極限の神域をフィルムカメラで収めた圧倒的な作品たち
人はなぜ山に魅せられ、山に登るのか。自分は登らないけれど、日常生活で決して触れることのできない光景には圧倒されるし、大いなるロマンを感じずにはいられない。
写真家の石川直樹さんは2022年、6つの8000メートル級の山に立て続けに挑戦し、そのうちの5つに登頂して帰国するという離れ業をやってのけた超人である。それも、フィルムカメラの機材を背負ってだ。
表参道のGYRE GALLERYでは石川直樹さんが登った、8000m級の6峰のうちの3峰・ダウラギリ(Dhaulagiri)、カンチェンジュンガ(Kangchenjunga)、マナスル(Manaslu)の写真を展示している。
究極的に過酷で、だからこそ恐ろしいほどに美しい、8000メートルという未知の世界を表参道で覗けるかもしれない。ギャラリーツアーでは石川直樹さん自らが、撮影について話してくれるとのことで、さっそく足を運んだ。その模様を写真とともに振り返りたい。
Focus:ここがみどころ!GYRE GALLERY・石川直樹写真展
・見たことのない美しい景色を切り取った写真作品の数々
・トレッキング地図や、ネガをそのままプリントしたベタ焼きを展示していて臨場感抜群
・吹き抜けで繋がるB1フロアのCIBONEではテントの中で映像も見られる
漫画やテレビ、映画で見たことはあっても、実際に登った人から直接話を聞けることはそうそうないだろう。石川直樹さんは穏やかだが、静かに燃えている炎のような巨大なエネルギーの塊が人のかたちに凝縮されてとどまっている、そんな不思議な雰囲気を感じた。フィルムカメラを担いで、8000メートルの山に登る人って、底が知れない。
石川直樹さん。この写真展のための遠征で山に吹き荒ぶ吹雪に目をやられ、片目の視力が戻っていないのだという。文字通りのデスゾーンを行く人だ。
テーブルの上には山の麓の地図と、ネガフィルムのベタ焼き(コンタクトシート)が置かれ、撮ったそのときの情景を覗くことができる。その周りを写真作品たちがグルリと囲んでいる格好だ。展示室ごとに、ダウラギリ、カンチェンジュンガ、マナスルと表記されその山での写真を展示。動画映像も展示されており、リアルな様子が映し出されていた。
その作品はどれも、見たことがないほど美しく圧倒されるものばかり。まるで天国とはこんな感じなのだろうかと思わせる荘厳さが何気ない写真1枚1枚に焼き付けられており、大いなる自然へ畏怖を抱かずにはいられない。
ダウラギリでは信じられないほどスムースに登頂したという石川さん。続くカンチェンジュンガも順調かと思いきや、頂上を間違えて少し低い頂に登ってしまったという。本人の言葉を借りれば、「すぐそこに見えるからといって、すぐ行けるわけではない」のだ。
山頂を間違えるなんてことがあるのか、という疑問は富士山を見慣れている日本人ならではの感覚かもしれない。カンチェンジェンガはいくつもの峰がノコギリの刃のように並ぶ山脈の1峰だ。ルートによって間違いも起こりうる。一般的な人間の尺度では測り得ないそれほどのスケールの山ということだろう。ちょっと想像できないけれど、途方もない挑戦なのだと話を聞いて思った。
食料や酸素など装備を整えるために一度数千メートル下の麓の街まで降り、体を休め、何日か後に再トライすることに。淡々と話す石川さんだが、そのときを振り返って落胆する様子は本当に心底悔しそうだった。確かに、自分だったらそのまま日本に帰っちゃうかもしれない。登山のシビアな現実をリアルに感じた。
無事、カンチェンジュンガを登頂し、続いて7月にエベレストに次いで世界で2番目に高い山、K2(ケーツー:8611メートル)、さらにかつてはK3と呼ばれたこともあるブロードピークに連続して登頂した。9月にマナスルへの登攀を開始する。石川さんは地球上に14座ある8000メートル級の山を9つ登頂しており、マナスルに登るのも2度目なのだという。
同じ山に登るのは自由だけれど高尾山に登るのとは訳が違う。8163メートルを誇る、ヒマラヤ山脈の1峰を2回も登るなんて、いったいどういうことなのか?
