アートと融合できる街
表参道に頻繁に訪れる人からすると「スパイラル」といえば気軽に訪れられるギャラリーであり、待ち合わせをするカフェであり、ひねりの効いたプレゼントが見つかる雑貨屋であるかもしれない。しかし、建築好きから見れば、日本のポスト・モダン建築を代表する国際的な名建築だ。1985年、当時26歳で飲食関係の仕事に就いていた小林さんは、建築家・槇文彦氏によって設計された完成直後のスパイラルを見たときの感想をこのように振り返る。
建築家・槇文彦氏によって設計されたスパイラル。撮影:加藤純平
「外観は様々な図形を組み合わせたコラージュのようで、建築そのものがアート作品。スパイラルの名の通り、自然光が降り注ぐ天井に向かって螺旋状のスロープが上昇するその様は独特で、存在感のある建物でした。また存在感といえば、デザイナー・仲條正義氏さんによるロゴに関してもそう。シンプルだけど強くて、これもデザインを超えたアート作品だと感じましたね」
小林さんがスパイラルに勤務し始めたのは、それから4年後の1989年。様々なイベントを仕掛けるプロデューサーとして入社することに。
「すでにスパイラルは東京、青山の中でも特別な空間になっていました。美術館や画廊で観ることが一般的だったアート作品を、ここでは併設するカフェでコーヒーを飲みながら愉しむことができる。今ではミュージアムカフェなどは一般的ですが、当時としては画期的な空間だったんです。高尚なものとして扱われていたアートがこんなにも身近に感じられることが非常に新しかったですね。もちろん、成立したのは青山だからこそ。この街にはもともとアートと自然に融合できるポテンシャルがあったのだと感じます。青山には感度の高い人がすでに多くいましたから、これまでに前例のないスパイラルのような施設もすぐに受け入れられたのだと思います」
1Fはカフェと展示スペースが一体となった空間。「石本藤雄展 布と陶 −冬−」展。撮影:藤牧徹也
それから約30年。今ではすっかり街に馴染む存在となったスパイラル。青山に服を買いに来た人、髪を切りに来た人、お茶をしに来た人…数え切れない人々にアート作品とのふとした出会いを提供し続けている。