NUMBER Aというショーケース
ところで、多才な志賀さんは、数ある業態の中からなぜ飲食店経営を選んだのだろうか。NUMBER A誕生の経緯を聞いてみると。
「NUMBER Aを作る前に、THE ROUND TABLE INC.という株式会社を作っています。空間デザイン、グラフィックデザイン、プロデュースなどを行う会社です。僕自身が様々な職を経験してきたので、内装、グラフィック、飲食、いろいろできるんですけど『できます!』って言ったところで『はいそうですか』って流されちゃうと思いました。だから、”自分たちができることを見せるショーケース”として、まずはNUMBER Aをつくることにしたんです。飲食店って一番いろんな人に集まってもらえる場所だと思ったので」
ブルーの全開きの扉が目を引くNUMBER Aの外観。オープン当時はまだ周辺にカフェはなく、裏にあるPARIYAもカフェ業態での営業はしていなかったとのこと
壁や天井の塗装からメニュー開発、テーブル、椅子、コースター、ショップカードのデザイン、ディレクションを全て自社で行い、2009年にカフェダイナー・NUMBER Aは完成。するとオープニングレセプションに訪れたUNITED ARROWSのプレス担当者からケータリングのオファーが。それをきっかけに現在に至るまでUNITED ARROWS内のいくつものブランドと空間デザインの仕事をすることに。その他にも某仏ブランドへのケータリング、OPENING CELEMONY×G.V.G.V.のルックブック制作、NUMBER AをFENDIの展示会スペースとして空間提供、アートギャラリーの設計ディレクションなど、幅広く依頼が殺到。志賀さんの目論見通り、NUMBER Aというショーケースを青山で発表することで、様々な業界に自分たちの”できること"を届けることに成功した。
「僕が生まれたのは東京でなく横浜ですし、よく遊んでる下北や三茶も、オシャレな人たちで賑わう中目黒や恵比寿も素晴らしいけれど、自分のセンスを受け入れてもらえるのはこのエリアだなというのは客観的に分かっていました。メゾンやコスメブランドがあって綺麗な印象なのに、あくまで人々はカジュアルな気持ちで過ごしてる街ですよね。余所者が余所者として穏やかに存在できるイメージです。街にいる人たちが威張っていない(笑)。調子に乗ることなくかつ感度が高く好奇心旺盛な人たちが集まっている街だと思っています。勝手にですが…」
NUMBER A店内。テーブルはすべてオリジナルの特注品
街のムードと自らのセンスの相性も分析し、満を持して出店したこだわりのNUMBER A。すると、やはり気になるのは店名の由来だろう。
「よく聞かれますが、実は『何の意味も持たせたくない 』という想いでこの名前に決めたんです。この店を出すとき『自分たちが時代時代で良いと思うものをそのときどきで出していきたい』と思いました。メニュー、スタッフ、BGMなどを店名に引っ張られないようにしたいと。例えばブルックリンほにゃららとかネーミングしちゃって、タイ料理を出したくなったときに出せなくなっちゃうのが嫌で。でも、何でもかんでも出すわけじゃなくて、『温故知新』というフードコンセプトは設けています。自分たちがちゃんと慣れ親しんでいる料理にちょっと今のエッセンスを加える形で出そうと。ポークジンジャーとかカレーとか、そういう定番のメニューをDEAN & DELUCAやCIBONE出身のシェフに中心となってもらって、開発しました」
志賀さんの言葉の節々から感じるのは、自分が心から良いと思っているものだけを披露していたい、表面的なものは提供したくない、という"作品"に対する強いポリシー。そんな彼が手掛ける、お洒落さの中に“本質”を感じさせるNUMBER Aだからこそ、このエリアで切磋琢磨する様々なブランドから信頼を獲得できているのだろう。