⼤正〜昭和初期に流行したテキスタイル「銘仙」の技術とスピリットを受け継ぐ
2020年3月24日(火)~2020年4月5日(日)、青山の複合文化施設「スパイラル」にて開催される予定だった東京造形大学テキスタイルデザイン専攻領域有志による企画展『これからメイセン―銘仙の源泉と変遷―』。新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となってしまいましたが、この街に展示されるはずであった学生たちの作品を、形を変えて多くの方にご覧いただけるよう、ここでご紹介することになりました。学生たちの中止に対する想いとともに、作品を知っていただければと思います。
■メイセン(銘仙)とは
大正から昭和初期にかけて女性の日常着の仕立てに重宝された絹織物。独自の染め方や織り方により複雑な図柄表現を可能にした銘仙は、多くの人々に愛され、一大ブームを巻き起こした。しかしその後、日本人の洋装化が進むにつれ需要が減少。さらには生産工程の複雑さから、その技術もいったんは途絶えてしまった。しかし近年、かつての中心的産地であった群馬・伊勢崎では、当時の技術とスピリットを現代に蘇らせる取り組みが行われている。
大正〜昭和初期に作られた銘仙
Photo:門田紘佳
■これからメイセン―銘仙の源泉と変遷―
東京造形大学と、伊勢崎で明治時代から続く「下城株式会社」との産学連携プロジェクト。学生たちは当時の技法をベースに現代のテクノロジーも取り入れ、「これからメイセン」と名付けた新しい銘仙のためのテキスタイル開発に挑んだ。本展が予定通り開催されていれば、学生たちの「これからメイセン」のほか、大正〜昭和初期に作られた銘仙のコレクションや、その生産工程、一度途絶えた銘仙の技術を復活させた「21世紀銘仙」なども紹介される予定だった。
学生たちが制作した「これからメイセン」
Photo: 門田紘佳
それでは「これからメイセン」として学生たちが開発したテキスタイルを、デザインモチーフ別にご紹介していきます。
<< ボタニカルモチーフ >>
作家:嶽元えみかさん
「植物が空間を彩るイメージ」
【作品解説】
「vert」
くつろぎをテーマに植物を描いたパターン。植物が空間を彩るイメージでデザインをしました。バスマットやピローケース、ランチョンマットやクッションカバーなどお部屋の一部に取り入れることで空間のアクセントにもなります。家に帰ってくるとホッとするような、忙しかった日を忘れてリラックスできるような空間づくりを目指しデザインしました。
【イベント中止に対する想い】
銘仙の魅力に触れていただける機会であり、私達学生の作品を学外の方に見ていただけるチャンスでもあったのでとても残念に思います。またこの様なイベントが開催できればいいなと思います。
【今後の目標】
これからも様々なことに興味を持って作品制作を続けていきたいと思います。
嶽元えみか
1999年生まれ 長崎県出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻領域 在学中
ー
作家:鎌田未波さん
「銘仙独特の絣が経糸のズレによって上手く織に表れた」
【作品解説】
「雑草」
石と石の隙間から生える雑草の生命力の強さにインスピレーションを受け制作した。筆のテクスチャを生かしたイラストレーションと暖かみのある色彩で日常に溶け込むようなデザインを目指した。色鉛筆で描いた線が消えることなく、尚且つ銘仙独特の絣が経糸のズレによって上手く織に表れていたのが良かった。
【イベント中止に対する想い】
今回このような形になってしまったのは本当に残念ですが、またどこかで展示できるような機会がありましたら是非沢山の方に見て頂いて銘仙に興味を持って頂けたらと思います。
【今後の目標】
テキスタイルデザインという枠を越えた新たな表現を目指して可能性を模索していきたい。
鎌田未波
1999年生まれ 東京都出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイル専攻領域 在学中
2020年URBAN RESEARCH GREEN DOWN PRODUCT DESIGN COMPETITION 入賞。
ー
作家:軽米かおるさん
「細かい掠れの表現や、繊細な色味に深く感銘」
【作品解説】
「タケノコ」
竹の直線的で硬い印象がきれいだなと思ったので竹をモチーフに模様を描きました。布という柔らかい支持体に硬い印象のモチーフがのることで面白い効果が生まれるのではないかと思い、竹特有の縦の流れと、エッジの効いたシルエットを意識して描きました。銘仙織の糸のずれが縦ににじんだような模様をだしてくれたので、竹らしさが増したテキスタイルになったと思います。
