表参道ヒルズ|スロープに秘められた物語:OMOHARA TIPS Vol.8
表参道・原宿エリアの文化や歴史にまつわるちょっとしたネタをご紹介する「OMOHARA TIPS」。今回はオモハラのランドマークである表参道ヒルズをピックアップ!
同潤会青山アパートメントの建て替えで2006年に竣工した表参道ヒルズと言えば、吹抜け空間をぐるりと囲むスロープが特長のひとつだが、その傾斜の角度は表参道と同じに設計されているのは有名な話。そのアイデアはどうやって生まれたのか?
老朽化を背景に建て替えが必要となった同潤会青山アパートは、長きにわたり人々に愛されてきた。その建物を建て替えるにあたって、大切なことは何だったのだろう。設計者である安藤忠雄は過去に次のように語っている。
ケヤキ並木と建物が馴染んだ美しい街並み、都心部とは思えない鬱蒼とした緑の森、棟に囲まれた中庭を中心とした青山アパートに漂う公共感覚・・・。といった、人々の心にあるアパートの風景、その記憶までは壊さず、未来に繋げていきたい。ならば既存の建物、風景から何を取り出し、どのようなかたちで再生させていくのか――――。
新建築 2006年5月号より抜粋
2002年当時の「同潤会青山アパートメント」。写真:裏辺研究所 日本の旅 同潤会青山アパート~東京都渋谷区~ (禁転載)
何を残し、何に手を加えるか。その見極めは建物のみならず表参道の街の未来を占う。老朽化が進んだ躯体やインフラ設備は刷新するほかない。継承すべきは、親しまれてきた同潤会青山アパートメントの面影、そして街並みとの連続性と親和性だった。
「表参道と同じ1/20勾配の坂道を取り入れられないか」
市街地開発組合との度重なる対話の末に導き出されたのは、表参道の勾配を建物内部に取り入れることだった。その突飛なアイデアは組合員から発案されたという。
常識的には不可となるアイデアだが、吹抜け空間の周長を測ってみると、勾配1/20でちょうど一層分上がれるだけの長さがあった。
そんな奇跡も手伝ってアイデアは採用され、建物内にもう一つの街路と街をつくるという話に発展したそうだ。施設内のスロープに表参道と同じパターンの石畳が敷かれていることからも見てとれる。
スパイラルスロープの勾配は表参道とほぼ同じ1/20であり、床には表参道の歩道と同じパターンの石畳が敷かれている。それは街路から連続したような空間である。
『新建築』2006年5月号より抜粋
ガラスのファサードが特長的な表参道ヒルズだが、表参道交差点から最初に目に留まる南東端には、外壁からディテールまで、かつての面影を残して復元された表参道ヒルズ 「同潤館」がある。
現在の表参道ヒルズ「同潤館」前(2024年9月 編集部撮影)
かつての「同潤会青山アパートメント」前。(写真協力:松岡 伸一 株式会社アット/AT WORK STUDIO 代表)
建物の始まりにアパートが顔を覗かせることで、過去から未来へ風景が連続する。それは建て替え計画における核となるアイデアだった。
多様なカルチャーが入り交じり、日々刷新されるオモハラの街において、“変化”は宿命とも言えるだろう。ただし、過去の歴史や風景に敬意を払う気持ちを忘れてはいけない。表参道ヒルズが変わらずに愛される理由は、きっとそこにあるはずだから。
Text:Yuya Tsukune
Edit:OMOHARAREAL編集部
- マネージャー
- 望月トミー智久
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