加えていく、新たな「質感」と「意味」
BLUM & POEにて、石川順惠の展覧会が開催。30年にわたる作家の取り組みを、一連の作品群と共に紹介する内容となっている。
石川順惠の活動は、アメリカやヨーロッパ各地で、新しい美術の可能性を模索したネオ・エクスプレッショニズム(新表現主義) の動向が席巻した1980年代後半、日本におけるニュー・ペインティングの台頭と共に始まった。それは、日本においても、バブル経済を時代背景とし、デザインや消費文化といった時代性を反映しながら、既存の美術を乗り越えていくようなシミュラークルやアポロプリエーションといった新しい美術手法が模索された時代。このような背景の中で展開されてきた石川の実践には、モダニズム絵画の歴史や、ミニマル・アートに見られるモノクローム的な空間に対する意識的な応答が明確に見られる。
本展では、非常に複雑で入り組んだ構成から成る、日本語で「非永続性」を意味する<Impermanence>と称する現在まで取り組んでいるシリーズを紹介する。今回発表する作品は、スタジオの窓から見える風景の移ろいを前にした瞑想的な状況から着想を受けて、2012年に完成されたもの。本作群では、未完成のペインティングを加筆し、すでに完成したかに見える旧作を再構成することで、これまでの作品とは異なる絵画構造を打ち出していく。
同作品群において、真っ新なキャンバスに向かうことを放棄する代わりに、砂を混ぜ質感を増した絵の具や点苔の技法を複合的に駆使し、レイヤーやグリッド、線を新たに加えていくことで、作家は「与えられた条件」に向かっていく。作家にとって、加筆という行為は、棄捐や破壊、否定を意図するものではなく、表面に加えられた色彩や、描かれた形式によって新しい絵画的な意味づけを付与していくことを表しているのだ。画面の中では、重ねられたレイヤーと下のレイヤーの構成からは、複層的な関係性が生まれている。同様に、ストライプ状の色の組み合わせは、オプティカルな混色をもたらす。
同作における自身の創作の動機について、「画面内の様々な構成要素が、独立的な存在としてありながら、様々な場所で、他の要素と多様な、独特な関係を持つ絵画を描きたいと思っている」と作家は述べている。原画だからこそ感じることができる、その独特な構造をじっくり目に焼き付けて欲しい。
>>EDITOR’S VOICE
少し涼しくなってきたこの時期のスイーツは、竹下通り「The Pie Hole Los Angeles」のパイがおすすめ。水曜日には「パイ全品食べ放題」という嬉しい企画もあるので、それに合わせて個展を観にいく日を決めるのもアリかも。
■石川順惠
1961年東京生まれ。現在は、埼玉県日高市を拠点として活動。1983年武蔵野美術大学油絵学科卒業。
80年代末から頻繁に個展を開催し、数多くの主要なグループ展にも参加している。主なグループ展に「VOCA展」上野の森美術館(東京、1995年及び1999年)、「再考:近代日本の絵画—美意識の形成と展開」東京都現代美術館/東京藝術大学大学美術館(2004年)、「絵画の力− 今日の絵画近年の新収蔵作品を中心として」いわき市立美術館(福島、2005年)「プライマリー・フィールド美術の現在− 七つの<場>との対話」神奈川県立近代美術館葉山(神奈川、2007年)、「ミニマル/ポストミニマル1970年代以降の絵画と彫刻」宇都宮美術館(栃木、2013年)などが挙げられる。また、広島市現代美術館、いわき市立美術館、神奈川県立近代美術館、国立国際美術館、セゾン現代美術館、宇都宮美術館などに作品が所蔵されている。
INFORMATION
「石川順惠」の回顧展がBLUM & POEにて開催。約30年の歴史を振り返る
- 住所
- 東京都東京都渋谷区神宮前1-14-34 5F
- 電話
- 03-3475-1631
- 営業時間
- 11:00〜19:00
- 定休日
- 月曜日、日曜日
- 開催期間
- 2018年9月1日(土)〜2018年10月20日(土)