交流を楽しむ好奇心の集会所
新型コロナウイルスパンデミックの影響で、お祭りの無い2回目の夏。情緒が感じられずに、「暑い」とうなだれているうちに、気づけばあっという間に夏が終わってしまいそう。
地域のお祭り、特に夏祭りってワクワクするよね?普段なら家にいる時間に、友達と会って、地区の集会所に行ったら大人たちがお酒を飲みながらなんだか楽しそうに談笑している。
その近くで通信ケーブルをつないでポケモンに興じていても、その日は大人に怒られないことに優越感があった。夏の夜の匂いはそんなことを思い出させてくれるし、今でも何か面白いことが起きるんじゃないかと期待してしまう。
夏祭りは無理かもしれない。しかし、せめて雰囲気だけでもと訪れたのは神宮前6丁目の裏路地にある、古民家をリノベーションした多用途イベントスペース「UNKNOWN HARAJUKU」。現在「UNKNOWN GALLERY 2021 SUMMER」が開催されている。
8月にスタートした「UNKNOWN GALLERY 2021 SUMMER」は、アーティスト・クリエイターが週替わりで参加し、ポップアップショップや個展を開くというもの。アーティストだけでなく街に縁のある人やブランドが集まるのも醍醐味だ。言わば、原宿の古民家を舞台に様々な感性が集まるカルチャーの縁日みたいなものである。
「神宮前交差点の仮囲い」の記事でも紹介したが、「UNKNOWN HARAJUKU」は、「仮囲い」と連動するプロジェクトの拠点となる。現在進行形で行われている“原宿にカルチャーの匂いを取り戻す”取り組みがどんなものなのか体感するにはうってつけの機会だ。
訪れたのは、グラフィックアーティスト・ペインターのm.j.k.(aReK)の個展「RAW RAW RAW」。この日はアートと音楽を楽しむ一夜限りのライブイベントが開催された。
Ryugo IshidaとNENEによる人気のデュオ、ゆるふわギャングも登場するとのことで、ストリートカルチャーをバックボーンに持つm.j.k.のアートとは相性が良さそうだ。普段のクラブやライブハウスとは違った空間でのパフォーマンスが観られるのは貴重なチャンスでもある。
m.j.k.はオリジナルのキャラクターをメインモチーフに、ポップでカオスな世界観と洗練された雰囲気を併せ持つ作品が魅力のアーティスト。
古民家ならではの小上がりの玄関を上がると、さっそくm.j.k.の大きな作品が出迎えてくれた。気になっていた展示だけに、生で見るその作品の迫力に圧倒された。
ジョークなのか、これも作品の一部なのか、鑑賞者を試すように添えられたスイカがノスタルジックな“お盆感”を醸し出す。
m.j.k.の描いてきた象徴的なキャラクターの一つ、「椅子」が鎮座。家具職人・富田学とともに絵の中から具現化させた作品である。会場ではこの「椅子」に腰かけ、のんびりと音楽を聴きながら過ごす来場者の姿も多く観られた。
カートゥーンのような造形ながら、無垢材の艶のある質感が古民家の雰囲気にフィットしている。購入可能で、お値段は680,000円(税込)。ちょっとお金持ってたら欲しいかも。
m.j.k.と交流の深いオールハンドメイドレザーブランド「OJAGA DESIGN」とのコラボアイテムは、受注生産でオーダーを承っていた。キャップなどのオリジナルグッズも販売。
木の梁や柱と白い壁のコントラスト、とんぼ柄の欄間と木目板で張られた床。レトロな風情にストリートカルチャーを源流とするm.j.k.の色彩とセンスを融合させた空間に仕上がっていた。
タッチや素材違いの作品が、m.j.k.のカオティックな世界を物語り、ドローイングに残る剥き出しの躍動感、生っぽい質感がスケートやストリートカルチャーの身体性を彷彿とさせる。
m.j.k.の作り上げたアート空間と共演し、彩りを添える出演アーティストはYO.AN[HOLE AND HOLLAND]、ゆるふわギャング、Shunské G&Matzuda Hiomuの3組。
