禅は無芸術ではありえない
ワタリウム美術館では「鈴木大拙展 Life=Zen=Art」を、10月30日(日)まで開催している。
仏教学者であり、アメリカの大学やヨーロッパに赴いて、大乗仏教思想とくに禅思想を講じた鈴木大拙。禅の教えを世界に広めた導師であり、精神と物質の差異を無化してしまう「霊性」という理念を提起して近代日本思想を刷新した。晩年、アメリカで講義を行う大拙のもとに、この後、現代音楽に革命をもたらすジョン・ケージ、現代文学に革命をもたらすJ・D・サリンジャーなどが集った。大拙の教えは、現代芸術の一つの源泉でもあった。
大拙の生涯の伴侶となったビアトリスは、東洋思想に淵源する近代の総合宗教、神智学を信奉。神智学もまた、精神と物質の差異を無化してしまう「心」から、さまざまな感覚にしてイメージ、色彩にして形態が発生してくる様を具体的に説き、絵画の主題として「抽象」を選んだ表現者たちに甚大なインスピレーションを与えていた。「抽象」と東洋思想が何重にも交錯するなか、ヨーゼフ・ボイスの作品群が、ナムジュン・パイクの作品群が、続々と生み落とされていった。
また、高等中学校以来の盟友である西田幾多郎の哲学、互いに無名であった頃に書簡を交わした南方熊楠の生物学、自らの後継者と考えていた柳宗悦の民藝など、大拙からの影響は、グローバルとローカルという区別や、あらゆる表現ジャンルを超え、きわめて巨大なものであったという。本展は、鈴木大拙からはじまる表現の系譜、その未知なる可能性を、さらに未来へと切り拓いていくための試みである。
「禅は無道徳(アンモラル)であっても、無芸術(ウイザウト・アート)ではありえない。」と語る、大拙。神宮前で、禅とアートの関係性に深く触れることのできる展示となっている。
■画像クレジット(左から)
1.鈴木大拙 書「△□不異〇(色不異空)」(映像展示)鈴木大拙館蔵 ©D.T. Suzuki Museum
2.鈴木大拙 書「山是山」金沢ふるさと偉人館蔵
3.棟方志功 書「無事」1958年(陶軸:島岡達三、表装:柳宗悦) 日本民藝館蔵
4.木喰明満 「虚空菩薩像」1801年 日本民藝館蔵
5.ジョン・ケージ「マルセルについて何も言いたくない」1969年 ワタリウム美術館蔵
6.山内祥太「舞姫_Screening Edition」2022年 作家蔵
7.本を読む鈴木大拙 86才 メキシコ エーリッヒ・フロム邸にて 1956年 ©D.T. Suzuki Museum
■概要
鈴木大拙展 Life=Zen=Art
開催期間:7月12日(火)~10月30日(日)
営業時間:11:00~19:00
開催場所:ワタリウム美術館
住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6
電話番号:03-3402-3001
※お出かけの際はマスク着用の上、こまめな手洗い・手指消毒を行い、混雑する時間帯、日程を避けるなどコロナウィルス感染症対策を十分に行いましょう。
>>EDITOR’S VOICE
ワタリウム美術館の目の前にあるEUKARYOTEでは、アーティスト・山内祥太の個展を開催中。彫刻や映像を通じて、愛とユーモアと、不気味さや暴力性といった表裏一体の美しさが表現されています。
Text:Arisa Watanabe
INFORMATION
世界の表現者たちに影響をもたらした仏教学者「鈴木大拙」展をワタリウム美術館で開催中
- 住所
- 東京都渋谷区神宮前3-7-6
- 電話
- 03-3402-3001
- 営業時間
- 11:00~19:00
- 定休日
- 月曜日(7/18、9/19、10/10は開館)