地層に眠る記憶からパンクの誕生まで 藤原ヒロシが描き出すカルチャーのアーカイブ
表参道のランドマーク、表参道ヒルズがいよいよ開業20周年を迎える。そのメモリアルイヤーを飾る一大イベント「OMOTESANDO HILLS 20th」が、ストリートカルチャーの牽引者・藤原ヒロシのクリエイティブ・ディレクションによりついに開幕。

今回は、かつて開業時に館内音楽を手がけるなど、この場所と深い縁を持つ藤原ヒロシ本人の視点を通じて、街や文化の記憶を掘り起こすようなプレビューの模様をレポートする。
開業20年の表参道ヒルズで見えてきたU.K.パンクと街との連なり
メディア向けのプレビューは、B3Fスペース・オーで開催されるU.K.パンク50年を凝縮した「inception (1976)」のメディアツアーから。

U.K.パンク誕生から50年を振り返るエキシビションは「SEX PISTOLS(セックス・ピストルズ)」が結成した1976年というパンクの原点、当時の熱量が生々しくアーカイブされている。ラグジュアリーな表参道ヒルズの空間において鮮烈なコントラストを放つ展覧会だ。

ツアーを引率し、解説してくれるのは70年代〜80年代のロンドンパンクファッションに現代的な解釈を加えた日本のファッションブランド「PEEL & LIFT(ピール & リフト)」の細谷武志さん。
細谷さんは「UNDER COVER(アンダーカバー)」から独立し、2005年に「PEEL & LIFT」を立ち上げた。U.K.パンクのスタイルとアティチュードを受け継ぎ正当進化させている第一人者である。贅沢この上ない。

会場内にはピストルズにまつわるこれまでのポスターやグッズ、さらにはその生みの親であるヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンによるファッションアイテムが一堂に会している。
展示されているのは藤原ヒロシさん、細谷武志さん、そして世界的なコレクターによるアーカイブなのだそう。中には世界に数枚、ここにしかない、といった超貴重なアイテムが展示されている。確かに契約破棄で廃棄された2nd「God Save the Queen」(のちにヴァージンレコードからリリース)のレコードなんてどうやって手にいれるのか見当もつかない。

モノから服、当時の新聞やセル画の原盤、U.K.パンクにまつわる博物館級の私蔵コレクションに参加者はみな目を奪われていた。

圧巻はマネキン40体にスタイリングされた、ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンによる「SEX」、「SEDITIONARIES」、「WORLDS END」に跨るパンクファッションのクロニクル。もはや祭壇のように神々しい。

ボンテージシャツ、パラシュートパンツといった代表的なものから、藤原ヒロシさんが16歳のときに買ったというモヘアのカーディガンまで!
凹凸が特徴的なマウンテンハットもまた、ヴィヴィアン・ウエストウッドを象徴するアイテム。

天井から吊るされた夥しい数のTシャツは全て手刷りのシルクスクリーンプリントによるもの。同じ柄でも微妙に位置や色が違ったりと奥が深い。ボディもまちまちで、パンクカルチャーならではの生々しいカオス感を漂わせる。

解説を聞いて思ったのは、U.K.パンクによって生み出されたものが、当然といえば当然、のちの裏原宿ムーブメントに連綿と繋がっているということ。例えば藤原ヒロシさんによる「GOOD ENOUGH(グッドイナフ)」のあのアイテムのルーツはこれなんだ。というような、いわゆる“元ネタ”を発見する感覚が面白かった。

歴史的なアーカイブというものは、漠然と抱いているイメージの解像度をグッと高めてくれる上、新たな視点と発見をもたらしてくれるということを大いに感じる展示だった。なにより、このスケールでアイテムを集められるのがすごい。アーカイブすることの大切さを痛感させられる。

このシャツをオーダーした発注書、なんてものもコレクターアイテムなんだとか
さらに表参道の館内外の展開でひときわ目を引くのが、藤原ヒロシのオファーにより実現した画家・森本啓太さんによる周年ビジュアルだ。

10代でカナダへ渡り、レンブラントなど古典絵画のキアロスクーロ(明暗法)に強く影響を受けたという森本さん。彼の作品は、表参道やキャットストリートといった見慣れた現代の都市風景を、まるで宗教画や魔法のような光と影でドラマチックに切り取っている。
世代を超えた二人の感性が共鳴したビジュアルは、ただの記念広告の枠を超え、今の街の空気を封じ込めた見事なアートピースとして存在感を放っていた。

入り口には原画が展示されているので、その精細な筆致を直近でぜひ見て欲しい。

U.K.パンクとナウマンゾウ カルチャーが交差する空間
さらに、20周年記念展示を彩るのは大階段の踊り場に出現したポップアップショップ。その名も「ODORIBA」。テントで覆われた中にはミラーボールが吊るされ、まるでディスコクラブのような雰囲気に。

少々手狭と感じるほどのスペース。昔原宿駅前にあったという雑貨店の集合体「テント村」もこんな感じだったのかと頭を過った。

ここに並ぶのは、藤原ヒロシさんが主宰する「fragment」やディレクションを手がける表参道「V.A.(ヴイエー)」を始めさまざまなブランドとの限定コラボ商品たち。

数あるアイテムの中でも密かにローカルの心をくすぐったのが、「ナウマンゾウ」をモチーフにしたプロダクトである。実はこれ、かつて原宿駅の改修工事などで化石が出土したという、この街の知られざる歴史に由来するもの。

コンクリートの地下に眠る太古の記憶すらも、藤原ヒロシの手にかかれば遊び心あふれるストリートのアイテムへと昇華されるというわけ。そのユニークな視点がプロダクトからも垣間見えるというのが魅力だ。

