最近、どんなことで涙をながしましたか?
アーティスト・橋爪悠也さんの個展「eyewater」が青山・SPIRALで開催中だ。見覚えがあるタッチのキャラクター、手には動物(猫から鳥や魚まで)を抱き、こちらを見つめ涙を一粒流している。これは橋爪さんが2017年から制作している人気の「eyewater」シリーズのひとつ「eyewater animals」だ。色々とツッコミどころが満載なのだが、圧倒的に「かわいい!」で頭がいっぱいになり、作品に惹かれてしまう自分がいる。気になって仕方がないので青山・SPIRALでの展覧会の始まる前日、橋爪さん直々に案内してくれるというプレスツアーに申し込んだ。
展覧会場には動物を手に抱いたシリーズ「eyewater animal」作品がズラリ。東京で開催される規模としては最大規模の展覧会となるそうだ。アクリル絵具を用いたペインティングの色味やタッチがポップでかわいい。
こちらの作品は、フライヤーやポスタービジュアルにも用いられている作品。キャラクターが抱く猫は橋爪さんの愛猫「もろこし」くんがモチーフ。
今回の展示の目玉のひとつ。メイン作品をどーんとバルーン化した作品はスパイラルの螺旋階段を貫くように設置され、映えスポットとして人気になっていること間違いなしだ。
高さは8メートルにもなり、大きいというだけで神々しさを抱いてしまう。昔の人が大仏を作って拝む理由が何だかわかる気がする。螺旋階段を上りながら近くで見ることができるし、猫の肉球や黒縁メガネの質感も良い感じ。
オリジナルアイテムの特設物販ブースも設置。Tシャツを始め、スライドサンダルや傘、釣りに熱を上げているという橋爪さんが欲しいアイテムをラインナップしている。
中にはこんな変わり種アイテムも。ホテルのドアノブにかけるプレートの自宅用版。みんなハッピーになる商品だ。橋爪さん肝煎りのプロダクトだそう。
コンテナやタンブラーといったグッズには、「eyewater」のロゴと、涙の成分が印字されている。「and emotions.」の文言がニクイ。
会場を自由に散策しているとツアーの時間になり、橋爪さんがやってきた。シュッとしていて、長身。モデルのような雰囲気も漂わせていてかっこいい。ちなみにスタッフが着ている、今回の展示会のキーカラー(ベージュ)の服と「PUMA SUEDE」(橋爪さんがこれしか履かない)はチームスタッフ全員統一のユニフォーム。率直に素敵だと思った。
案内中は自由に質問することもでき、こちらの問いかけに対して橋爪さんは軽妙な語り口で作品について説明してくれた。「持っているものもモチーフも特に意味はないんです。自由に解釈して楽しんでもらいたい。あえて疑問を持ちやすいような、余白やツッコミどころを仕掛けとして置いています」。なるほど、ツッコミどころ満載なのは、見事に橋爪さんの思惑に乗せられていたというわけだ。
バルーン作品に関しても、「大きいだけで、なんか良いじゃないですか(笑)」と歯切れの良い回答。SPIRALで展示可能な最大の立体物として制作された。子供から大人まで、自分の作品を楽しんでほしいという橋爪さんの遊び心を感じる。
「動物というか魚だし、ちゃんと服が濡れてるし」と思わずツッコミたくなってしまう。猫を抱いているかと思えば、二つの尾に分かれた「妖怪・猫又」だったり、はたまた招き猫だったりする作品もある。その遊び心が橋爪さんの魅力だと思った。ぜひ会場で確かめてみてほしい。
決して勘違いしてほしくないのは、橋爪さんが偉大な藤子・F・不二雄先生のタッチを模倣しているだけではないということだ。「いろいろ聞きたいことあるんじゃないですか?」と心のうちを見透かしたように声をかけてくれた橋爪さんがテーマとしているのは、ズバリ先人へのリスペクト。過去に生まれたものに影響を受け、ブラッシュアップしたり、デフォルメしたり、地層のように積み重ねられた“オリジン“の上に現在がある。そんな中で、橋爪さんは「オリジナリティ、オリジナルとはなんだろう?」と作品を通じて鑑賞者に問いかける。
SPIRAL CAFEの席から。レセプションではゆっくりドリンクを飲みながら、作品を鑑賞できた。
好きなものを好きなように描く。というのは簡単そうに見えて難しい。それ相応の覚悟も必要だ。絵を描きたい衝動の根本が、藤子・F ・不二夫だったという橋爪さん。その端々に影響を受けながら、サンプリングの手法で藤子・F・不二夫を取り込み、自分のスタイルを確立した。そうやって、橋爪さんは「eyewater」の世界を広げている。
今回の展示は橋爪さんが求め続けるオリジナリティへの問いかけの現状における集大成であり「途中経過報告」なのだそうだ。橋爪さんの好奇心の探求は続いていく。本展でも柄を用いたり、アウトラインを曖昧にした新しい手法にもチャレンジしている。橋爪さんの作品はきっと、偉大なる先人たちと今を生きる人たちに対する、未来への贈り物のようなものだと思った。
2F・SPIRAL MARKETから。バルーンのキャラクターがのぞくように見えるのが面白い。それこそ、藤子・F・不二夫の描く、SFの世界観に入り込んだような感覚になる。
その一粒の涙の理由を自由に想像したり、「最近何かで泣いたっけ?」とか考えてみたり、実家の猫を思い出して愛しい気持ちになったり。デジャヴ(既視感)とジャメヴ(未視観)が入り混じる、ありそうでなかった不思議な感覚の作品展示。SPIRALならではの、ロケーションを活かしたダイナミックな展覧会を、自由に楽しみながら味わってほしい。
六本木のYutaka Kikutake Galleryで同時開催されている「eyewater-everybody feels the same」にも足を運んでみては。こちらは「eyewater animal」とは少し違った視点の作品を見ることができる。
■YUYA HASHIZUME 「eyewater」
開催日:2022年9月2日(金)〜9月11日(日)
会場:スパイラルガーデン
住所:東京都港区南⻘⼭5-6-23スパイラル1F
時間:11:00-20:00(閉館時間は変更される可能性があります。当⽇の営業時間は、スパイラル営業時間変更のお知らせをご確認ください)
入場料:無料
同時開催:六本木・Yutaka Kikutake Gallery 「eyewater-everybody feels the same」(9月17日まで開催中)
主催:YUYA HASHIZUME STUDIO
※お出かけの際はマスク着用の上、こまめな手洗い・手指消毒を行い、混雑する時間帯、日程を避けるなどコロナウィルス感染症対策を十分に行いましょう。
Text:Tomohisa Mochizuki
Photo:Kosuke Ookutsu