
ギャラリーツアーに参加!GOMAの言葉と作品で綴られる「ひかりの世界」への旅
オーストラリアの先住民族アボリジニの伝統楽器であり、世界最古の管楽器と言われるディジュリドゥの奏者・GOMAによる絵画展「GOMA ひかりの世界」が表参道のGYRE GALLERYで開催中。
GOMAは日本におけるディジュリドゥ奏者の第一人者として知られ、国内外で活躍。ディジュリドゥ探求のため、実際にオーストラリアへ渡り、過去には現地の世界的なコンペティションで準優勝を遂げている。
GOMA
2009年交通事故に遭い「高次脳機能障害」、つまり記憶の大半を失うという障害を負った。それから10数年、リハビリの末にディジュリドゥ奏者として復活を遂げたGOMAだが、事故をきっかけに画家としての才能を開花させたのだ。
事故の2日後から突然描き始めたという細かな点描で埋め尽くされた独特の絵画は、事故の後遺症で時折意識を失い、昏睡してしまうときに見る光景だという。
今もなお1日の大半を絵画の制作に捧げるGOMA。その軌跡は2012年に映画「フラッシュバックメモリーズ 3D」としてドキュメンタリー映画化されてもいる。そんなGOMAの「ひかりの世界」を旅した10数年の集大成が今回の展覧会だ。記憶とともに、あるいは記憶そのもののように変化していく街、表参道で観る「ひかりの世界」をレポートしたい。
「ここから始まり、ここに帰る」GOMAの見る「ひかりの世界」に息を呑む
GOMAのことはもちろん、事故から今に至る経緯はメディアを通してなんとなく知っていたが、実際に作品を観たことはなかった。今回、GOMAによるギャラリーツアーが開催されるとのことで、これは行かなければとツアーに参加。
ツアー前にGYRE GALLERYをぐるり。それだけで目に入ってくる作品のパワーに圧倒される。
GOMAがギャラリーに姿を表し、ギャラリーツアーがスタートした。これまでのいきさつから作品の説明に入っていく。この描かれたおびただしい数の点描の集合体は、これまで何度も意識を失って昏睡している時に見た光景なんだそうだ。
最初の展示室には真っ白いキャンバスに白で描かれた作品が飾られている。GOMAいわく「いちばん遠いところにあるひかり」。つまり意識を失ったときに最初に見る光なのだという。
いちばん遠いところにあるという原初の“ひかり”。色もなく放射線状の円を描き光が広がっている。
そこから、意識と身体との距離が近づいてくると色が現れたり、形が変わったりするのだそう。この意識と身体の「遠い」、「近い」という距離感の説明がすごくしっくり来た。
というのも、筆者は中学生くらいのとき友達とプロレスごっこをしていて後頭部を強打。そこから下校までの時間、自分の記憶をなくしたことがある。そのときのまさに、意識と身体が分離した感覚を覚えているからだ(そのときは、“ひかり”を見ることはなかったが、過去の映像がフラッシュバックしつづけていた。あとから知ったが逆行性健忘というらしい)。
自身の昏睡に加え、これまで数々の臨死体験をした人からも似たような“ひかり”を見たという話を数々聞いてきたGOMAにとって、この“ひかり”は自身の命を現世に留めてくれたポジティブなものとして描き続けていると話してくれた。
ゆっくりと自分の意識が身体へと戻ってくる感覚。あのときの安心感は忘れられないものがある。それと同様、GOMAの作品は何かとてつもなく大きなものに包まれているような感覚で、見ているとあたたかい気持ちになるのだ。
同じ“ひかり”をモチーフとしながら、そこに用いられるマテリアルが変わるまた新鮮な表情を見せてくれるのが面白い。きっと、GOMAの記憶の中でこんな風にきらめいているんだ。というのがありありと伝わってくる。
小さな美術館のようなスペースを作りたかったという展示室にはGOMAのアートワークを使ったグッズも販売されていた。展示の終わりにあるミュージアムショップ、グッズ販売コーナーを彷彿とさせる。
最後は手塚治虫先生の「火の鳥」をモチーフにした作品である鳳凰と「変わる世界、変わらぬひかり」というメッセージで展示をしめくくる。
鳳凰は言わずもがな、生命の象徴であり、再起とか復興という意味あいもあるらしい。まさに新しい才能と、膨大な努力の末に復活したGOMAにふさわしいモチーフであるが、手塚治虫先生の家族から話しを持ちかけられ、制作に着手するに至るにはかなり長い時間がかかったと振り返っていた。
そして、最初の展示室へ戻る。そこには真っ白なまばゆいひかりがある。いちばん遠い原初のひかりだ。「みんなここから始まって、きっとここに帰っていく。きっとそうなんだと思っています」とGOMAがツアーで語ってくれたように、まるでギャラリー全体が、命の輪廻を表しているかのようだった。
GOMAは以前は“もとの自分”へ戻ろうとリハビリに励んでいたらしい。しかし、海外の脳科学研究所へ足を運んで研究者や専門家の話を聞いていく内に新しい自分を愛し、目覚めた才能を伸ばしていく方向にシフトしていったという。
失ったものへの執着は誰しもにある人の業。それを手放し、今を見つめるというのはとても勇気のいることだと思った。
表参道・原宿の街はサイクルの早い街である。今は特に、渋谷区全体が再開発の波の真っ只中。ビルが取り壊されたり、新しく建ったり。気づけば、ここ、もともとなんだったっけ?という場面に遭遇することもしばしば。自分の記憶の不甲斐なさに辟易しながら、今まで当たり前にあったものへの関心が薄かったんだと気付かされる。
展示の中には映像作品も。動く“ひかり”に思わず見入ってしまう。
変わっていく世界の中で、変わらないものの希少性にもっと心を寄せていきたいと、GOMAの作品を観てあらためて思い直した。
刻一刻と変化していく記憶と自分を取り巻く状況の中、過去を大切にしながら未来に希望を見出すことで、命を繋いだGOMA。描く“ひかり”はまさしく希望のひかり。 あらためて今ある人間の中に存在する記憶の宇宙、命の旅路を表参道で体感してみてほしい。
■GOMA個展「ひかりの世界」
開催期間:2024年5月4日(土)〜6月29日(土)
開催場所:GYRE GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
営業時間:11:00-20:00
定休日:不定休
電話番号:0570-056990
※敬称略
Text&Photo:Tomohisa Mochizuki
