
キラー通りに“B-BOY/B-GIRL出現中!NEIGHBORHOODと小畑多丘、オン・サンデーズによる、ストリートマインドを体感
ワタリウム美術館の向かい。キース・ヘリングの壁画で知られる建物があった跡地に突如、腕を組む巨大なB-BOYのビルボードが出現した。好きな人ならすぐにピンと来るはずであろう。彫刻によってB-BOY/B-GIRLを生み出す現代美術家として知られる・TAKU OBATA(小畑多丘さん)によるもの。
さらに驚きなのは、「NEIGHBORHOOD」のロゴが並んでいたことだった。原宿から今や世界中で愛されるアパレル・ライフスタイルブランドである。一体ここで何が起きるのか。
いても立ってもいられずワタリウム美術館B1Fのミュージアムショップ「オン・サンデーズ(ON SUNDAYS)」にコンタクトを取り、両者のコラボレーションを記念した展覧会「NBHD TAKU OBATA」のレセプションにうかがった。
原宿から、キラー通りを登ってワタリウム美術館の向かい。ビルボード広告はワタリウム美術館の協力のもとに建てられたという。ここにはかつてキース・ヘリングの壁画や写真家・ストリートアーティストJRの写真といった、世界的なアーティストたちによって外壁が彩られた建物があった場所だ。
現在は空き地となっているが、ビルボードとはいえ、アートがこの場所に掲げられるのはなんだか感慨深いものがある。
さらにそれが小畑多丘さんによるB-BOYのスケッチというのは個人的にも嬉しい限り。というのも、自分が好きなファッションやヒップホップカルチャーを作品から感じるからだ。
本コラボの目玉となるのは、アナグリフ(左目に赤、右目に青のフィルムを貼ったメガネを通して見ると立体的に見える3D画像)のB-BOY/B-GIRL。アパレルに付属する3Dメガネを見ることにより6層の立体となって浮かび上がる仕組みだ。
幼少期から馴染みのある、いわばアナログな手法ながら、小畑多丘さんの緻密なデッサンとデザインによってテクノロジーアートとして楽しめるところが新しい。
看板ひとつ、そこにアートがあると街の光景をガラリと変えてしまうパワーが宿っていることを再確認。さらに、オン・サンデーズの中に入ると膨大なスケッチとドローイングがズラリと至るところに展示されていた。
「NEGHBORHOOD」は言わずもがな原宿から日本が世界に誇る説明不要のストリートファッションブランドだ。小畑多丘さんの作品も同様、国内に限らず海外のセレブ、ヒップホップアーティストに寵愛されている。そんな両者がタッグを組む作品群は圧巻。
「NEIGHBORHOODは憧れのブランドのひとつ」と本人がステートメントで述べているように、今回のスカルプチャーやタイポグラフィー、ドローイングを作るにあたって100枚以上にものぼるドローイング、スケッチを描いたという。
臨場感にあふれるスケッチは、ずっと見ていられる。作品単体とアパレルに落とし込むグラフィックでは、それぞれにバランスを微細に調整しており、とにかく枚数を描く必要があるという。
レセプション当日にはオン・サンデーズにもコラボアパレルが並んでいた。アナグリフや、2018年にワタリウム美術館で展示された230cmの木彫像の設計図をプリントなど、こだわりの詰まったアイテムたちだ。
そのアイテムたちとともに並ぶスケッチの数々はロゴをひとつ生み出すために、膨大な試行錯誤と労力がかかっていることを物語る。
ダンスやスケートボードで言われる、いわゆる“スタイル”さながら、緻密で地道な経験と時間の蓄積が美しい造形を生み出すのだ。
クールなB-BOYスタンス(立ち姿、姿勢)を描き、具現化することができるのは、小畑自身がブレイクダンサー、B-BOYとしてのキャリアを持っているからこそ。
本コラボのために作成された「B-GIRL」の、サングラスやフードで隠れている顔や髪型も、スケッチを見ると細かくデザインされているのが分かる。
キャラクターの見た目はフューチャリスティックだが、その実、とことんリアルなバランスを追求している。そのリアルとSFの融合が世界中のコレクターを魅了するのではないだろうか。
台座がなく自立するというのも特徴で、ひとつの素材を削り、切り出して造形を作っていく。プラモデルのように分割されていないひとつなぎでありながらしっかりと立つのは驚きだ。
作品名は「NH X TAKU OBATA . B-GIRL DOWN JACKET MAKKURO OHKIME」と、シンプルながら小畑多丘さんのユーモラスな部分を感じる。今回使われたのはポリストーンという石に近い樹脂性の素材。
小畑多丘さん自身が、NEIGHBORHOOD代表・滝澤伸介さんとともに、会場を訪れていたBOUNTY HUNTER(バウンティハンター)の岩永ヒカルさんに作品について説明していた。
ファッションのみならず、ホビー・トイカルチャーに精通する岩永ヒカルさんが感心しながら興味深そうに話を聞いていたのが印象的。
木彫りの立方体は、本コラボ展のきっかけになったというスタチュー(立像)の背面に配されたロゴの原型。“NEIGHBORHOOD”のロゴに小畑多丘さんのバイブスが宿る。
「NEIGHBORHOOD」はアパレルのほか、ほぼ毎シーズンインセンスチャンバー(お香立て)をといった立体のアイテムをリリースしており、世界各地のアーティストやブランドとコラボすることが多い。そんなブランドの背景も、今回のコラボの必然性を感じた。
写真中央にある3Dメガネはレセプションの送付状に付けられていたもの。通りのビルボードをメガネ越しでみると、3Dに見える仕組み
NEIGHBORHOOD代表である滝澤伸介さんもまた、アートやスカルプチャーに対する造詣と理解が深い人物であるのがアイテムや展覧会を見ていて伝わってくる。
展示空間を飛び出して、わざわざ路上、店舗、オンラインと街にまでその繋がりを波及させることに、ストリートアートマインドを感じる展覧会。腕の組み方ひとつに崇高さすら感じさせる、その作品を見逃さないように。
■概要
NBHD TAKU OBATA 展
開催期間:2023年9月1日(金)〜9月24日(日)
場所:オン・サンデーズ&ライトシード・ギャラリー(ワタリウム美術館 B1F)
住所:渋谷区神宮前3丁目7−6 オン・サンデーズ B1F
時間:11:00〜20:00
共催:NEIGHBORHOOD
Text&Photo Tomohisa Mochizuki