【イベント中止に対する想い】
11月に群馬県で、銘仙織の工房を見学し、伝統技術によって生み出される細かい掠れの表現や、繊細な色味に深く感銘を受けました。今回、自分が描いたデザインが、工房で見たのと同じ繊細な布地として生まれ変わり、とても嬉しく思います。参加者それぞれの世界観で描かれたデザインが、銘仙という共通の技術を通すことで、一体感のある作品となり、実現できていればとても面白い展示空間になったのではないかと思います。
【今後の目標】
私は糸や布といった素材の持つ繊細で柔らかい印象や、組み合わさることによって何通りもの表情を見せる性質に深い魅力を感じています。今回銘仙という技術に出会えたように、今後も繊維を取り巻く様々な技術や文化に関心を持ち、その中から新しい表現を生み出す作り手となれるよう、引き続き制作に励んで行きたいと思っています。
軽米かおる
神奈川県出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻領域 入学
武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科 編入 在学中
ー
作家:橋壁里奈さん
「私たちの様々な思いは確かに存在し続けていく」
【作品解説】
「蛇苺」
蛇苺、見たことありますか。
小さい頃、川辺に行くとよく蛇苺がなっていました。美味しそうだなと思いました。
でも、お父さんは「食べたら蛇になっちゃうよ。」と、からかいます。
何にもない川辺で、鮮やかに実る蛇苺は妙に妖しくて、本当だと思いました。
「食べてはいけない」という意味だったと今ではわかるけれど、わかっていても、小さい頃に言われたことってなんとなく意識してしまいます。
今でも見つけるとドキッとする蛇苺。赤い実が川辺を点々と彩る様子や、つぶつぶとした可愛らしさを表現しました。
【イベント中止に対する想い】
まず、この展示を一番に見せたかったのは栃木に住む家族でした。
家族あっての私は今、ここまで来ることができました、と感謝を伝える展示にもなったのではないかと思います。
銘仙の魅力を伝え、私たちの作品を多くの人に見ていただける貴重な機会は幻になってしまいましたが、銘仙を巡って生まれた私たちの様々な思いは確かに存在し続けていくでしょう。
【今後の目標】
ずっと触れていたい、ずっと使っていたいと、誰かの暮らしや記憶の一部になっていくようなテキスタイルづくりをしていきたいです。
橋壁里奈
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻領域 在学中
山梨県富士吉田市の織物産地でインターンを経験。
多趣味で、写真を撮ったり一人旅をしてみたりしながら日々物作りに励んでいる。
元々は染め物を学びたいと思っていたが、テキスタイルを学んでいくうちに織物の面白さに気づく。主なデザインソースは出身地である栃木県に関連した風景、気象、植物。
最近は匂い、記憶、感情などの目に見えないモノの表現も模索中。
ー
作家:中澤桃花さん
「優しい布から伝わる、力強いエネルギー」
【作品解説】
「a nameless flower」
いつもと同じ通学路、朝の匂いに空気の色、少しソワソワした気持ち。いつもは自信が無いけれど、今日はどうしても頑張りたい!と考えていた時、道端の木陰に隠れる小さな花を見つけました。目立つ所でも無い、名前も分からない、けれど一生懸命に咲く姿に、私も誰かに見つけて貰いたい、と前向きな気持ちになりました。そこで密かな花々から「私が主役」をテーマに布を通じて、パッと明るく背中を押してくれる様な色柄でデザインをしました。優しい布から伝わる、力強いエネルギーを感じて頂ければ嬉しいです。
【イベント中止に対する想い】
銘仙ならではの大胆で色鮮やかな織物は、見る人に必ず元気やエネルギーを与えられたと思います。
私もこの出展に選ばれた事がとても自信になった為、この度掲載される事を嬉しく思います。
【今後の目標】
努力を怠らず、デザインに対して真摯に向き合っていきたいです。
中澤桃花
1997年生 千葉県出身
東京造形大学造形学部 デザイン学科テキスタイル専攻領域 卒業
ー
<< アニマルモチーフ >>
作家:江原綾乃さん
「生き物たちがとても色鮮やかでとても印象的だった」
【作品解説】
「OKINAWA」
