青山に漂う、変わらぬ空気感
入社以来、スパイラル館内で行うアートイベントはもちろん、街を絡めて展開するプロジェクトにも携わってきた小林さん。青山通りの一角を拠点に、90年代から現在まで青山エリアを眺めてきた彼は、「青山は変わらない」と話す。
「もちろん、時代によってパリ風のカフェが増えたり、高級ファッションブランドが増えたりと、店、街並みは変わってきました。でも、根本的な"空気感"は変わっていないと感じています。個性的な街には、街それぞれの空気感ってありますよね。銀座だったら銀座の、六本木だったら六本木の、といった。大手のデベロッパーにより、その空気がガラリと変わってしまうこともごく稀にありますが、青山には、落ち着きながらも感度が高いといった変わらぬ空気があり、僕はそれが好きです」
青山にもバブルの頃はバブリーな格好の人が、今なら訪日外国人が、と、時代によって街に集まる人は変わっているはずだが…変わらない空気感を作っている要素とは? 小林さんの見解は、”いる人”だ。
社長室の壁にはスパイラルの美しい平面図も飾られていた
「時の流れとともに、”来る人”は変わっていますが、その一方で”いる人”は変わっていません。つまり、住んだり働いたりしている人のタイプが変わっていないんです。昔から知名度も華もある街ですが、名を上げようとか、目立とうと狙って過ごしている人が少ない。その主張しすぎない街のムードが好きだからいる人は多いように感じます」
そう語る小林さん自身も、決してメディアに多く露出するスタンスはとっていない。そして、スパイラルの展示を見ても、決して派手に目立とうとしている印象は受けない。
spiral take art collection 2017「蒐集衆商」。撮影 : 吉澤健太
「スパイラルは当初から、"決してメジャーとは言えなくとも、コアなファンがいる前衛的なアート"を数多く紹介してきました。現代美術やデザインの展覧会をはじめ、コンテンポラリーダンスの公演やアートフェア、若手クリエータを発掘するコンペティションなど、多岐にわたります。また、このビルにはレストラン、カフェ、ショップ、多目的ホール、ネイルサロンなど、日常生活全体をアートと捉え、それらを体現できる店舗が揃っています。もしかすると『スパイラルって何をやってる場所かよく分からない』と思われている方も少なくないかもしれませんが、そういったある意味主張しすぎない雰囲気が、青山という街で受け入れられているひとつの理由のように感じます」
青山のランドマークとして十分な存在感を持ちながらも、決して目立ちたがり屋には映らない。そんなスパイラルの変わらない性質が、30年以上に渡り青山で愛されている秘密なのかもしれない。