動物であることについての瞑想
神宮前2丁目のGallery38で、ステファニー・クエールによる4年ぶりの個展「Animal Instinct 」を開催中。2023年6月25日(日)まで。
ステファニー・クエールはアイリッシュ海の中央に浮かぶ島、マン島に生まれた芸術家。マン島はアイルランドやイギリスなど複数の国の間で統治権が移動する複雑な歴史を持つ島で、現在は自治権を持ったイギリスの王室属領となっている。その人生とアートは、古代文明と島を取り巻く国々からの影響を色濃く残す、マン島と密接な関係にある。
彼女はこの島で生まれ育ち、現在も家族の農場で両親と共に羊や牛を育てながら、かつての風車小屋で作品を制作。今回の新作展にはマン島の自宅周辺から掘り出された土も一部使用しているという。直接的かつ即興的なのが特徴のクエールの作品は指や手や腕を使ってこねられ、制作途中の痕跡が残るように形作られたあと、彼女の農場にある窯で焼成される。
クエールは本展において、新石器時代や古代ギリシャの壺に使われたものと同じ材料を使い、4万年の人類の歴史の中で現れてきた動物のイメージの探求を続けている。新作として、本展の為に初めて自身の農場の粘土と藁でヒンズー教で神聖な生き物とされる牛や、スカベンジャー(動物の死骸を食べる動物たち)として生態系のサイクルを体現し、チベット人と古代エジプト人に崇拝されるハゲワシ、同じくエジプト人に崇敬され恐れられたヒヒ、遺伝子的にヒトに最も近いとされるチンパンジー、人間と大地、月、季節、 寓話、神話、狂気との関係を象徴するウサギなどを制作した。
ドローイング作品は鑑賞者とより直接的につながるため額に入れずに展示。そのプロセスを「よりマインドフル、より瞬間的、より動物的」と表現している。クエールが作り出すイメージとその制作方法は、人類の持つ破壊性や、忍びよる人工知能という実体のない脅威に触発された、動物であることについての瞑想であり、動物の本能を理解しようとすることは、私たちが失った地球との精神的なつながりを再発見する方法としている。
原宿という街の中、クエールの手で作り出された神聖さを帯びる動物たちと、心穏やかに対話してみてはいかがだろうか。地球という大きなサイクルの中にあるイチ哺乳類であることを自覚できたら、ちっぽけな悩みなど吹っ飛んでいきそうだ。
■画像クレジット
©︎Stephanie Quayle
Photography: Osamu Sakamoto
■概要
ステファニー・クエール「Animal Instinct」
会期:2023年5月11日(木) - 6月25日(日)
会場:Gallery 38
住所:東京都渋谷区神宮前2-30-28
電話: 03-6721-1505
開廊時間:12:00 - 19:00
休廊日: 月、火、祝日
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Gallery 38から徒歩2〜3分の場所にはBOOKS BUNNYがある。セレクトされた洋書、アートブックを取り扱うブックカフェだが、ランチは列ができるほど人気で、メニューも豊富なのでおすすめだ。食もまた動物の基本であり本能だ。ステファニー・クエールの新作のウサギを見たあとは、同じウサギ繋がりで腹ごしらえするのが理想的。
※敬称略
Text:Tomohisa Mochizuki
INFORMATION
神宮前・Gallery38でステファニー・クエールによる4年ぶりの個展「Animal Instinct 」が開催中
- 住所
- 東京都渋谷区神宮前2-30-28
- 電話
- 03-6721-1505
- 営業時間
- 12:00 - 19:00
- 定休日
- 月、火、祝日
