キーワードは“Tシャツ”
「60年代のスヌーピー、ソウル・スタインバーグ、トミー・ウンゲラーが好き」と語る長場氏。そう聞けば、見る者に想像の余地を残した線画という点で、確かにその影響を見受けることができる。また、彼のアートワークに大きな影響を与えているのは、過去にTシャツ製作会社に勤めていたという経験。
「雑誌、広告、LINEスタンプ……掲載の形を問わず、いつもTシャツを作る感覚でイラストを描いています。長年Tシャツのデザインをしてきたので、そうするとリラックスして描けるんです。白Tにプリントされ、それを着た人が街を歩いたとき、すれ違う一瞬で人々の目を引けるかどうか。それが自分の作品をチェックする際の大きな基準のひとつになっているようにも思いますね。表参道・原宿ではみながお洒落して歩いていて今の気分を感じ取ることができるので、参考になる街です。たまに僕が作ったTシャツを着ている人を見つけて『ありがとうございます』って声を掛けたくなることも(笑)」
BEAMS×STAR WARSのコラボレーションラインでも長場氏のイラストが採用された
そう話す彼がこの日着用していたTシャツにも自身が描いたマチルダ(リュック・ベンソン監督『LEON』にて幼きナタリー・ポートマンが演じた少女)が。やはり、つい目を奪われてしまう。イラストTを爽やかに着こなす長場氏のTシャツ愛好歴は長い。
「高校は町田に通っていましたが、よく原宿まで買い物をしに来ていましたね。お金がなかったので古着屋がメイン。『DEPT』や『サンタモニカ』で古着のTシャツを買ったりしていました。最近手に入れて気に入っているのは、現代アーティスト・加賀美健さんのイラストTや、NYのプリントスタジオ『LQQK STUDIO』が自主制作したTシャツ。昔からブランドにはこだわらず、面白みを感じるTシャツを選んでいました」
そんな背景を持つイラストレーターが描く作品は、2012年に”Magazine for City Boys”をテーマにリニューアルした『POPEYE』からも注目される。2014年、初仕事で表紙を担当することに。
『POPEYE』(マガジンハウス) 2014年7月号
「リニューアルし、カルチャー誌の色が濃くなった頃からずっと憧れていた雑誌だったので、編集部から連絡が来た時はとても嬉しかったです。当初は「POPEYE SANDWITCH CLUB」をテーマにしたTシャツ製作の依頼だったのですが、いつの間にか表紙でもそのイラストを使ってもらえることになり。しかも、完成した表紙のビジュアルを見ると、僕のイラスト以外、雑誌名と特集タイトルのみという理想的な使い方で。とても感謝しています」
結果的に、シンプルながらキャラクターの物憂げな気分を感じ取れる表紙イラストは大きな話題となり、ファッション誌としてかなり珍しい企画でもあったサンドイッチ特集号は大ヒット。街で目を引くことを前提に描かれている長場氏のイラストは、書店やコンビニでもシティボーイたちの視線を集めたのであった。