新品よりイイものって何だろう?
表参道・原宿エリアは大きなグローバルアウトドアブランドや、新進のベンチャーが集まっていることから、SDGs(持続可能な開発目標)達成のため、エシカルな取り組みを行う企業が多い。OMOHARAREALでもここ最近、SDGsに配慮した商品や、施設、ブランドのニュースを扱うことが多くなったと感じている。
そんな中、アウトドア企業のパタゴニアは、リペアして長く服を着る魅力を伝える「Worn Wear(新品よりもずっといい)」キャンペーンのポップアップストアを、パタゴニア東京・渋谷1Fに、期間限定でオープンした。
パタゴニア渋谷・東京はOMOHARAREAL編集部のすぐ近く。もとよりパタゴニアユーザーではあるものの、以前から気になっていた「Worn Wear」についての知識を深めるにはいい機会だ。あわよくば、いい商品とも巡り会えるかもしれない。さっそくポップアップストアを覗いた。
「Worn Wearポップアップストア」では、パタゴニアスタッフから買い集められた中古品や、カスタマーから返品された製品を販売している。つまり、1Fフロアまるごと自社製品専門の公式古着屋になっているのだ。自社の中古品を集めたポップアップストアはアメリカで2019年に行われて以来、国内では初となる試み。
全体的には通常価格の7割〜6割、物と程度によっては5割引きくらいの価格のアイテムがズラリと並ぶ。店舗を訪れた日はレインウェアを始め、これからの季節に嬉しいアウター類が充実していた。中古品とはいえ、供給過多になってしまっては本末顛倒。製品を売りすぎてしまわないようにするため販売量を一定に保っているそうだ。「必要ないものは買わないで」というポップに「Worn Wear」のメッセージが集約されている。ちなみに「Worn」とは“使い古した”とか、“擦り切れた”を意味する言葉である。
サイズや状態によって値段が変動するのは一般的に知られる古着屋と同じシステムだが、一部の商品にそのストーリー(思い出や来歴)が記されたタグが添えられているのが特徴的。
こちらのキッズのスイムウェアはいわゆる4代目のおさがりだそう。次に購入する人は5代目となる。全然ヘタっている感じもなく耐久性の高さがうかがえる。
パタゴニアは創業者のイヴォン・シュイナードを筆頭に、地球環境への負荷を考えた、クリーンビジネスのパイオニア企業として知られる。
1970年代の創業当初から自社製品のリペア自体は行っていたのだが、2013年に「Worn Wear(新品よりもずっといい)」キャンペーンを世界的に展開開始。以来、補修を行いながら長く服を着ることを推進している。廃棄される量を減らすのはもちろん、炭素排出や廃棄物、使用される水(=フットプリント)を大幅に減らすことにつながる。
2019年には日本でも初となる「Worn Wear」ツアーが始まり全国のゲレンデを8ヵ所、同年夏に「Worn Wear College Tour」と題して11の大学を専用のトラックで回った。ブランドを問わずウェアを補修するリペアツアーだ。
ミシンを積み、日本の各地で服をリペアするパタゴニアのトラック「つぎはぎ号」。廃材のブリキと木材を再利用して、山梨県北杜市で作られた。
店内展示では、パタゴニアのアンバサダーやその家族、仕事を通じてパタゴニアのウェアに関わる様々な人たちが、着古した服とそれにまつわるストーリーを寄せる。
ユーザーのリアルな声とともにパタゴニア独自のアパレル産業との関わり方や、価値観を表す内容だ。
マネキンで展示されたウェアは購入することはできないが、リペアした箇所、ワッペンやソーイングの補修、汚れ、愛用者のアイデンティティや生き様が現れているのを間近で見ることができる。
特別に修理用ブースが設置され、実際にリペアの要望があったウェアの補修している様子をデモンストレーションとして公開。 ※修理ブースでの当日修理は行っていないので注意。リペアの受付については後述を参照してほしい。
補修は別途、直営店、もしくはオンラインから受付が可能。もちろん会場となっているパタゴニア東京・渋谷でもリペアをオーダーできるので、これを機に修理したいパタゴニアウェアを持ち込んでみるのもいいだろう。
オリジナルのソーイングキットも販売されている。自分で直せるようになったら一人前だ。
