あるようでない、曖昧な「記憶」の景色
MAKI Galleryでは、塔尾栞莉氏の2度目となる個展「あって ない / Atte nai」を、7月27日(水)まで開催中。表参道ギャラリーのリニューアルオープンを記念して、新作15点を発表している。
塔尾氏は、記憶のもつ儚さやつかみどころのなさ、喜びや悲しみといったあらゆる性質に焦点を当て、記憶の断片一つ一つを解きほぐして再構築していくことを芸術実践の軸としている。幼少期の写真やホームビデオの映像などの記録媒体と記憶を照らし合わせ、作家にとって大切な一瞬の光景を描いている。
塔尾氏の制作プロセスは非常に特徴的で、キャンバスにマスキングテープを等間隔に貼り付けていくことからスタートする。1マスごとにイメージを描いていき、順を追って隣のマス目が見えないようにマスキングテープを移動させながら、すべてのマス目に絵具を乗せていく。隣り合うマス目を異なる段階で塗り分け、テープと一緒に剝離した絵具の跡は、そのままに残すという。絵具が思わぬ形で剥がれ落ちて生まれる余白は、断片化や分離、そして劣化を免れない記憶の本質を映し出しているのである。
記憶の姿は抽象化され、歪み、完全な形を成すことはない。本展のタイトル「あって ない / Atte nai」が示すように、記憶はあるようでないものとも捉えられる。本展のために塔尾氏が描いた在りし日の祖父母の家の庭や、選ばれる時を待つ店先の花束など、作家は自身の記憶として色濃く残っている儚い場面一つ一つを拾い上げている。塔尾氏は、私たちの心の中に記憶が構築され、ゆっくりと薄れていき、それでも尚ぼんやりとそこに留まり続ける状態を、独自のパフォーマティブな制作プロセスで視覚化し、つなぎ合わせているのである。
国内外のアーティストの育成に力を注ぎつつ、表参道から世界へ魅力的なアートを発信し続けるMAKI Gallery。陽の光が差し込む明るいギャラリーで、塔尾氏の作品に自身の記憶を重ねてみよう。
■キャプション
画像1:Shiori Tono, ルックアットミー, 2022, Oil on canvas, 194.0 x 162.0 cm
画像2:Shiori Tono, あった庭, 2022, Oil on canvas, 130.3 x 162.0 cm
画像3:Shiori Tono, ほんの一瞬, 2021, Oil on canvas, 194.0 x 130.3 cm
画像4~7:Installation view, artwork: Shiori Tono
photo : MAKI Gallery
■概要
塔尾栞莉個展「あって ない / Atte nai」
開催期間:6月25日(土)〜7月27日(水)
営業時間:11:30~19:00
開催場所:MAKI Gallery 表参道
住所:東京都渋谷区神宮前4-11-11
電話番号:03-6434-7705
※お出かけの際はマスク着用の上、こまめな手洗い・手指消毒を行い、混雑する時間帯、日程を避けるなどコロナウィルス感染症対策を十分に行いましょう。
>>EDITOR’S VOICE
ギャラリーの裏にある表参道ヒルズでは、今年もかき氷イベントがスタート。館内のレストラン・カフェ7店舗が合同で「大人のヒミツかき氷」をテーマに、意外な食材や隠し味、驚きの組み合わせのかき氷を提供します。
Text:Arisa Watanabe
INFORMATION
塔尾栞莉の個展をMAKI Galleryで開催 表参道ギャラリーのリニューアルを記念
- 住所
- 東京都渋谷区神宮前4-11-11
- 電話
- 03-6434-7705
- 営業時間
- 11:30~19:00
- 定休日
- 日曜・月曜
