カオスな街・オモハラで行われるFNO
実は軍地氏、そんなミックスファッションを誕生させた立役者でもある。日本で最もファッション感度の高い人々が集まるイベントといえば、毎年秋にオモハラ全体を使って行われるFashion’s Night Out(US版『Vogue』編集長・アナ・ウィンターが発起人となり、世界各都市で行われているショッピングイベント)だが、軍地氏が『VOGUE』を出版しているコンデナスト・ジャパンに参画したのは、日本でFNOプロジェクトが始まる1年前の2008年。(新規創刊を予定していた『GLAMOUR JAPAN』の編集長に就任したが、リーマンショックの影響で創刊がキャンセル。2011年に20代女子へ向けた『VOGUE girl』を創刊する。)
「『VOGUE girl』を立ち上げたとき、私はラグジュアリーブランドが並ぶ表参道、カジュアルブランドが並ぶ明治通り、そして109のある渋谷をセグメントするのがバカらしいと思っていて、MIU MIUと109の服を一緒に着るようなカルチャーを作りたかったんです。だから、参加店舗がラグジュアリーブランドばかりだった当初のFNOにも、普段ラグジュアリーブランドに入らないような若い子を呼べるように、ブロガーを使ってSNSで拡散したりしました。最初はシャンパンやイベント目的でもいいから、一度本物に触れる機会を持ってもらいたいと思っていました」
まだ認知度の高くなかった初期のFNOについて懐かしそうに語る軍地氏
今ではFNOは、表参道のラグジュアリーブランドから原宿のヤングブランドまで垣根を越えて600以上もの店舗が参加し、あらゆるジャンルのファッション好きで街が埋まる一大イベントに成長。現在は『VOGUE girl』を離れた軍地氏だが、この様子をどのように見ているのだろうか。
「そもそもFNOは、アメリカで起きた9.11同時多発テロ以降停滞していた経済を盛り上げようと、アナ・ウィンターが『ファッションで世の中を明るくしたい』というメッセージを発信し、世界中の関係者が賛同して成り立っているイベントですが、そこにこれだけの人が集まり、着飾ったときの高揚感を共有して、ファッションで人と人が繋がる感覚を体験できる貴重な機会になっているのを見ると、ジーンとしますね。みんなが思い思いのお洒落をしていて刺激をもらえるので、当事者でなくなったここ数年も楽しみにしているイベントです」
2011年、日本で初めて開催されたFNOには、US版『Vogue』編集長・アナ・ウィンターも来日
出典:WWD
軍地氏が『VOGUE girl』、FNOを通して女性たちに提示したファッション観は、これまで同じ街にいながらも交わらなかった人々を繋ぎ、独特かつ大きなエネルギーを生んでいる。これからもオモハラが、世界のどの国も真似できないファッションカルチャーを育てながら、世の中を明るくする街として成長し続けることを期待したい。
Text:Yukino Takakura
Photo:Munehiro Hoashi