
こけら落としに河村康輔個展「TRY SOMETHING BETTER」を開催
2010年の設立から原宿でストリートカルチャーを軸に、多様なアーティストを紹介してきたGallery Commonは場所を移して、リニューアルオープンを遂げた。カルチャーの“名門”ギャラリーの新しい門出をこの目で確かめるべく、オープン日の前日に行われたレセプションへと赴いた。
次元の裂け目に入っていくような、建物と建物の間にぽっかりと口を開けた外部階段から直接アプローチする地下空間へと降りていく。
地下と言っても、文字通りのアンダーグラウンドなイメージではなく、シェルターのようなミニマルで洗練された空間が広がる。天井も高く開放感にあふれ、一面に集約された大きな窓ガラスの外側には吹き抜けの半屋外スペースを併設。四方を建造物で囲まれていながら自然光が入るような構造になっている。
新しいCommonは、もともとあった神宮前6丁目の中心から少し離れた住宅街の一角にある。Commonを運営するクリエイティブエージェンシー en one tokyoによる他のギャラリー、The MassやStandBy、BA-TSU ART GALLERYが集まる、ショップが立ち並ぶエリアとも一線を画した場所だ。あえて人通りが少ない場所にアート拠点を設けたことで、その領域を広げた印象を受ける。
もともと、今のThe Massがある場所にCommonはあった。一軒家だった場所を改装し2010年にスタート。オープニングアーティストには、オランダ・アムステルダムのアーティストでスケーター、Parra(パラ)を紹介している。東京2020オリンピックでも注目を集めた、スケートボード競技における各国の公式ユニフォームをNikeと手がけたのは記憶に新しい。
10年の時を経て、リニューアルのこけら落としとなるオープニング展は、コラージュアーティストとして名高い河村康輔氏を招聘した。エヴァンゲリオンやAKIRAといった日本が世界に誇るアニメ作品、adidas、G-SHOCKなどとのコラボでも知られるアーティストだ。ストリートカルチャーが好きなら、一度は作品やその名前を見たことがあるだろう。たとえ知らずともプロダクトとして、もしくは氏のアートワークをどこかで目にしている可能性は大いにある。
レセプションにはほぼ定刻に着いたが、ギャラリー内はあっという間にたくさんの人で溢れた。それだけ、Commonと河村康輔氏への期待値が高いことがうかがえる。
「TRY SOMETHING BETTER」では黒と銀を基調とした「シュレッダー・コラージュ」を中心に展示している。これらは芸術的価値が低いとされる、パンフレットやアダルト雑誌をシュレッダーで裁断し張り合わせた作品だ。見過ごされるような素材に光を当て、新しい価値を生み出すその手法は、多くのストリートブランドや世界に名だたるデザイナーを輩出してきた、原宿らしさが感じ取れる。
スケートやパンク、ヒップホップを土台とするストリートの「ライブ感」を可視化する河村康輔氏と、ストリートカルチャーに接続するアーティストをキュレーションし、原宿の街から発信し続けてきたCommon。両者の相性は言わずもがな、これまで紡いできたCommonの歴史とアイデンティティを象徴するような人選はさすがである。
裁断された素材を貼り合わせることで生まれるザラついた質感と、デジタル波形のように疾走感のある輪郭や線には、音楽的なグルーヴやリズム、スケートのような「ライブ感」が確かに漂う。
マルチキャンバスの大作はその大きさと緻密さに圧倒され、息を呑む。アナログな手法を用い、創作そのものに費やした膨大なタイムラインが過去から今に繋がり、作品に圧縮されているようにも感じた。
まだ原宿の中心部にギャラリーがそれほど多くなかった頃から、ストリートのフィールドで活動するコアなアーティストをより広いマスへと発信し、接続してきたCommon。絶え間なく新しいものが生まれ、代謝し続ける原宿のように、感性に優れたアートが今後もここから発信されていくだろう。
Commonができたことにより、一帯に人の流れが生まれ、周辺にショップなども今後増えていくかもしれない。住宅街の一角の地下空間からカルチャーの芽が育まれ地上に伸びていく可能性を大いに秘めているのだ。まずはそのはじめの1歩となる展示「TRY SOMETHING BETTER」で、河村康輔氏による珠玉の作品群を楽しんでほしい。Commonにとってのより良い試みが、街にとってもいい作用を生んでくれることを信じている。
■概要
河村康輔「TRY SOMETHING BETTER」
会場:Gallery COMMON
住所:東京都渋谷区神宮前5-39-6 B1F
電話:03-6427-3827
開館時間:12:00~19:00
休館日:月・火
Text&Photo:Tomohisa Mochizuki
