一度描いた絵をもう一度描く理由
MAHO KUBOTA GALLERYにて、武田鉄平氏の個展「近作展」が、8月27日(土)から9月24日(土)の期間で開催される。
武田氏は、一度描いた絵を再度描いてみるという独自のプロセスによって絵画を制作するアーティスト。武田氏の絵画は「いったい絵画を見ることはどういうことなのか」という、絵画の鑑賞体験への根源的な疑問をきっかけに生まれた。10年近くにわたって問い続けた、絵画の命題。それは、華やかなアートの世界から隔絶された山形のスタジオにこもり、「自らが描いた絵を再び描く」という実践において突破口を開くこととなる。「描くことを、再度描いてみる」瞬間、アーティスト自身は何を描いているということになるのだろうか。絵画を描くという行為そのものを描いた武田の肖像画の前に立ったとき、描くとはなにか、見るとはなにか、人とはなにかという根源的な問いを、鑑賞者はつきつけられることとなる。
武田氏の作品は、社会的コンテクストや哲学的視点を断ち切ったところにある、絵画の純粋体験を主題に制作されている。制作の過程としては、まず下絵となるドローイングを何十枚も描き、その中の一枚を選び出す。それをコンピュータデータに取り込み、原画の質感をデジタルの世界で最大に拡張。人の視覚体験がどのように情動に作用するかを注意深く探りながら、原画のデジタルデータを作る。次にそのデータ上の絵画を出力し、それをもとに細密画のように細い筆で細部にわたって絵の質感を再現していく。そこで新たに作品上にアウラを創出し、現実を拡張した絵画が生まれていくのだ。1点を描き終わるまでに最低でも1ヶ月、長い時は2ヶ月の時間を費やす。1枚の絵画に向かう、孤独で濃密な時間はやがて類い稀な引力をもつ絵画へと昇華し、計らずもその作品は人が絵画を捉え、自身の思考へと落とし込んでゆくまでのプロセスの実験場となる。
今回の個展で展示される8点のポートレイトは、パンデミック下の2020年から2021年にかけて描かれたもの。これらは2022年5月の「アートバーゼル 香港」にて発表され、国際的に大きな注目を集めた。また、未発表の新作1点も展示される予定。
世界で話題になった作品が、東京・神宮前のMAHO KUBOTA GALLERYに帰ってくる。アーティストが長い時間をかけて向き合った絵画の前に立つ時、私たちはどのような絵画体験と向き合うことになるのだろうか。
■クレジット
画像:武田鉄平 絵画のための絵画 033 2020 91x72.7x3cm 紙にアクリル絵具、木製パネル
©︎Keita Miyazaki / MAHO KUBOTA GALLERY
■概要
武田鉄平氏個展「近作展」
開催期間:8月27日(土)〜9月24日(土)
営業時間:12:00~19:00
開催場所:MAHO KUBOTA GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前2-4-7
電話番号:03-6434-7716
※お出かけの際はマスク着用の上、こまめな手洗い・手指消毒を行い、混雑する時間帯、日程を避けるなどコロナウィルス感染症対策を十分に行いましょう。
>>EDITOR’S VOICE
MAHO KUBOTA GALLERYからほど近いワタリウム美術館では「鈴木大拙展 Life=Zen=Art」を開催しています。アメリカの大学やヨーロッパに赴いて、大乗仏教思想とくに禅思想を講じ、世界の表現者に大きな影響をもたらした鈴木大拙。禅とアートの関係に深く触れることのできる展示となっています。
Text:Arisa Watanabe
INFORMATION
MAHO KUBOTA GALLERYにて武田鉄平氏の個展を開催
- 住所
- 東京都渋谷区神宮前2-4-7
- 電話
- 03-6434-7716
- 営業時間
- 12:00~19:00
- 定休日
- 日曜・月曜・祝日