この作品のテーマは「OKINAWA」です。今までに沖縄県には2回ほど行ったことがあり、そこに生息する生き物たちがとても色鮮やかでとても印象的だった事を思い出し、今回このテーマに至りました。特に印象に残ったヤンバルクイナやガジュマルの木、チンアナゴなどを柄としてデザインに落とし込み、沖縄の鮮やかなイメージをデザインで表現しました。私の感じた沖縄の印象をこの作品を通して感じて頂けると幸いです。
【イベント中止に対する想い】
今回イベントが中止になってしまいとても残念です。初めて自分のデザインが実際に物となって、憧れのスパイラルガーデンで展示されることが決まった時は嬉しくて信じられませんでした。自分の作品を沢山の人に見ていただきたかったです。
【今後の目標】
作品を展示できる日を目指して、残りの大学生活を頑張りたいと思います。
江原綾乃
熊本県出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイル専攻領域 在学中
ー
作家:田尾百佳さん
「私にとって沢山の挑戦が含まれているイベント」
【作品解説】
「うさぎ恋し金魚」
金魚鉢の中で泳いでいる金魚が、十五夜の日に
「うさぎは月に住んでいる」と噂に聞き、うさぎに憧れ、金魚も一緒に月の周りを自由に泳ぎ周ってみたいと思いうさぎに思いを馳せる。という空想のお話を柄にした。
金魚との思い出はとても少ないが、知人の家に訪れた時、
空っぽでおもちゃが入っている金魚鉢を見て、
金魚鉢に住む金魚はきっと窮屈な思いをしているだろうなと思った経験がある。
そして今私自身も新しい事を知りたいという気持ちが強い。また過去に力をあまり入れなかった分野をとても勉強したいと考えている。
実際は金魚の空想とは関係ないのかもしれないが、最近の成りたい自分への願望から
生まれたお話なのではないかと私は思う。
私も自分が自由に動くことができる力がとても欲しい。
【イベント中止に対する想い】
このメイセンの応募に取り組もう思ったのは、夏休みの終わりだった覚えがあります。物づくりが楽しいのかどうかわからなくなり、好きだったものが好きと感じず苦しい時期で、目一杯リフレッシュせねば!と夏休みを過ごしていました。
そんな時にこのイベントの存在を知り、一度は応募を迷ったものの、今の状況を変えるきっかけになればと思って応募しました。
また、私にとって沢山の挑戦が含まれているイベントでもありました。
【今後の目標】
この中止になったメイセンのイベントでは、
物事の取り組み方だったり、自分のコンプレックスや弱さとの関わり方を変えるきっかけを作ってくれたイベントでした。
だからこそ開催されていたら…という思いは今も変わりませんが、イベントに関われたことで感じたことを絶対に無駄にしません。
特に、何かに挑戦する勇気を持つということは苦しい状況を変えることも出来ると実感したので、これからも大切にして持ち続けていきたいです。
田尾百佳
埼玉県出身
東京造形大学造形大学造形学部デザイン学科テキスタイル専攻領域 卒業
ー
作家:白川桃圭さん
「機会を得られたことは、作品作りへの自信に」
【作品解説】
「イネ」
鴨のいる田んぼの風景を描きました。昔ながらの日本の風景なので、型染めのようなタッチで描くことで、どこかほっこりするようなデザインを目指しました。穂が実り始め鴨も大きくなった9月頃の風景なので、夏から秋にかけての時期のインテリアや、手土産や贈り物などでお米や日本酒を包む風呂敷にしたいです。
【イベント中止に対する想い】
今はあまり見ることのない銘仙なので、知るきっかけになったらと思っていたのですが残念です。展示予定だった作品をいつか皆様に見ていただけることを願います。
【今後の目標】
今回展示はできませんでしたが、機会を得られたことは、作品作りへの自信につながりました。学外での制作を続け、また展示などができたらと思います。
白川桃圭
1999年生まれ 東京都出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻領域 在学中
ー
作家:鈴木愛加さん
「雲のようにも花のようにも見える不思議な柄」
【作品解説】
「Heaven」
服にすることを想定して、抽象的な様々な形を並び替え雲のようにも花のようにも見える不思議な柄を制作した。その中に花の咲いた草原に立つ馬を配置して、雲のような、花のような形が空めく天国のような空間に馬が一頭いる風景を描いた。経年劣化したプリントのひび割れをイメージしてひびのテクスチャを加えた。人が生きていく世界を空と大地、その間にいる生き物が時間を経るごとに様々な気持ちを擦り減らし、見た目を変えながら生きていくことを表現しようと試みた。
