
“ここにしかない一冊”をFeb gallery Tokyoで
国内におけるZINEの魅力発信と、ZINEカルチャーの隆盛の一端を担ってきたプロジェクト「Here is ZINE」が、南青山のギャラリーFeb gallery Tokyoで「Here is ZINE Tokyo @Feb」として2022年9月7日(水)〜9月25日(日)まで開催中。
ZINEが好きな人にとっては「Here is ZINE Tokyo」をご存知の方も多いかもしれない。ヒロ杉山を中心とした、クリエイティブユニット・ENLIGHTENMENT(エンライトメント)によるプロジェクトだ。エンライトメントはグラフィックデザインや展示のキュレーションなど国内外のさまざまなクリエイティブやアート・音楽イベントに深く関わりながら、ZINEをつくる楽しさ、ZINEを通じたコミュニケーションを発信することを目的として始まった「Here is ZINE」を主催。今回、Feb gallery Tokyoを会場として12回目の開催を迎えた。
”ZINE”がカルチャーに欠かせないものとして浸透して久しい。ZINEの最大の特徴は、とにかく自由なことだ。あえて説明するなら、作り手が判型のサイズから、紙質、テーマなどを好きに決めて、一冊に自分の感性や感情を集約する媒体の総称である。アート作品の合同展は数あれど、これだけ多くのZINEが集まる機会はそうないだろう。レセプションに招待いただいたので、さっそく足を運んだ。
ギャラリーの扉を開けるとさっそく大きなメインヴィジュアルのフラッグが出迎えてくれた。レセプションは出展作家同士や、来場者が作家とコミュニケーションをとって盛り上がっていた。それはまぎれもなく「Here is ZINE Tokyo」の風景。Enlightenment が思い描く、ZINEのコミュニティがFeb gallery Tokyoで体現されているのを感じるのに時間はかからなかった。
EnlightenmentとFeb gallery Tokyoが出展作家をそれぞれキュレーション。“ここにしか無い1冊を作ってください!”というテーマのもと、アーティストへ依頼し今回59組の作家が参加した。著名な人から若い世代の気鋭作家までが入り混じり、万華鏡のように多様な感性を映し出している。ZINEが制約のない自由な媒体であるからこそ、作家の持つ創造性の根っこ、ディープな部分が見られるかもしれないと期待に胸が膨らむ。
Taco Nakaguki /「ULTRASARARYMAN」
作品ごとに1冊ずつ見本が置かれているので、実際に手に取り中身を読むことが可能。紙の質もアーティストによって異なるところも、ZINEの醍醐味と言える。個人的なお気に入りはTaco Nakagukiさんの「ULTRASARARYMAN」。
普段ここまで多くのZINEを一度に目にする機会はあまりない。その数に驚かされるとともに、ページをめくって中身を見るのがとにかく楽しい。ページをめくるアート展といった感じだ。どの作品もアーティストごとの個性が溢れており、つい長居してしまう。というか気づくと時間が経っている。
Yuji Watanabe / 「Studio」
展示されているZINEの前には、それぞれのアーティストプロフィールと QRコードが書かれたポップが置かれている。QRコードを読み取ると、アーティストのSNSや公式サイトにアクセスできる。ZINEを読んで、気になったアーティストの情報がすぐに分かるのは嬉しい。
ZINEの内容はイラストや写真、中にはテキストをメインにしたものまでさまざま。千原徹也(れもんらいふ)さんのZINEはテキストのみで構成されていたが、軽妙な文体とともに、近年のクリエイティブの変遷が簡潔かつ濃密に語られていて、思わず引き込まれてしまった。
左:SARUME The past is in the future. 2022/右:SARUME The future is in the past. 2022
また、会場には出展作家による絵画作品も併せていくつか展示されていた。ZINEと向かい合うように絵画作品を展示しているのは、ギャラリーというロケーションならではの演出。ZINEと絵画の異なる魅力を同じ空間で感じることができるのはとても贅沢に感じた。
企画展ごとに、その姿を変えるのもFeb gallery Tokyoの魅力。Feb gallery Tokyoと自身のアートメディア「ARTRANDOM」を運営する田辺良太さんいわく、展示用の什器は今回のために特別にギャラリーで製作したもの。大人がZINEを開いて見て回るにはちょうどいい高さに設定されている。田辺さんは「いやー作家も多いし大変だったよー」と会場を見渡しながらどこか満足げに振り返ってくれた。
Feb gallery Tokyoの360°カメラで映されるモニター映像は会場全体を映し出す。棚の前で立ち止まっている人影も見えるので、よく見ていれば人気のZINEが分かるかも!?
なにかと閉塞感を感じずにはいられない昨今。自由な発想で創作されたZINEは、読んでいて胸がすーっとすくような気持ちになる。写真、絵画、テキスト、表現、綴じ方や印刷するメディア、当然のことながら、何一つ同じものはない。
一点一点、インディペンデントかつD.I.Y.によって作られているという点においても、ギャラリーの場所は青山だが、文脈としては実に“原宿的”な展示だと思った。
『Here is ZINE Tokyo @Feb』は9月25日(金)まで開催中。紙の質感や匂い、手に取った時の重量などを楽しむZINEは、SNSではなかなか伝わりにくい。ぜひ会場で手に取って、出展者たちの温度感を直に感じてほしい。
実際、『Here is ZINE Tokyo @Feb』はFeb gallery Tokyoの予想を超える反響で盛況とのこと。完売分も随時入荷するそうなので気になったものがあれば、買っておいた方が良いだろう。その一期一会の出会いもZINEという媒体ならではの醍醐味だ。何しろ、『Here is ZINE Tokyo @Feb』のために作られた1冊なのだから。
■概要
『Here is ZINE Tokyo @Feb』
開催日:2022年9月7日(水)〜9月25日(日)
時間:13:00〜20:00
定休日:月・火 ※9/19は祝日営業
場所:Feb gallery Tokyo
参加アーティスト:AKANE、秋元机(Desk)、安藤政信、ikik、Umano、Ed TSUWAKI、Ryuji Okura、大崎真紀、岡野由奈、小高かの子、OLI、角田麻有、加瀬 透、片寄優斗、カワグチタクヤ、QQQ、酒井建治、佐々木明日華、佐藤 豊、SARUME、sawanoenami、Jenny kaori、Siki、白根ゆたんぽ、スガミカ、SUGI、SKOLOCT、砂守かずら、SUMIRE、SEIICHI、田口愛子、竹内真二郎、Taco Nakaguki、田島一成、立川清志楼、千原徹也、手島 領、中島友太、ninninbooks、ヒロ杉山、福井瑛司、藤井アンナ、マ.psd、間仲 宇、mizutani saki、宮嵜 蘭、村松佳樹、MOMO、山口健太、YUKEY、ユンボム、吉田真由、吉成英太、RYAN CHAN、ワカヤマ リダヲ、WADA、Yuji Watanabe、Yinkeun、Chun ZAKIMIYA
Text & Photo:Kousuke Ookutsu
Edit:Tomohisa Mochizuki