「ファッションの街」の変貌をどう見る?
その後、1984年に自身の名を冠して立ち上げたブランド「TAKEO KIKUCHI」は、当時から今に至るまで知らぬ者はいないメジャーブランドとして君臨している。「BIGI」立ち上げ時代から一貫して「誰もやっていないこと」にこだわり続け、原宿を「ファッションの街」にした巨匠。時を経て、当時からさらに街の様子は変貌したが…、実は菊池氏、ここ最近の表参道・原宿を「世界中でどこにもない街」だと評価している。
現在の表参道・原宿の魅力を"雑多感"にあると話す菊池氏
「僕は懐古主義者じゃないので、決して昔が良かったとは思っていませんよ。2000年代に海外のハイブランドが続々来て、2010年代に入るとファストファッションブランドが急増した。でも、80年代に生まれた日本のブランドも残っている。この雑多感が魅力だと思います。ヨーロッパだと旧市街と新市街で分かれちゃうものだけど、日本の街には古いもの、新しいものが混在するし、表参道・原宿においては高いもの、安いものも混ざっている。幅があるから消費者の中から新しい着こなしも生まれてきます。その価値にもっと行政も企業も気付いた方がいいと思いますよ」
そんな菊池氏、2013年には原宿の明治通り沿いに「TAKEO KIKUCHI」グローバル旗艦店としてのビルを新設。今では「AESOP」や「BLUE BOTTLE COFFEE」の設計で知られる建築家・長坂常氏(スキーマ建築計画)を起用したり、併設されるカフェは京都の人気パン屋「ル・プチメック」の西山逸成氏に任せたりと、積極的に新たな人材を採用しているように見えるが。
TAKEO KIKUCHIのグローバル旗艦店である渋谷明治通り本店
「年齢は問わず『誰もやっていないこと』をやろうとしている人を僕は尊敬しています。自分が気に入った人に仕事を頼んでいるだけなんだけど、結果的に新しい才能を起用する形になっているかな。一緒に仕事をすることはないけれど、ファッション業界で言えば高橋盾くんと宮下貴裕くんにはいつも刺激を受けています。盾くんは頭良くて天才って感じ、宮下くんはチャレンジ精神や気構えが僕に似ていると勝手に思っている(笑)。僕自身も、メインストリート沿いにガラス張りのビルを作ったんだから、人々がここを通る度に『面白い』と感じてもらえるような新たしいことを仕掛けるのが使命だと思っています」
約50年前、菊池氏のひとつのチャレンジによって、閑散としていた表参道・原宿はファッションの街へと変貌を遂げる運命となった。高さが3倍になったケヤキ並木と同様、その成長はこれからも止まることはなさそうである。今日も新たな才能が生まれ続けるこの街で、巨匠は次にどんな「誰もやっていないこと」を仕掛けるのか、楽しみにしたい。
Text:Takeshi Koh(OMOHARAREAL編集長)
Photo:Takako Iimoto