくひるがえり、何かと戦っている最中のように見えた。
教えてよ好きなものを
アートコレクターのとっておきコレクションを鑑賞できる、しかも無料で。それはもはや “お宅拝見” に近いワクワクだ。並んでいるアートは、制作者はもちろん、テーマ、バックグラウンドもそれぞれ。ただ「桶田夫妻に惚れられた(選ばれた)」という共通点のみで繋がっている。
椅子に腰掛けて表参道の街を見渡す。
難しいことは考えず、本展では現代アートを “購入するモノ” として眺めてみるのはどうだろうか。実際に買えるかどうかなんてことは問題ではない。自分だったらどれが欲しいのか? どれを手元に置くのか? という視点は、楽しく新鮮だ。これまで自分でも無意識に “鑑賞させていただく、芸術に触れさせていただく” という、必要以上の低姿勢になっていたことに気付かされた。
アートは素晴らしいもので、私たちに恐らく必要なものだ。だけど、その逆だってそうだったのだ。感性というのはアーティストにだけあるものではない。これが欲しい、これが好き、いいと思う……そういう鑑賞者(コレクター)の感性は、アートにとって必要なはずだ。新しい10年、萎縮している場合ではない。自分が何を好きと思うのか、真剣に考え、それを大切にしようと思った。
アートを愛する主催者からの熱いエールは、日頃アートに対する敷居の高さを感じている人にこそ響いてほしい。8月10日まで、まだ行ける。
Text / Photo:Mika Kosugi
■概要
OKETA COLLECTION: A NEW DECADE
会期:2020年7月23日(木)〜8月10日(月)
開館時間:11:00〜20:00
(閉館時間は変更される可能性があります。当日の営業時間は、スパイラルホームページをご確認ください)
入場料:無料(要予約)
入場にはArtSickerでの予約が必要になります。
こちらArtSickerのサイトよりご予約ください。
*入場を制限させていただく場合があります。
開催場所:スパイラルガーデン(スパイラル1F)
住所:東京都港区南青山5-6-23(東京メトロ 表参道駅B1・B3出口すぐ)
主催:OKETA COLLECTION
キュレーター:児島やよい
A NEW DECADE公式サイトはこちら
<出展アーティスト> *アルファベット順(21名)
シュテファン・バルケンホール、ハビア・カジェハ 、フューチュラ、五木田 智央、マシュー・デイ・ジャクソン、サーニャ・カンタロフスキー、草間 彌生、タラ・マダニ、松山 智一、村上 隆、オスカー・ムリーリョ、奈良 美智、名和 晃平、ルビー・ネリ、ダニエル・リヒター、ゲルハルト・リヒター、ロッカクアヤコ、ウーゴ・ロンディノーネ、スターリング・ルビー、ヴィルヘルム・サスナル、ピーター・ソール