【イベント中止に対する想い】
自分たちのデザインが多くの人に見ていただける機会だったと思うので、残念に思います。
【今後の目標】
世の中の状況的に展示などのイベントはしずらい状況にあるので、こういう時こそSNSを使って発信していけるよう、自宅でできるクリエーションを続けていきたいです。
鈴木愛加
1996年生 神奈川県出身。東京造形大学 大学院造形研究科 デザイン専攻 テキスタイル領域在学中。
ファッションにおける身体と服の関係、生地と服の関係、自分と他者の価値観など、人と生地と服にまつわる様々な関係を考えながら、新しいバランスの服の研究を行なっている。
ー
作家:関根彩さん
「人に見て頂く機会が当たり前に用意されているものではない」
【作品解説】
「あめ玉はひかっている」
幼い頃、少女漫画雑誌の付録が楽しみで仕方ありませんでした。
封を切る時の高揚感、カラフルな消しゴムや、キラキラのシール、なんてことのないものが宝物のように思えました。
持っているだけで無敵になれるような、女の子の味方みたいな存在。
私は大人になってもそういうものたちをすてきだと思う感覚を無くさないでいたいなと思います。
そういった頃の記憶が呼び起こされ、またテキスタイルとして生活にとり入れられるような柄を目指して制作しました。
【イベント中止に対する想い】
個人的な目標として、今の世間の状況では展示やイベントとなど人に見てもらう機会がなかなかもてないと思うので、その悔しい気持ちを制作にぶつけていきたいと思います!
【今後の目標】
参加したみなさんが色々な思いで作られた作品が展示する機会を失い残念な思いです。
人に見て頂く機会が当たり前に用意されているものではないということを改めて身に染みて感じました。
関根彩
1996年生 群馬県出身
東京造形大学大学院造形学部デザイン領域テキスタイルデザイン専攻 在学中
切り絵を原画とした布の制作、研究を行なっている
ー
<< 風景モチーフ >>
作家:前場穂子さん
「身近なモチーフこそ人それぞれの捉え方がある」
【作品解説】
「tatemono to…」
建物があるところには人それぞれの日常があると思います。タイトルのtatemono to…は建物と…そこにある植物や色、空気それら日常というどこにでもある身近なモチーフをメイセンに落とし込みました。身近なモチーフこそ人それぞれの捉え方があると私は考えています。メイセンが持つ独自の織物の雰囲気やその魅力がデザインに生かされた時、生地として新たな魅力が生まれるのではないかと思い今回デザインさせて頂きました。
【イベント中止に対する想い】
大正から昭和初期、日常着として日々使われていた銘仙が現代にどう生きているか、そしてその魅力と作家事の銘仙を通して生まれたデザインが一堂に集まるイベントでした。中止になり本当に残念に思います。またこのような機会があればと思っています。
【今後の目標】
コロナウイルスの影響はクリエーターの表現の場発信の場を奪う結果となってしまいました。今出来る中での制作や発信を自宅で続けていき、今後のプロジェクトや大学院の研究発表に向けてまた動きだす事が可能になった時すぐに発信出来る様に努めていきたいです。
前場穂子
1996年生 神奈川県出身
東京造形大学大学院 造形研究科造形専攻デザイン研究領域 在学中
シルクスクリーンプリントを使用し『絵を描く様に布をプリントする、絵の様な布』『表現としての布』をテーマに制作、研究中。
絵を描く時の自由なタッチや色使いを布に落とし込み、テキスタイルならでは平面から立体への用途変化の面白さ、表現としての布のあり方を追求、研究を行なっている。
ー
作家:丸山未来さん
「絵画作品の単一性にはない強み」
【作品解説】
「GPS」
街のなかに居ると人混みと雑踏で自分がわからなくなる感覚がある。しかし私たちには橋がある、山が見える、川が流れる、潮を感じる、田が広がる、ユニークなモニュメントがそびえる、…等、人それぞれ記憶や思い出をたどれば思いのある地があると思う。それら思い起こしを振り返りどこにいても本来の自分らしく、それらしくいられる自分の場所がわかる目印のようなファブリックになればと思い描いた。
【イベント中止に対する想い】
私は絵画専攻に所属しており、銘仙について今回この企画で初めて知りました。
生産地に赴き、年代物の銘仙の展示や伝統技法で制作する職人の工房、また現在技術で工場生産される銘仙を見学しました。
