街の未来を支える才能をインキュベーションせよ
「なぜラフォーレ原宿のトップは『支配人』や『マネージャー』でなく『館長』か。それは我々が、ラフォーレ原宿という建物全体を『美術館のような存在』と捉えているからなんです。最上階のラフォーレミュージアムはそのシンボルですが、入居してくださっているショップやイベントスペースなども含めて、何かを表現・発信する場。お客様からすれば、それらに触発される施設。という考えが根底にあるんです」
2014年、株式会社ラフォーレ原宿の代表取締役社長に就任(森ビル株式会社の執行役員も兼任)した荒川氏は、2017年にラフォーレ原宿を大胆にリニューアル。その想いは?
2017年のリニューアルでは、正面エントランスの反対口に、土地の歴史を踏まえた「源氏山テラス」を設置。「明治神宮が完成してから2020年で100年。まずは我々が改めて街の歴史と向き合い、若い方々にこの街が持つ深い魅力を知ってもらうきっかけをつくれたら」と荒川氏は意気込む
「一言で言えば原点回帰。ラフォーレ原宿はファッションの宝箱であり、インキュベーション(孵化)装置でなければならない。リニューアル前のラフォーレ原宿は、いつの間にか海外から上陸した人気ブランドが大きな面積でショップを構えたりしていましたが、僕ららしく勝負するなら、やはり小さなショップをたくさん入れるべきだと。そして、新しい才能を発掘・育成することも重要な役割。2Fのフロアをすべてポップアップスペースとし、年間160の新鋭ブランドが出店する環境をつくりました」
社長就任時、同業の同じ志ある先輩から「ラフォーレの社長をやるなら、俺が知らない店を7割入れてもらわないと困る。業界の方もお客様も、ラフォーレに期待しているのはそういうことだと思う!」と言われ、気が引き締まったと語る荒川氏。「原宿という街の魅力のひとつとして『失敗してもOK』なムードがあると思いますので、多くの若い方々がチャレンジできる場になればと考えています」
また荒川氏は、入社当初に経験した「会社の枠を超えた街づくり活動」にも精力的だ。
清掃活動「Laforet HARAJUKU CLEAN KEEPERS」の活動に参加する神宮前小学校の生徒たち
「ここ最近で特に力を入れているのは、表参道ヒルズに隣接する『神宮前小学校』の生徒たちへの学びの機会の提供です。グラフィックデザイナーである押見健太郎さんと一緒にラフォーレ原宿が展開する清掃団体『クリーンキーパーズ』のユニフォームをデザインする企画や、人気雑誌の編集者と一緒に外国人向けの街案内マップをつくり表参道ヒルズで配布する企画など、様々な取り組みを行なっています。神宮前小学校の生徒たちは、この原宿という恵まれた環境で育っていて、いずれ街、日本、世界の未来を背負っていく人材。そんな子どもたちに、同じ地域にいる大人として、何か思い出や自信として残るような体験をつくる。それも街づくりだと考えています」
ラフォーレ原宿の社長として、原宿を愛する一個人として、現在もエネルギッシュに活動し続ける荒川氏。最後に、これからの街が進むべき方向について聞くと。
「ラフォーレ原宿は『ファッションラバーズファースト』を掲げていますが、街全体としては『ストリートファースト』であるべきだというのが僕の考え。今後どんなに商業ビルがたくさんできても、この街のファッション、カルチャーを生み出すのは“ストリート”であり続けるはず。ラフォーレ原宿のフロアが0.5階刻みになっていること、表参道ヒルズはスロープで全フロアが繋がっていることからも、我々は人がストリートから地続きで目的地以外を歩く大切さを知っています。商業施設の人間だからこそ、この街の美しい緑を守りながら、ストリートをより活性化させるようなことに力を注いでいけたらと思います」
学生時代から今日までこの街を歩き、走り回ってきた荒川氏ならではの言葉。仕立ての良いスーツをビシっと着こなしているにも関わらず、ラフォーレ原宿の屋上で平気な顔で地面に座り、街を眺める彼。きっと今日も街のシンボルから、ストリートに現れる新時代の表現者を探していることだろう。
Text:Takeshi koh
Photo:Yuki Maeda