
「ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」 で魅せられる、美しき手仕事の世界
表参道・原宿エリアでいま、見逃せない展覧会と言えば明治神宮前駅直結、原宿駅にもほど近い場所で行われている「ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」だ。
ロエベは個人的に好きなブランドだけれど、結論から言うとブランドやファッションの知識がなくても大丈夫。というより予備知識を持たずに、純粋に心を揺さぶられてほしいと思う展示だった。観覧後にもこのレポートを読み直して共感してもらえたら嬉しい。
展覧会エリアのひとつ「意外な対話」のスタジオジブリの世界観を表現した小部屋
ロエベが東京・日本橋三越にヨーロッパ圏外初の旗艦店をオープンしたのが1973年。2023年11月にリニューアルオープンした「カサロエベ表参道」を中心に、今に至るまで文化と創造性を発信し続けているブランドである。
「カサロエベ表参道」は青山交差点のすぐ近く、その反対側に位置する神宮橋隣接の本展覧会会場。まるで表参道の両端をつなぎ、結ぶようにロエベによる“クラフテッド・ワールド”が展開されている。言わば、街単位のスケールでロエベの世界観を体現する象徴的なイベントだ。さっそくメディアツアーに参加した。
「ロエベ クラフテッド・ワールド展」は行かなきゃ損!圧倒的なクラフトワールドを体感する
会場は大規模で、7つのエリアに分かれている。会場デザインをロエベとともに手がけたのは建築家レム・コールハース率いるOMA(Office for Metropolitan Architecture)とOMAに属するリサーチ&デザインスタジオAMO。
都市において公共性が高い建物を多く手掛け、モダニズムあふれる設計とデザインで知られる。国内では虎ノ門ヒルズステーションタワーを手がけて話題となったエージェンシーだ。なのでファッションだけでなく、建築が好きな人が楽しめる点も、この展覧会の大きな魅力。
個人的に、OMA/AMOの雰囲気を特に感じることができたエリア「クラフトの連帯」。本文でも後ほど紹介する。
入り口には無数のサイネージに映し出されたガイドが、まるでテーマパークのアトラクションのような期待を抱かせる。
最初に訪れる展示エリア「手から生まれたもの」では、ロエベが1846年にレザー工房として始まり、スペイン王室御用達、LVMHグループの一員となり現在に至るまでの歩みが紹介される。
1905年ロエベの2代目オーナー、エンリケ・ロエベ・ヒントンはスペイン国王・アルフォンソ13世から王室公認業者として、スペイン王室御用達の称号を授与された。
さらに海外アーティスト、リアーナやビヨンセと言ったセレブが大舞台で着用したカスタムルックも展示。ネットを通じ、セレブが着ているのを見ていた衣装が目の前にある。シンプルにその事実に感動してしまった。
続く「スペインへようこそ」と名付けられたエリアでは、ロエベの故郷であるスペインの多彩な風景やクラフトの伝統を見ることができる。
窓から水槽を覗き込むようなアクアリウム感。スペインは個人的にも思い出深い場所で、展示されたコレクションや装飾を眺めながら、旅で訪れたイビサ島の風景、地中海の青さを思い出した。「またいつかスペインに行きたい」そう思わせる空間だった。
スタジオジブリの「ハウルの動く城」を再解釈した巨大バッグが登場する「城の部屋」。そこには高さ2m超、すべてレザーでできており、ロエベのアイコンバッグが配されたハウルの動く城バッグが鎮座している。
思わず近づいて見入ってしまう、その迫力。精密さと遊び心の両立が、クラフトに命を吹き込んでいる様はまさに魔法のように胸が高鳴った。
「ロエベのアトリエ」エリアは、その名の通りマドリードにある工場内のセクションを再現した空間となっていた。実際に使われている、美しくなめされたレザー素材にも触れることができる。
ロゴの金型など実際に製作に使われている道具も展示。道具を目の前にすると、当たり前のことながらひとつひとつ手作りされていることをあらためてリアルに受け取ることができる。
組み立てや品質試験の工程も再現され、商品の裏にあるストーリーを見つめると、自分が持っているロエベにも愛着がさらに湧くというもの。
エリアとエリアを繋ぐ移動の際に、窓が付けられており街を覗き見ることができるのもポイント。この空間が街の中にあることをハッと思い出させ、不思議な世界へ迷いこんだような感覚を際立たせる。
自らステッカーを選び、壁や床に貼って来場者が装飾できるようなスポットもあった。本当に隙間なく楽しませてくれる仕掛けが盛りだくさん。
2013年にクリエイティブ ディレクターに就任したデザイナー、ジョナサン・アンダーソンによるコレクションピースが一堂に会す「限界なきファッション」の部屋。ジョナサン・アンダーソンが手がけたクロニクルが至近距離で見られる贅沢さは、ファッション好きにはたまらないだろう。
ここ10年の間に、ロエベがファッションシーンにおいて更なる知名度や地位を確立していった理由のひとつは間違いなくジョナサン・アンダーソンの存在がある。魔法をかけるように人々を魅了したランウェイの映像も流される。