というのも、マナスルという山は登頂が認定されてきた山頂とは異なる「真の山頂」があるという。山岳史の中で登頂が認定される手前のピークが長らくスタンダードだったが、近年のヒマラヤ界隈では真の山頂に立ってこそ登頂だ!という声が強まっているらしい。ならば行ってやろうじゃないか!と2度目のマナスル登頂に踏み切ったというわけ。
手前のピークからわずか数10メートルほど先に真の山頂が見える。しかし、真っ直ぐ進めるわけではなく迂回しながら進むため、慎重に行けば40分程度かかるのだそう。2012年の1度目の登頂では手前のピークに甘んじた石川さん。2度目のトライにして、それよりさらに奥にある真の山頂に到達した。
そんな、過酷でスリリングな冒険譚を交え、ダイジェスト的に登った山々を振り返りながら写真を紹介してくれた。想像を絶する美しい山々の写真を以下からぜひ見てみてほしい。
写真で振り返る石川直樹「Dhaulagiri / Kangchenjunga / Manaslu」
夢で見る景色のような美しさ。
現地の人々との交流の様子も映し出されていた。
登山隊のベースキャンプはまるで山の中で街を形成しているかのよう。
白く大きな氷壁は恐ろしさすら感じる。しかしその圧倒的な美しさに魅了されてしまう。
空へと続いているかのような尾根。自然の造形美を感じる。
訪れた人は息を呑み、石川さんの写真に見入っていた。
B1フロアではCIBONEにて石川直樹さんの新刊写真集「Kangchenjunga」を販売し、テントの中で展示や写真集と連動した映像を見ることができる。
GYRE GALLERYの展示名物、吹き抜けの装飾には標高が表記され最上階まで続いている。
道中のテント生活の様子も鮮明に映っている。
石川さんは、「表参道のような街とは対極にあるヒマラヤの写真を、こうした都市の真ん中で見てもらうことに意味がある」と話してくれた。デスゾーンに自ら赴き、文字通り命を削ってもぎとってきた石川さんの写真たち。安全な街の中で異彩を放ち、自然の荘厳さを教えてくれる。
1月13日(金)からはミヤシタパークのSAI GALLERYでK2・ブロードピーク・ナンガパルバットの3山の写真を展示。また、表参道GYRE GALLERYから渋谷SAI GALLERYまでの道のりにある「THE NORTH FACE」の各店舗でも展示や関連書籍を販売する。
また、明治通り沿いにあるTHE NORTH FACE AlterとミヤシタパークSAI GALLERY前のTHE NORTH FACE Backmagicにて石川さんの写真を落とし込んだコラボレーションバッグが2型、数量限定で発売中。それぞれタフな機能性K2とカンチェンジェンガの美しい写真をプリントした希少なバッグとなっている。ほかにも、展示期間中は表参道GYREを含む各会場でトークショーや写真のワークショップなどが行われるのでぜひ足を運んでほしい。
よく初夢の縁起物として「一富士二鷹三茄子」なんていうけれど、富士山の倍以上高い山々、3座の神秘的な光景を目の当たりにすれば2023年はより大きなスケールの夢を見られるかもしれない。
■Naoki Ishikawa Photo Exhibition『Dhaulagiri / Kangchenjunga /Manaslu』
会期:2022年12月17日(土) - 2023年2月26日(日)11:00-20:00
会場:GYRE GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前 5-10-1 GYRE 3F
お問合せ:0570-05-6990 ナビダイヤル (11:00-18:00)
休館日:不定休 ※2月20日(月)休館
■K2 / BroadPeak / Nanga Parbat
会期 : 2023年1月13日(金) – 2023年2月5日(日)
会場 : SAI GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前6丁目20−10 MIYASHITA PARK SOUTH 3F
■ Naoki Ishikawa × THE NORTH FACE
会期 : 2023年1月13日(金) – 2023年2月5日(日)
会場 : THE NORTH FACE BACKMAGIC / THE NORTH FACE MOUNTAIN / THE NORTH FACE ALTER /
THE NORTH FACE SPHERE
Text & Photo:Tomohisa Mochizuki