
USカルチャーの顔役たちを捉え続けたアートピース
Top Photo:Kouichi Nakazwa
「セレブは撮られるのも仕事のうちでさ、撮ることは誰にでも出来るけどどうせ同じ写真だったらカッコいい方がいいじゃん。」
そう話すのは日本とアメリカを行き来し、撮影スタイルから日常に至るまで常にアグレッシブに活動する写真家・Kouichi Nakazawa氏。Kouichi氏はコロナ禍以前は1年の約90日間をアメリカで過ごし、過去にはNYでの滞在歴もある。その中でクライアントワークとは別に、パーティや音楽フェス、ファッションウィークなどで著名なアーティスト、モデル、ファッションデザイナーといったワールドクラスのセレブを撮り続けてきた。
Kouichi氏の撮る写真にパパラッチ的な印象を抱く人は多いかもしれないが、ロンドンのメディアインタビューでもKouichi氏自身ははっきりと否定している。後述するが、それは氏が被写体と対峙する際の撮影スタンスからも明らかである。
Photo:Kouichi Nakazawa
とはいえ、時にはセキュリティに止められるようなこともしばしば。それでも自身が撮りたいと思った人物に接近してシャッターを切る。Kouichi氏の撮る写真は、オフィシャルのルックなどでは見ることができない、セレブリティたちのリアルな表情を捉え続けている。
そんなKouichi氏は1年ほど前から、自身のアーカイブしている写真に手を加え、アートピースの制作を始めた。そして、定期的に「NO CAP」という個展を開催している。現在、氏は1月17日(月)まで神宮前2丁目にあるショールームHand In Tree Showroomで1年ぶり、4回目となる個展を開催中。会期初日に足を運んだ。
ロン・ハーマン千駄ヶ谷店にほど近い会場のHand In Tree Showroom。会場にはKouichi氏が制作した作品、およそ20点がズラリと額装されて並べられている。
世界中を飛び回り、クライアントワークのかたわらで撮りためた写真には、マドンナを始め、ナオミ・キャンベル、ジャスティン・ビーバーといったスーパーセレブたちのオフショットが収められている。その写真に独自の加工を手作業で施し、写真でありながら複製ができない、1点もののアートピースへと変貌させた。
特殊な液剤を使い、全容を留めながら紙が透けるまで削るプリント手法が作品の大きな特徴。彫刻と印刷をかけあわせた“スクラッチプリント”とでも言うべきか、写真であって写真ではない、独特の風合いと質感を生み出している。
2002年、フォトグラファーM.S PARK(MICK PARK)氏のアシスタントを経て独立したKouichi氏。活躍するフィールドはファッションだけでなく音楽作品のアートワーク、エディトリアルやポートレイト、WEBメディアや広告写真など多岐に渡る。
Kouichi氏が写真を手作業で加工する作品制作を始めたのは、コロナ禍で海外への渡航が難しく仕事が出来なくなってしまった時。ロンドンのオンラインメディア&ギャラリー「ARCHIVE00」からのオファーで、オンライン展示を行ったことがきっかけだった。
その際に行われたKouichi氏のインタビュー記事が、印刷されて入り口付近に掲示されている。
記事の見出しには「 I ‘M NOT A PAPARAZZI(俺はパパラッチではない)」の文言がある。客観的な視点としてその大きな違いのひとつに、被写体になる人がどんな人であれ可能な限り声をかけ、コミュニケーションを取るということが挙げられるが、一般的なパパラッチとKouichi氏の差異について、本人にも尋ねてみた。
「簡単に言うとパパラッチは仕事でやってて、俺は仕事以外でその場所にいることかな。パパラッチは撮れた写真をその場で世界に売る商売なんだよね。でも俺は好きな時に、好きな場所で撮っていて、偶然性が伴うことも多い。俺はそれにさらに手を加えて、よりカッコいいものにして世に出したいんだよ。」
と、振り返る。
会場には飾っていない特別な作品も見せてもらった。声をかけてくれた人にだけ見せる、氏いわく“とっておき”の数点なのだそう。
作品とともに、オリジナルのプリントアイテムも販売。会場のみ数量限定のエクスクルーシブなアイテムだ。欲しい人はお早めに。
Kouichi氏が自身のグッズを販売する時の屋号「GOTHAM STORE」のスタンプを、ひとつひとつアイテムに手で押している。プリントではない質感が新鮮。アイロンでプレスするとさらに定着して洗濯しても落ちづらくなるそうだ。
人だけでなく、風景や静物をモチーフにした展示作品もいくつかある。その場所の匂いが漂ってきそうな生々しさと、ストーリーを想起させる質感から、人物が映っているものと同様に人気が高いという。
その写真が撮られた場所や人物、シチュエーションなどが事細かに直筆で綴られたガイドも置かれている。ストーリー込みで作品を買っていく人も多いそうだ。ちなみにガイドも手作りのため要返却。
この日は、Kouichi氏のNY時代からの友人が家族でご来場。久々の再会を喜び合っていた。
かつてKouichi氏が師事したM.S PARK氏もバイクで会場に駆けつけ、会場を訪れた人と談笑したり、インスタントカメラで写真を撮ってくれるという太っ腹なサービスも。
手作り感満載のKouichi氏らしいストリートなフォトブースで記念撮影。
「NO CAP(=嘘がない、リアル)」の名に違わぬ、その時々の、アメリカンポップカルチャーの最前線を捉えた作品の数々。写真に宿るスリリングな臨場感と一点づつハンドメイドで手作りしたKouichi氏の飽くなき探究心を体感できる展示となっている。
OMOHARAREALで季節ごとに表参道・原宿の景色をフォトグラファーに撮影してもらい、アーカイブしていく企画「SEASONS」。Kouichi氏には2022年の冬の写真を撮り下ろしてもらっている。
海外の街や人のリアルなワンシーンを切り取ってきたKouichi氏が、この表参道・原宿を撮ったら絶対にかっこいいものになるはず。という勝手な期待を抱き、無理を承知でお願いした次第であるが、氏は快く引き受けてくれた。
新年早々に雪の降った表参道・原宿の夜、共に散策して撮った写真の数々もぜひ観てほしい。
Photo:Kouichi Nakazawa(OMOHARAREAL:SEASONS 2022 WINTER)
■概要
Kouichi Nakazawa 『NO CAP#4』
会期:2022年1月13日(木)〜 1月17日(月)
会場:Hand In Tree Showroom
住所:東京都渋谷区神宮前2-21-21 クラーヴィア1F
開廊時間:1月13日(木)〜1月15日(土) 12:00〜20:00/1月16日(日)〜 1月17日(月)11:00〜18:00
※来場の際はマスク着用、入り口での消毒にご協力お願いします
Text:Tomohisa Mochizuki