EVISENを始めとするスケートブランドやLevi’s、THE NORTH FACEなどの映像作品へ楽曲提供をするDJ/音楽プロデューサーのYO.AN。国内外のレゲエ・ヒップホップ中心の選曲で会場のバイブスをじっくりと高めてくれた。
ゆるふわギャングのDJセット。NENEがレイブ感満載のハイテンポなダンスビートから、低音の効いたダウンビートまでを繰り出し、集まった観客を手玉に取るようなDJを披露した。Ryugo Ishidaはマイクで盛り上げつつ、後半はNENEのかける音楽にノって踊っていたのが素敵だった。
最後はトークボクサー※Shunské GとシンガーMatzuda Hiomuによるライブ。往年のR&Bチューンをカバーしてしっとりと。トークボックスの歌声と生の歌声のコントラストが新鮮だった。
※口にビニールチューブをくわえエフェクターとシンセサイザーを通し、歌うように共鳴させるトークボックスの演奏者。機械が歌っているかのような音を発声できる。
異なるリズムと声の音楽が、空間に飾られたm.j.k.の作品それぞれとシンクロしていたように思えた。
このライブイベントは新型コロナ感染予防対策を踏まえ、人数を限定した予約招待制。なので空間で人が埋め尽くされるなんてこともなく、余裕を持って音楽とアートを楽しむことができた。もちろん声を上げることはできないが、身体を揺らし静かにリズムを刻むオーディエンスの姿に、確かな熱を感じたのは間違いない。
近隣への騒音対策も踏まえ20時きっかりにイベントは終了。イベント中も屋外に人が集まらないよう、イベントプロデュースを手がけるチーム「DaP」のメンバーや、スタッフたちが誘導し注意喚起を積極的に行っていた。カルチャーの発信拠点とはいえこのご時世、地域への配慮やモラルを欠いては成り立たない。それが結果的に自分たちの遊び場を守ることに繋がる。
現場で出会ったのはm.j.k.と交流があるであろう、近隣のショップオーナーや、アパレルブランドのスタッフ、音楽やファッションに携わるクリエイターやアーティスト。カルチャーに関連する人たちが多数集まり、終始ハッピーなオーラでイベントを楽しんでいた。
原宿の街の中の古民家で行われたイベントは、未知なるワクワクに溢れていた幼少期、夏祭りで行く夜の集会場のように思えた。久しぶりに会う友人、知人。さらに新しく知り合う人もいて、そんな人たちと同じ空間と時間を共有する。
人に会いづらい世の中だし、大勢で集まるというのは無理にしても、ちょっとした会話や挨拶を交わすだけでも元気をもらえる。アートや音楽はもちろん素晴らしかったが、それをきっかけに人との交流が生まれるという意味で「UNKNOWN GALLERY 2021 SUMMER」は地域の夏祭りのような催しだと思った。
プロジェクトを統括するNEWPEACE Inc.田中佳佑さんは「アートや音楽を切り口として、今まで出会わなかった人が交わる場所にしたい。そしてあそこに行けば面白いことをやっているというイメージを定着させたい」と「UNKNOWN HARAJUKU」の展望を語ってくれた。今後も多様なアーティストの個展、イベントが控えているという。
夏は終わっても「UNKNOWN HARAJUKU」は続いていく。次に訪れた時、引き戸の向こうにどんな世界が広がっているか楽しみだ。
表の門が開いていたらそれは「まだ知らない原宿へ」の入り口。知らないことは怖くもあるし一方で楽しみもある。子供の頃の夏祭りの夜のように、好奇心に誘われてあなたの知らない原宿を覗いてみて欲しい。ワクワクさせてくれる人、もの、ことに出会えるかもしれない。
■概要
「UNKNOWN GALLERY 2021 SUMMER」
開催期間:2021年8月6日(金)~9月22日(水)
営業時間:12:00~20:00
住所:東京都渋谷区神宮前6-5-10
入場料:無料
定休日:木曜日