
それでもいい、かまわずいけ。振り切ったパンクアティチュードを体感
ミヤシタパークSAIでSAIAKUNANA(さいあくなな)の個展「右手に生き様」が開催中だ。レセプションに足を運んだが、圧倒的な熱量と質量に驚かされつつ、スカッとするほど痛快な展示だった。
SAIAKUNANAは、「さいあくななちゃん」として知られ、2018年にTARO賞(岡本太郎現代芸術賞)を受賞。2020年にロンドンに渡り、ニューヨーク、香港とその活動の幅を世界各地に広げているアーティストである。詳しくはOMOHARAREALのニュース記事を参照してほしい。
本展はそんな彼女の、今までのベストアルバム的な過去最大規模の個展とされている。ステートメントには「既存の現代アートとやらに満足できないので、私が新たに作りたい」と剥き出しの反骨心が綴られていた。そんな彼女の作品がミヤシタパークのSAIで、ピンク色の中指を突き立てるように開催されている。
入り口ではスリッパに履き替えて入場。意図しているかは分からないが、ギャラリーを訪れた外国人観光客にとっても、普段色々なギャラリーに行き慣れた人にも新鮮だ。
靴を脱ぐ、という日本らしい作法を取り入れながら、用意されたオリジナルスリッパ(会場で販売中)にはイラストとともにPUNK!の文字が添えられていた。 一筋縄ではいかないSAIAKUNANAの感性を捉えることができる。
SAIAKUNANAは2020年から、2022年にかけロンドンへ移住。そこでゼロから自分で物件を探し、自らのギャラリー「SAIAKUNANA GALLERY LONDON」をオープンさせた。その続き、とも言える「SAIAKUNANA GALLERY TOKYO」が本展の会場で展開される。
作品とともに、ロンドンでの挑戦を収めたドキュメンタリー「STRUM」が流されている。ドキュメンタリーではSAIAKUNANAが言語もままならない中、ロンドン市内でのギャラリー運営を通じ、現地の人々と交流しながら、奮闘する姿が映し出されていた。
「日本国内だけでチヤホヤされるだけの場所にいたくない」。と、自ら厳しい環境に身を投じ、その状況を全身全霊で楽しんでいた。その姿を目の当たりにし、「英語できないしな」とか、小さなことで二の足を踏んで、コンプレックスを抱えてきた自分にとって、その姿はとても輝きに満ち、胸のすく思いだった。
展示室を巡っていくとその膨大で圧倒的な質量に驚くことだろう。キャンバス作品はもちろんのこと、10代から描き続けてきたノートの切れ端、いくつものキャンバスにまたがって描かれた巨大な少女。そのどれもが、緻密に描き込まれている。どれほど膨大な時間とエネルギーを注ぎ込まれているのか、一目瞭然だ。
ギャラリー然とした展示ではなく、展示方法にも実験的な試みが随所に見られるのは新鮮。アートのテーマパークのような仕掛けが盛り込まれ、まさしくそこはSAIAKUNANAワールド。彼女の感性、血と汗が空間に充満し、その熱量がずっしりと横たわっているような感覚だ。
しかし、押し付けられるような嫌な感じはしない。一見尖っているSAIAKUNANA作品に漂う、どこか優しく切ないエモーショナルな雰囲気がそうさせるのだろうか。SAIAKUNANAの生き様、それが投影された作品そのものが、そっと背中を押してくれるような勇気づけられる展示となっている。
ロンドン滞在中に制作を開始したお花シリーズは日本初公開。柔らかな色合いと少女の不思議な構図、SAIAKUNANAの新たな地平を切り開くシリーズ。
レセプション時点ではライブペイント用の余白も残されていた。こんなに描いているのに展示が始まってもまだ描くの!?とそのハードワークさに再び驚かされる。
SAIAKUNANAという名前はバイト先の先輩から作品を「最悪」と評されたことに起因している。それをあえて自分の名前としていることも興味深い。本人にとって文字通り「最悪」だった出来事をポジティヴに転じさせる発想は、パンクと同じくカウンターカルチャーから起因するヒップホップなエッセンスも感じさせる。
かの世界的なパンクバンド、ザ・クラッシュのボーカル、ジョー・ストラマーは「Punk is attitude. Not style.」という名言を残しているけれど、SAIAKUNANAの作品はまさにそれ。アートはスタイルじゃない。アティチュード(態度・姿勢)なんだよ!という心の叫びが聴こえてくるようだ。
(原宿に縁深い編集者・アーティスト・キュレーターの米さんこと、米原康正さんは、その名言をサンプリングして『Gal is attitude.Not Style』と言っていたのも書き記しておきたい)
SAIAKUNANAの作品に描かれる、目からはどれも強い意志が感じられる。果たしてその過剰なまでに描かれた大きな瞳に何を見据えるのか。その姿に勇気をもらえることは間違いないし、実験的でありつつも、真っ向からアートと向き合っているアティチュードがそこにはある。
ルールに縛られず、資本とカウンターカルチャー、2つの軸が対向し、時に交差しながらカルチャーを形成してきた原宿。今よりも混沌に満ちていた、原宿感をも抱かせるSAIAKUNANAの展示は、現在進行形でその濃厚さを増していく。
ボディケアやホームケアグッズで人気の「VITAL MATERIAL」とコラボしたディフューザー。
会期中も未公開シーンを含むドキュメンタリーの長尺版上映会や、バンド活動も行うSAIAKAUNANAのライブ、トークセッションなども予定されている。また足を運びたいと思える強烈な展示体験だった。
最後に、プレスリリースに添えられていたSAIAKUNANAのステートメントのフレーズでこのレポートを締めくくりたい。
右手にある生き様とこの胸に赤い衝動。
左手には何もない。
それでもいい、かまわずいけ。
ーSAIAKUNANA
■SAIAKUNANA SOLO EXHIBITION “右手に生き様”
会期 : 2023年5月13日(土)〜 6月4日(日)
場所 : SAI
住所 : 東京都渋谷区神宮前 6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
電話 : 03-6712-5706
開廊時間 : 11:00 - 20:00
定休日:会期中無休
Text:Tomohisa Mochizuki
