36年目のワタリウム美術館「愛」と「パッション」の種を蒔き続ける

2013年 JR(ジェイアール)「世界はアートで変わっていく」展にて。和多利姉弟とフランス人アーティスト・JR。世界各地で社会的なメッセージとアート作品を残しているJRについて、これまでの活動を一堂に紹介した世界初の展覧会となった。写真提供:ワタリウム美術館
開館から35年。再開発が進み、均一化していく東京の街の中で、二人は何を見据えているのか。
恵津子:「今は便利になりすぎて、情報だけで分かった気になってしまう。でも、リアルな質感や、その場に行かなければ得られないパッションは、何物にも代えられません。ネットの情報だけではそれが感じられない。“情報”でしかなくて、信用度としては弱いなと思ってしまいます。あとは日本全体に言えることですが、お金でしか価値を計れない呪縛から、どう自由になるか。それがこれからの課題だと思います」

と、危惧する。
それに浩一氏も頷いた。
浩一:「僕らはオールドスクールだから、コミュニケーションに『愛』がないと即スルーしちゃう。100万人を相手に10億稼ぐ仕事も必要だけど、僕らは1万人と一緒にアーティストを育て、展覧会を作っていきたい。90年代に出会ってまさに今も一緒に仕事をするバリー・マッギーのように、10年に1回やってお腹いっぱいになるような、そんな稀有な連中とまた面白いことを仕掛けたいですね」

インタビューの終盤、話題はこれからの街の姿、そして未来の展望へと移った。
恵津子:「新しく建つビルや再開発にはあまり期待できないけれど、一つだけ、青山にこれから作ろうとしている公園は楽しみですね」
そういう恵津子氏に浩一氏が続ける。
浩一:「その公園というのが、建て替えが進む第一青山ビルの再開発の一環で、プロジェクトを推進する第一青山ビルの社長をやってる方は、もともと青山第一ビルにあった中井診療所の院長先生。もう98歳になるおじいちゃんなんですよ。でも、この人がとにかくカッコいい!『もともと北青山には、緑が多かった』と、自然に回帰するまちづくりを提案していて、公園を元々の倍の大きさで計画している。低層の住宅と高層ビルとの緩衝材として森を作るというんです。表参道に対するカウンター精神を感じ、カッコいいなと思いました」

変わり行く街の中でワタリウム美術館はこれからも予測不能な企画で、私たちを驚かせてくれるだろう。再開発で生まれ変わる北青山の公園や、水面下で進む新たなプロジェクト。この街に、再びどんな“水の波紋”が広がるのか。
恵津子:「中井さんのような人がいるまちづくりなら、見てみたいという気持ちになります。日本は、特に東京だとルールがありすぎて面白みのない街になってしまう。街に異質なものが入ったときの『正常な反応』を、私たちはこれからも大事にしたいと思う」
浩一:「嘆いていても仕方がないので未来に向けて、あっちこっちに種を蒔いていますよ。まあ、楽しみにしていてください」
青山で生まれ育ち、この街の変遷を最前線で作り続けてきた姉弟の瞳には、36年目も変わらぬピュアな好奇心が宿っていた。かつてキデイランドのおもちゃを壊してしまうほど夢中になった少年と、青山霊園ではしゃぎ回った少女の頃から変わっていないかのような、愛とパッションを感じた。それこそがワタリウム美術館という稀有な場所の魅力を決定付け、根っこから支えている柱なのだ。
36年目の鼓動を刻み始めたこの場所へ、ぜひ足を運んでみてほしい。そこには乾いた心を潤す、愛あふれるアートとパッションが今日も息づいている。

■ワタリウム美術館
住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6
電話番号:03-3402-3001
開館時間:11:00〜19:00
休館日:月曜日(祝祭日除く)
※年末年始は休館
入館料:
大人 1,500円 / 大人ペア 2,600円 /学生(25歳以下)・高校生・70歳以上の方・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳お持ちの方、および介助者(1名様まで)1,300円/小・中学生 500円
URL:ワタリウム美術館ウェブサイト
<記事掲載時開催中の展覧会>
■オスジェメオス+バリー・マッギー
One More 展
開催期間:
2025年10月17日(金)〜 2026年2月8日(日)
開催場所:ワタリウム美術館 + 屋外
<次回開催の展覧会>
■ジャッド| マーファ展
会期:2026年2月15日 (日) 〜 6月7日 (日)
会期中休館日:月曜日(2/23、5/4は開館)
Photo:Takashi Minekura
Interview & Text:Tomohisa Mochizuki


