私はいせさき銘仙という伝統に触れ尚且つ私のデザインで銘仙を制作するという貴重な経験ができよかったです。
この展示で私のように銘仙を知らなかった人達が知るきっかけになればと思っていましたが中止になり残念です。
【今後の目標】
私は普段、絵画作品を制作しています。これは私1人の力で完結します。しかし、今回のテキスタイル作品は私だけではなく多くの人が介在して完成しました。
また私はテキスタイルの多くの人の手に渡り美術に踏み込まない人にも生活から影響を与えるという絵画作品の単一性にはない強みがわかりました。手段は異なりますがこの経験を踏まえ、今後の制作に繋げていければ良いなと思います。
丸山未来
1998年生 長野県出身
東京造形大学造形学部美術学科 絵画専攻領域在学中
ー
作家:後藤大樹さん
「伊勢崎の街と銘仙の歴史を見守ってきた街のシンボル」
【作品解説】
「時報塔」
「銘仙織出す伊勢崎市」
群馬県民誰もが? 知ると言われる上毛かるたにも読まれるほど伊勢崎は銘仙の街です。
その銘仙の街から伊勢崎銘仙の代表的技法、併用絣が姿を消してから半世紀近く経ちます。
失われてしまった併用絣の復活のために立ち上がったのが「21世紀銘仙プロジェクト」。
「時報塔」はその「21世紀銘仙プロジェクト」のために描いた柄です。
旧時報鐘楼は100年以上前から存在する、伊勢崎の街と銘仙の歴史を見守ってきた街のシンボルです。旧時報鐘楼は復活する銘仙にうってつけのモチーフでした。
そして今回の「これからメイセン」でも「21世紀銘仙プロジェクト」と同じパターンにすることで伝統的な併用絣、ハイテク化されたプリントの差異と一致が見えたと思います。
銘仙から次世代のメイセンへ。旧時報鐘楼は銘仙の移り変わりを見守り続けてくれています。
【イベント中止に対する想い】
現在の社会状況を考え合わせ、苦渋の決断ではありましたが展覧会の中止となりました。
学生、下城株式会社の協力を得て素敵なテキスタイルが完成していたので、ご覧いただく機会が失われてしまったのは非常に残念です。
【今後の目標】
世の中が落ち着き、安心してギャラリーに足をお運びいただける状況になりましたら今回の展覧会を改めて開催できるよう努力していきたいと考えております。
後藤大樹
1979年生まれ 東京都出身
東京造形大学造形学部デザイン学科環境計画専攻卒業。
株式会社 布を経て、フリーランスのテキスタイルデザイナー
東京造形大学 特任教授 / 武蔵野美術大学 非常勤講師
ー
<< 抽象モチーフ >>
作家:池田玲さん
「子どものように楽しんでみよう」
【作品解説】
「あんなときもあった」
「子どものように描くこと」を追求していた巨匠パブロ・ピカソ。ピカソの言葉で「子供は誰でも芸術家だ。問題は大人になっても芸術家でいられるかどうかだ。」があります。子どもが天才に至るのは心が感じたままに表現しようとするところにあります。大人になると、絵を描く行為自体を楽しむ、ピュアな能力を感じたままに表現することが、難しいものになってしまいます。子どものように楽しんでみようという、その感性を大切に描きました。
【イベント中止に対する想い】
展覧会時には多くの方に足を運んでもらい、楽しんで頂けたらと思っていました。展覧会は中止になりましたがメディア掲載されるということでより多くの方に知ってもらう機会になると願っています。
【今後の目標】
テキスタイルという言葉はみなさんにとって認知度が低く、説明をしなくてもわかってもらえるように努力していきたいです。
池田玲
新潟県出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイル専攻領域在学中
ー
作家:宮田真稀さん
「がむしゃらにもの作りを続けていきたい」
【作品解説】
「bright feeling」
ウキウキしている時、ワクワクしている時、そんな時の気持ちの高鳴りを、大きく大胆な柄を描き表現しました。
毎日必ず目にするテキスタイルを通して、目にした瞬間元気になれるようなものを目指しました。
布の使用する向きによって見え方が変わる、一枚で様々な表情を魅せるテキスタイルです。
手書きならではのラインで大きな画面にお絵描きをした様な遊び心ある仕上がりです。
【イベント中止に対する想い】
デザインした柄が実際に織られ、銘仙が完成した時はすごく嬉しかったです。写真だけでは伝わならい銘仙の風合いや魅力など、より多くの人に実際に見て感じてもらいたかったです。
【今後の目標】
自分がデザインしたものを沢山の人に見てもらいたいです。今もこれからも、がむしゃらにもの作りを続けていきたいです!