ちょうど自転車に乗る時のレインウェアを探していたので、スタッフのToshiさんに一緒に探してもらった。Toshiさんとは、ごみ拾いを切り口にキャットストリート周辺の企業やブランドと地域を繋いでいるCATs主催のクリーンアップ活動に参加した時に知り合った。
Toshiさんが提案してくれたのは、軽量かつ高機能なゴアテックス素材のパーカー。通常の半額以下の値段で購入することができた。多少、汚れはあるものの、性能的にはなんら問題なくほぼ新品同様。
購入の際にはアプリの登録が必要で、購入できる商品は一度に2点まで。返金や返品はできない。会計時、ウェアの取り扱いや洗濯方法を丁寧に説明してくれた。これから自分のウェアとして長年付き合っていくことを思うとワクワクする。ちなみにパタゴニアでは環境負荷を配慮しショッパーも廃止。小さく畳んで渡してくれる。
白馬や鎌倉といった豊かな自然を擁するエリアに、大型店やアウトレットを構えるパタゴニア。一方で、アパレルや飲食店が集まるエリアの渋谷店をポップアップストアとして選んだ理由は、次の時代を作っていく若い世代の方々に「Worn Wear」という考え方を知って欲しいからだという。アパレルや飲食店が集まる“消費”を象徴する街だからこそ、通りを行く若者がふらっとショップに立ち寄る可能性は高い。そして、そういう人にこそ、長く服を楽しむことの魅力を伝える意義があるのではないだろうか。
収益を考えれば新品を作り続ける方が簡単で効率的である。しかし、コストがかかっても、持続可能な独自の循環システムを作り上げていること自体が素晴らしい。それこそがパタゴニアブランドが同業他社からリスペクトを得ている理由であり、作り上げてきた価値なのだと思う。
「地球を救うためにビジネスを営む」をミッションとするパタゴニアの取り組みは、製品の原料、素材、生産背景と多岐に渡る。「Worn Wear」はその一端。“買う”という行為に対して選択肢を提示し、地球を救うことにつなげる。
他社に先駆けてトライし、成功例を作り上げることで「地球にいいことは企業にもいい」という説得力を生み出し業界全体に波及するのが理想だという。
「私たちだけの取り組みで終わるのではなく、産業全体にインパクトを与えたいんです」と、コミュニケーションPRを担う太宰さんは話してくれた。
寿命が終わり回収された中古品の端切れを縫い合わせ、新たな製品としてアップサイクルする「リクラフテッド」もアメリカでは展開されている。日本ではまだだが、ポップアップショップには「リクラフテッド」の見本を展示していた。
他にもパンツの端切れをつなぎ合わせたクッション、フラッグ、廃材を使ったボックスなど備品として「リクラフテッド」されたアイテムが置かれていた。
すでにギフト用のバッグやキッズのポーチなどは商品の端切れをアップサイクルしたものが採用されている。
自分自身、親からの影響もあって、幼少期から無意識的にパタゴニア製品に触れてきた。体型がほぼ変わらない中学生の頃から、未だ壊れることなく身につけているウェアもある。そんな話をすると驚かれることもしばしばだ。しかし、これからはそれが当たり前の感覚になったら、気持ち的にも環境にとっても、もっと豊かな社会になる気がする。
“新品よりもずっといい”は、“新品よりも自分らしい”ものなのかもしれない。いつか自分のストーリーを服とともに語れるようなパートナーを探しにいくなら、「Worn Wear」ポップアップストアを覗いてみることをおすすめする。ただひとつだけ、気を付けておきたい。「必要ないものは、買わないで」。
■概要
Worn Wear ポップアップストア パタゴニア東京・渋谷
期間:2021年8月20日(金)~2021年9月26日(日)
営業時間:月~金 12:00~19:00 土日祝日 11:00~18:00
定休日:9月15日(水)
準備・撤収のため休業:8月17日(火)~8月19日(木)
および9月27日(月)~9月29日(水)
住所:渋谷区神宮前6-16-8 1F
電話:03-5469-2100
※ご入店いただくお客様の数に混雑時は制限を設けさせていただきます。
※入店制限の際は、整理券を配布する場合があります。
Text:Tomohisa Mochizuki