かと思えば、cado(カドー)とのコラボモバイルファンのような“イマドキ”のアイテムが登場するギャップが面白い。裏側にはfragmentのロゴが入る。
そしてメディアツアーの最後、我々編集部は藤原ヒロシさんと短いセッションの機会を得ることができた。
藤原ヒロシが語る、歴史を掘り下げる意味と表参道・原宿の原風景
開業時からこの場所を見つめ、数々のカルチャーをアーカイブし続けてきた氏に、オモハラのローカルメディアとして問いを投げかけた。まずは、長年この街を見続けてきた藤原ヒロシさんは街の変化をどのように捉えているのだろう。

「“昔は良かった”って言う人は多いですよね。だけど、本質的には良いように進化してるなとは思います。昔から実は全部が全部尖ったような街ってこともなく、他の街と比べても、牧歌的な場所が今も残っていますから」
今回の「inception (1976)」然り、同日2026年5月1日(金)に上梓されたFace Recordsの武井進一氏による著書『The History of Record Stores in Shibuya & Beyond』の監修然り、歴史に目を向ける機会が比較的多く見受けられるような気がしなくもない、藤原ヒロシ氏。今、氏にとって歴史を振り返るフェーズなのか、率直に尋ねてみた。
「昔のことって掘れば情報がどんどん出てくるんですよ。テクノロジーが進化すればDNAの解析が進んだりとか、テクノロジーによって過去のものが鮮明になっていくじゃないですか。僕はどちらかというと、まだ見ぬ未来や宇宙よりも、海底とか地層とか、歴史のように掘れば見えてくるものを見つける方が面白いんですよね」
「inception (1976)」も、まさにそのような感覚だった。今までファッションとしか捉えられていなかったU.K.パンクのイメージ、知られざる側面やディテール、その実態を膨大なアーカイブで鮮明に浮かび上がらせ、輝かせるような展覧会となっていたから。時を経て、このタイミングだからこそ、正しいカルチャーの全体像を見通すことができた。それはまさに時代とテクノロジー、ネットワークが進化し、拡大した恩恵と言えよう。

ピストルズが使っていたアンプを収納していたアンプケースは藤原ヒロシさん所有のもの。実際に使われていた写真がメインヴィジュアルに使われている。
また、藤原ヒロシさんと切っても切り離せないのがU.K.パンクを含む、音楽そのものである。20年前、表参道ヒルズ館内の音楽を制作している。音楽がこの街に与える影響についてはどのように考えているのか?

「昔は音楽とファッションは一緒だったんですが残念なことに、今は音楽とファッションは離れてしまっているなと思いますね。“フェス文化”が台頭して、みんなレインコート着て、パンクもヒップホップも聴く。ファッションによってカテゴライズされていないですよね。この展覧会でお見せした時代というのはファッション、グラフィック、音楽、全てがひと繋がりだったんです」
再び音楽とファッションが接近してほしいという筆者の願望を伝えつつ、藤原ヒロシさんに表参道・原宿は今後どうなっていくのか?あえて、野暮な質問をさせてもらった。
「僕自身、これからもこの街はあまり変わらないんだろうなと思っていますけど、規制が多くなったヨリ戻しでまた自由になればいいなと。この街だけじゃなくて世界中の都市で、少しづつそういうことが起こっているという気配は感じています」
振り子のように、また自由な表参道・原宿の時代が来るかも。そんな言葉を藤原ヒロシさんから聞けたらワクワクしてしまう。最後に、藤原ヒロシさんの表参道・原宿を初めて訪れたときの原風景はどんなものだったのかを聞いてみた。
「レオンで待ち合わせしてたんですよ。その時は、そんなにおしゃれな場所だなんて全く認識してなかったです。東京にいる大学生の友達を頼って、中学生のときに初めてこの街に来ました。ラフォーレ原宿が1978年なのでオープンするかしないか、くらいの時だったんじゃないですかね。僕はあのレオンに行ったことがあるんだよな、という感覚です」
あらためて藤原ヒロシさんとは表参道・原宿の歴史にまつわる話をしたい。そう告げてセッションはひとまず終了した。

アーティスト・森本啓太が描く魔法のような現代風景、ナウマンゾウが眠る太古の記憶、70年代のパンクの衝動、そして現在進行形のストリートカルチャーまで。表参道ヒルズの20周年は、まさにこの街の多様性を証明するような祭典だ。

温故知新を地でいきながら、常に新しい価値を提示し続ける藤原ヒロシが紡ぎ出す「記憶の集積」。ぜひその目で確かめに、表参道ヒルズ20周年を祝う文化の祭典へと、足を運んでみてほしい。

■「OMOTESANDO HILLS 20th」
POP UP STORE「ODORIBA」
住所:東京都渋谷区神宮前4丁目12−10
開催期間:2026年5月2日(土)~7月20日(月・祝)
開催場所:表参道ヒルズ 本館吹抜け大階段
開催時間:11:00~20:00
■inception(1976)
開催期間:2026年5月2日(土)~5月17日(日)
開催場所:表参道ヒルズ 本館B3F スペース オー
開催時間:11:00~20:00
入場料:大人2,000円(税込、現金不可)/学生および15歳~18歳無料
※本展は、15歳未満の方のご入場はご遠慮いただいております。
※ご入場時に学生証や年齢確認のための身分証のご提示をお願いする場合がございます。
※会場内はキャッシュレスとなりますのでご了承ください。
※記載の内容は予告なく変更となる可能性があります。
Text :Tomohisa Mochizuki
Photo:Tota Mizutani
Tomohisa Mochizuki
- マネージャー
- 望月トミー智久
tommy


