宮田真稀
埼玉県出身
東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻領域 在学中
ー
作家:赤塚なつ美さん
「自分でも想像のつかなかった面白く楽しい表現が生まれた」
【作品解説】
「いろ・イロ・色」
鮮やかでポップな色彩は人々の気持ちを晴れやかにし、生活を豊かにしてくれると考えています。動きのある色とりどりの形を散りばめることで心が踊るような感覚を持たせ、眺めたり纏ったりすることで明るい気分になるようなデザインを目指しました。原画は木版で制作しており、複数の版を摺ることによる色の重なりを重視しています。完成したテキスタイルは、この木版による独特の表現と色合いに絣によるぼかしを合わせることで、木版では表すことのできない柔らかくなめらかな印象となりました。重なった色面も原画とはまた異なった色合いとなり、表現の違いによって様々な可能性があるものだと感じました。木版と銘仙の織りというなかなか組み合わせることのない技法によって、自分でも想像のつかなかった面白く楽しい表現が生まれ、作家として新しい視点を持つことができました。
【イベント中止に対する想い】
制作の際にテキスタイルのデザインや色彩を参考にすることが多く、いつか自分の作品を布にしてみたいと考えていたのでそれが実現したことがとても嬉しかったです。また青山スパイラルの展示空間が好きでよく通っていたこともあり、そこで展示ができることを楽しみにしていました。今回は中止という結果になり非常に残念ですが、普段関わることのないテキスタイルの企画に参加することで様々な経験をすることができました。
【今後の目標】
色と形による表現を木版を始め様々な技法で多様に展開していきたいです。今回制作していただいた布だけではなく立体作品の制作や野外での展示など、よりアートを身近に感じられる作品制作を行なっていきたいと考えています。
赤塚なつ美
1996年生 東京都出身
東京造形大学 大学院造形研究科 造形専攻 美術研究領域 在学中
色彩を持ったさまざまな形が重なることで起こる色調や形状の変化を木版画で表現している。
※作品のテキスタイル画像はすべて Photo: 門田紘佳
ー
展示会場のイメージ。テキスタイルが揺らめく仕掛けが施される予定だった
会場構成:Pont design office
大正〜昭和初期の銘仙着物のコレクションも展示予定だった
会場構成:Pont design office
銘仙の製造工程をイラストで紹介するコーナーのイメージ
会場構成:Pont design office
イラスト:神田亜美
展示会場エントランスのイメージ
会場構成:Pont design office
本展の会場となる予定だった複合文化施設・スパイラル
デザイン、染め、織りと、それぞれの工程に専門知識・技術が必要なテキスタイルは、一つの作品の完成までに何人もの人たちが関わります。今回は群馬・伊勢崎の企業との産学連携プロジェクトということもあり、現地で実際に職人の技術にも触れた学生たち。展示中止に対する悔しい気持ちの背景には、そんな経験を通して感じた、伝統技術を受け継ぐ職人たちへの想いもあるように感じました。
かつて大流行しつつも、一度は失われてしまった絹織物「銘仙」。過去をなぞるように再現するのではなく、これからの時代との調和をテーマに作品づくりと向き合った学生たちの挑戦と、そこに込められた想いが、多くの方に届くことを願います。
Text:Natsuno Aizawa