そんな数々のコレクションが一挙に並べられる様は壮観。ロエベが誇るクラフトの精神と、ジョナサン・アンダーソンのファンタスティックな世界観が融合したコレクションピースは、生地や仕立てに詳しくなくとも魅力的に眼前に迫ってくる。
画像提供:LOEWE
展示の核とも言える「クラフトによる連帯」では、ロエベ財団(創造性と教育プログラムを促進し、詩歌、舞踏、写真、アート&クラフトの各部門の遺産を保護するために、エンリケ・ロエベ・リンチが1988年に設立した文化財団。現在はシーラ・ロエベが主導)において、2016年にジョナサン・アンダーソンが設立した世界の職人を称える“ロエベ財団 クラフトプライズ”受賞作家作品、これまでにロエベと関わりのあるアーティストや作品を紹介。
ロエベ財団が支援する、室町時代から400年以上続くという茶釜の名家・大西家とのコラボレーション、そのドキュメンタリー映像では、手仕事が国境を越え、未来をつくっていく姿が伝わってくる。
古今東西、希少な工芸品の数々がダイナミックな什器の上に並べられた様は、まるでナショナルクラスの博物館や美術館のように荘厳な佇まい。無機質でソリッドな空間の中にきちんと並ぶ、ひとつひとつの品々はその独自の造形から人の手の温度感を感じ、愛しさや親近感が湧いてくる。
展示を締めくくる「意外な対話」エリアは過去10年で行われてきたコラボレーションの着想源となった豊かな想像力の世界に没入できる小部屋で構成されている。
現代陶芸の先駆者として活躍してきた、巨匠ケン・プライスのニューメキシコのアトリエを再現した空間。こちらも作り込み方が半端じゃない。本当に部屋に立ち入ったような感覚で楽しむことができた。
藤田匠平と山野千里の夫妻による京都の陶芸制作ユニット「スナ・フジタ」とのコラボレーションを始め、これまでコラボレーションしてきたさまざまなアーティストの世界観を具現化した空間だ。
側面の穴からは、スナ・フジタとLOEWEによる作品の数々を覗くことができる。2023、2024年のホリデーを彩った世界観がぎゅっと詰まっていてとても愛おしい。
アメリカ人アーティスト、詩人、劇場舞台デザイナーであるジョー・ブレイナードのコラージュの部屋は中央のレバーを動かすと部屋全体が動く、まさにブレイナードの劇場だ。
日本が世界に誇るアニメ制作会社、スタジオジブリとの3回に渡るコラボレーションは個人的にも大好きで、発売されるたびに店舗を訪れるなど楽しみにしていたシリーズ。大迫力のアニメ映像とともにその足跡を振り返ると、コレクション販売当時の感動と興奮が蘇ってくる。
2021年のホリデーコレクションを彩ったイギリスの建築家、家具・テキスタイルデザイナー・チャールズ・ヴォイジーの部屋。ヴォイジーの描いた花が落とし込まれたコレクションと、フラワーアーティスト・篠崎恵美が主催する「edenworks」による宙に浮く花園の共演が神秘的で美しい。
揺れる花々を見ながら、展覧会は終わりに差し掛かる。その時、この夢のような世界が終わってしまうのかと外に出るのが惜しいとさえ思えた。夢中になるあまり、ツアーの一行とは離れてしまったがちゃんと時間通りに退場した。
展覧会会場の出口からすぐ隣のギフトショップでは、バッグ、Tシャツ、ノートといった文具まで取り揃える。お土産を買うならここで、とにかく品揃えが豊富で、見ているだけで時間が溶けていってしまうし物欲が刺激される。
ショップの一角にOMA/AMOによる会場デザインのミニチュア模型があるので見逃さないように。精巧に作られた模型と、先ほど回ってきた記憶とをかけ合わせて思い返してみると、また楽しい。
ロエベの魔法を、見事に具現化した空間デザインは会場を見て回るだけでも満足度が高い。2度3度と足を運びたくなる要素が詰まっていて、筆者も再び行くことを決意し、会場の敷地内ですでに予約ページの日程をチェックした。
帰り道、表参道を歩きながらロエベの掲げる「クラフトが紡ぐ世界」とは、単なるキャッチコピーではないことを噛み締める。
そこには、人の手が生み出す温度、時を超えるものづくりの精神、そして未来へのまなざしが詰まっていた。ロエベというブランドの本質を体感できるこの展覧会は、スケールやクオリティ、どれをとってもまさに今、足を運ぶ価値がある。
歴史背景と最新のエッセンスが交わり、溶け合う表参道・原宿の街にもぴったりだ。展示は2025年5月11日(日)まで、入場無料(事前予約制)。展示を見たあとは、表参道を青山方面に散歩して「カサロエベ表参道」も訪れてみてほしい。
■ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界
開催期間:2025年3月29日(土)〜 5月11日(日)
住所:東京都渋⾕区神宮前6-35-6
営業時間:9:00-20:00(最終入場時間 19:00)
定休日:会期中なし
入場無料(予約制)
*混雑状況により当日入場も受付可能な場合があります。
チケット予約:特設ページ
Text & Photo:Tomohisa Mochizuki

- オモハラリアルスタッフ
OMOHARAREAL編集室
